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■■■ 「古事記」解釈 [2021.1.6] ■■■
[5] 辰砂生産能力が覇権獲得の鍵
阿波国は、中華帝国から、""国と認定されたとの一見トンデモ論を書いたが、それは太安万侶が示唆しているところでもある。📖中華帝国が倭国=ヰ国を認定

大八島國は、淡路と四国を発祥としており、その次の時代が、大陸への外洋の接点ともいえる離島郡であり、その結実が"大倭"豐秋津島とあるからだ。

さて、阿波国が中華帝国からお墨付きを得ることができた理由だが、考えられるのは辰砂を貢ぐことができた点しか考えられないのでは。"邪馬壹國 其山 丹有"と書かれていることもあるし、倭の最重要輸出産品であるのは間違いなかろう。(古い見解に基づいている解説では、日本列島内で使われている古代朱ははぼ全量大陸からの輸入とされているが、そうだとすればバーターできる産品が見つからない。"奴隷"との解説も見かけるが、小人数の単純労働力は中華帝国にとっては不要だ。普通に考えれば、皇帝の権威を高めるための、歓楽娯楽の提供者か特殊技能者であり、経済的メリットを生む交易認可のための外交的貢物だから、次元が異なる。)
大陸での丹の産地は偏在しており、中華帝国の場合、南部のヒマラヤ造山地域に求めるしか手がない。(鉱石の様はかなり異なるようだが、他の産地は環太平洋造山帯。)
従って、喉から手が出るほど、丹は貴重な品だったと考えるべきだろう。

唐代の書「酉陽雑俎」を読むと、丹/水銀を不老不死薬と見なす観念が広く受け入れられており、古くは始皇帝が東海の扶桑国に不老不死薬を求めていたくらいだから、朝貢の倭国産辰砂が魅力的に映っておかしくない。
日本列島の当初の状況からすれば、100ヶ国もがバラバラと存在していたのだから、そのなかに辰砂生産国があれば、別格扱いで対応しておかしくなかろう。

阿波が、日本列島最古級の辰砂生産地としたら、そんな地位にあったことになる。そう考えると、すべてが矛盾なくつながって来る。
だからといって、確実視できそうな推論とする訳にはいかぬが。

「今昔物語集」にしても、水銀について、阿波の言及はないのだ。伊勢だけである。
【本朝世俗部】巻二十九本朝 付悪行(盗賊譚 動物譚)
  ●[巻二十九#36]於鈴香山蜂螫殺盗人語
京に水銀商する者有けり。年来、役と商ければ、大きに富て、財多くして、家豊か也けり。伊勢の国に年来通ひ行けるに、馬百余疋に諸の絹・糸・綿・米などを負せて、常に下り上り行ける・・・
[173] 大胡蜂の襲撃
【本朝仏法部】巻十七 本朝 付仏法(地蔵菩薩霊験譚)
  ●[巻十七#13]伊勢国人依地蔵助存命語
飯高の郡には、水金を掘て、公に奉る事なむ有ける。彼の男、郡司の催に依て、水銀を掘る夫に差宛られて、同郷の者三人と列て、水銀を掘る所に行ぬ。・・・

しかし、一般に、空海後援者は丹生(=辰砂)勢力とされており、「今昔物語集」にも、それを示唆する記載がある。
【本朝仏法部】巻十一本朝 付仏法(仏教渡来〜流布史) 創建縁起譚
  ●[巻十一#25] 弘法大師始建高野山語
「此の山人は誰人ぞ」と問へば、「丹生の明神となむ申す。今の天野の宮是也。犬飼をば、高野の明神となむ申す」と云て失ぬ。


「古事記」でも、丹生を示唆する地が出て来るものの、それは阿波ではなく、紀の川上流の吉野川辺りの地。おそらく金峰域。
さらに、直接的採掘を意味する言葉ではないが、八咫烏の案内で神倭伊波禮毘古命一行が進んだ時の出会いで、"井有光"とある。この言葉は、辰砂生産を意味していると考えてよいだろう。この地では神武天皇東征以前に、この地で辰砂生産が行われていたことを示している訳だ。
生尾人。自井出來。其井有光。爾問汝誰也。答曰僕者國神。名謂井氷鹿。此者。[吉野首等祖也。]〉即入其山之。亦遇生尾人。此人。押分巖而出來。爾問汝者誰也。答曰僕者國神。名謂石押分之子。今聞天神御子幸行。故參向耳。[此者。吉野國巣之祖。]

僅かしか残存していない各国の「風土記」には、僅かではあるものの、播磨と豊後で記載が見受けられる。

播磨の場合は、威力誇示の赤色に赤土を使う話だが、防腐船底塗料でもありそう。
赤土だから、酸化鉄の弁柄の可能性もあるが、紀伊 伊都の丹生川源流域と係る話が付随するから、辰砂と見てよいだろう。
豊後の場合は、丹生産智海部郡の話であり、阿波奈佐が海部穴喰海岸だったので、海部氏がバックグラウンドにありそうで大いに気になるところだが、なんの説明もないので、両者の丹での関係性を云々するのは無理があろう。
〇釋日本紀 巻十一(播磨國風土記逸文) 爾保都比賣命
・・・ここに、赤土を出し賜ひき。其の土を天の逆鉾に塗りて、神舟の艫舳に建て、また御舟裳および御軍の著衣を染め、・・・又、海水を撹き濁して、渡り賜う時、底濳く魚、及高飛ぶ鳥等も往き來ふことなく、み前に遮ふることなく、かくして、新羅を平伏け・・・
還り上りまして、乃ち其の神を紀伊の國管川の藤代の峯(@紀伊伊都富貴)に鎮め奉りtまひき。

〇豊後國風土記 海部郡
此の郡の百姓は、竝、海邊の白水郎なり。因りて海部の郡といふ。丹生の郷、郡の西にあり。昔時の人、此の山の沙を取りて、朱砂を該てき。困りて丹生の郷といふ。

 ⇒丹生神社(二ノ宮)@大分佐野/坂ノ市 丹生川沿い
もともと、「風土記」の一大目的は、仏教施設増設用資材の調達にあると思われ、実際、その成果はすぐにあがり、大仏建立成就。銅や金の産出は有名だが、朱沙もそれに劣らず重要。アマルガム渡金には数十トンの水銀が必要となるからだ。8世紀には相当量の辰砂が生産されたと見てよいだろう。しかしながら、ここにも阿波は登場してこない。

史書でも、7世紀末現在の主要生産地は伊勢のようだが、他国も提供したと記載されており、そのなかないは伊豫國も含まれるが、阿波國は登場しない。
〇續日本紀 巻一 文武天皇 伊豫國獻鑞鑛 698年9月
令近江國獻金青。伊勢國朱沙雄黄。常陸國。備前。伊豫。日向四國朱沙。安藝長門二國金青緑青。豊後國眞朱。
〇續日本紀 巻六 元明天皇 714年5月
伊勢水銀。


一般常識とされているが、日本列島に於ける主要水銀鉱山の地は、中央構造線上。
ただ、現在鉱山と同定できる地が古代から続いているとは言い難い。
と言うのは、一般に浅くて細い鉱脈であり、露出掘・横穴/井戸型竪穴削掘になるが、いずれにしても持続的ではないからだ。周辺を探し回り、移動しながらの小規模生産により生産を維持するしかなく、地形的に適していなければ、すぐに枯渇し易いのは間違いない。このような小規模鉱山跡の確認はおそらく無理だろう。
鉱山探索は比較的容易だったと思われる。川筋の蓄積砂を検分し丹沙を発見したら、上流の露出地を探せばよいからだ。胴部も、岩石を突く錫杖さえあれば十分だろう。(持物が錫杖の弘法大師像は、そうした山師の活動の姿を象徴していると思われる。)

従って、中央構造線上の丹生川、丹生という地名に、丹生神社が残っている地には鉱山が存在した可能性が高かろう。

それを考えると、阿波は史書に登場してこないものの、日本列島最古級の辰砂生産地と見てよいのでは。実際、遺跡が発掘されているそうだし。
 阿波阿南:若杉山遺跡@水井、加茂宮ノ前遺跡

日本列島では古代から、施朱(土器や漆器塗や墳墓遺体塗布)が行われており、多くは弁柄のようだが、水銀検出が見られるから、貴重品として流通していたと見てよさそう。
朝鮮半島での報告例があるかはわからなかったが、おそらく稀なのだろう。このことは、中華帝国での風習が、古墳時代以前に直接的に日本列島に入っていたことを意味していることになろう。海部系が流通を取り仕切ったとすれば、鯨面入墨にも朱が使われていただろう。
📖丹@魏志倭人伝の読み方

そういうことで、すでに見て来た状況からすれば、この故に、阿波が中華帝国から"倭/ヰ"と呼ばれたとの推測が成り立つことになる。
そして、そのうちに、本州でも本格的な生産が行われるようになり"大倭"とされたのだろう。
 宇陀菟田…小松、大和、東郷、駒帰/神生
 桜井…多武峰/針道、飯盛塚
 大宇陀…大蔵/粟野、神戸/本郷、藤井、黒木・大東、岩清水
素直にこ状況を眺めれば、辰砂生産と輸出ルート確保能力が、古代における各国の経済力を意味していた可能性が高い。

中央構造線上を大雑把に眺めると、以下のようになる。
--- 紀伊半島(伊勢-吉野-紀の川) ---
<伊勢>
多気/飯宇丹生神社@多気
<大和>
吉野丹生川上神社@吉野東吉野, @吉野下市 & @吉野川上
宇陀丹生神社@宇陀榛原 & 丹生神社@宇陀菟田野
宇智
<紀伊>
伊都丹生都比売神社@伊都かつらぎ上天野, 丹生酒殿神社@伊都かつらぎ三谷, 丹生官省符神社@伊都九度山慈尊院, 河根丹生神社@伊都九度山河根 & 丹生神社@伊都九度山丹生川
丹生神社/伊太祁曽神社奥院@明王寺
丹生神社@田辺龍神
--- 四国 ---
<阿波>
松山丹生神社(水波能賣命)@和気
那賀丹生神社@那賀仁宇
  阿南水井鉱山(若杉山遺跡@弥生時代) 由岐鉱山
鳴門丹生神社@鳴門撫養木津
<伊予>
松山丹生神社(水波能賣命)@和気
四国は空海の伝承があり、讃岐や土佐にも丹生神社が存在するし、真言密教の寺も多く、辰砂生産に関与していそうだが、はっきりしている訳ではなさそうである。
--- 九州 ---
<豊後>
大分海部丹生神社(二ノ宮)@大分佐野/坂ノ市 丹生川沿い
<肥後>
_熊本…城南に丹生宮という地名が存在。(宮地神社)

九州〜瀬戸海地区では以下3ヶ所にも丹生神社が存在しており、水銀鉱山存在地と目される。尚、霧島姶良に"丹生附(ニッケ)"という地名があるが、丹生と関係があるのかは不明。
○肥前
藤津丹生神社@嬉野塩田etc.
   …川筋に6社ほど(虚空蔵山水源⇒丹生川⇒嬉野川⇒塩田川⇒有明海)

○日向
延岡丹生大明神社/上伊福形神社@延岡上伊形
○備前
和気(丹生神社:廃社)@和気日笠下…和気氏本貫地近辺

以下は水銀鉱山がはたして存在しているのかはっきりしない。
●近江…伊香 坂田/長浜  大津 久間多賀
●若狭…三方 遠敷
●但馬…美含/城崎
●越後…古志
●越前…敦賀


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