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■■■ 「古事記」解釈 [2021.1.20] ■■■
[19] 太安万侶の立ち位置を考えるべし
謹以獻上そろそろ、こんな話をすべき頃合いかナ、ということで。・・・

「古事記」序文と本文の差異については、すでに触れた。📖序文要約部冒頭は解題的

この乖離を最初に指摘したのは賀茂真淵[1697-1769年]とされており、それこそ議論され尽くしていておかしくない題材といえよう。
しかし、そのお蔭で、この論が問題を残すことになってしまった。序文は後世の偽作という主張を同時に行ったからである。

こうなると、議論は底なし。
偽作の明らかな証拠を示したのではなく、単に序文・本文でスタイルと叙述内容に違いが大きすぎると言うのが唯一の論拠なのだから。
「古事記」に限らず、この手の主張はいくらでも可能だから、イデオローグが言い出せば、思想統制を図らない限り収集がつかなくなるのは自明。・・・それなら、本文も偽作と見るべしとの主張も十分以上の説得性が生まれてしまうし、そこまでいかなくても、矛盾と読める箇所には事欠かないから、それこそ様々な箇所で各種の改竄説が生まれてしまうからだ。
結局、こうした議論の行きつく先は、それぞれのイデオローグが率いる学派のバトル。

小生は、この手のバトルには全く興味がないが、世間一般的にはそれが大好きな人だらけなのは間違いない。ただ、そうと口にはしないから、本人的にはそう思っていないのかも知れぬが。

そんな状態になってしまうのは、おそらく、イデオローグでは無いとの風情の書き方で、強烈なイデオロギー叩き込みを行うスタイルが好まれる社会だからだろう。書店に並ぶ数多くの本を手に取って、パラパラ頁を巡ればそうした状況はすぐにわかる。
例えば、ココは大衆受けを狙ってこのように書いてある、といった説明や、海外向けに皇統正統性を打ち出すための記述と見られるとの、見解が必ずといってよいほど含まれているからだ。
小生から見れば真正イデオローグそのものだが、逆に、ママ読む人をイデオローグと見なしているのである。
常識的にみて、「古事記」が大衆向けに書かれた書とは思えないし、日本人でも苦労する和文の書が海外向けの筈もなかろうと思うが。

・・・小生は、この姿勢で「古事記」を読むなら、価値はほとんど無いと考える。
大衆受けや威光発揮を狙うのは、官僚が英知を振り絞ってまとめる公的史書。ある意味、都合よき真実化を進めているのだが、それはある意味当然のことでは。
人々の価値観を揃え、社会の安定化を図る儒教的合理性そのものだからだ。そのための公的「史書」作りとその普及こそ、官僚の重要な仕事でもある。

長々書いているが、単純な話。・・・
「古事記」は公的史書ではないから、「日本書紀」と同等に扱うべきではないというに過ぎない。

換言すれば、日本の歴史を知りたいなら、「日本書紀」を読むべしということ。国家が分裂状態に陥っていない限り、並び立つ類似史書の存在が許される筈がないからだ。

にもかかわらず、何故に、太安万侶は、そこまでして非史書を編纂したかったかのか。そして、見かけ上「日本書紀」とよく似ている書の編纂が許可された理由は何か。
「古事記」を読むなら、先ずは、この答を自分なりに用意すべきでは。

小生は、"歴史観を伝えておきたかったから。"と見ている。
どうして、承認されたかを考えると、それ以外には思いつかないからでもある。

太安万侶は、「日本書紀」編纂者でもあり、勅命を受けて暗記した稗田阿禮の文を別途残しておくべきと主張したので、受け入れざるを得なかったと見るのである。
  三卷謹以獻上 臣安萬侶 誠惶誠恐 頓首頓首
そう思うのは、「古事記」編纂時に、すでに史書編纂に向けた議論が始まっていておかしくないので、そこで明らかになった問題箇所の削除や、皇族と特別認可された臣以外には公開すべきでない書とすべしと、太安万侶自身が主張したと見るから。これなら、皆、納得だろうし。
そう読むのは、「日本書紀」成立を一番望んでいた人こそ、太安万侶と想定するからでもある。

時代背景を考えればそうとしか思えないのだ。
日本が、国家としてただならぬ状況に直面しているとの危機感を覚えない訳がなかろう、ということで。・・・中華帝国の朝鮮半島実質支配化の動きに対抗できる軍事力を持っていないことを認識させられば、先ずは外交的対処で動くしかなかろう。そのためには中華帝国的価値観で編纂した公的史書が不可欠と考えるのは、知識人なら当たり前。

おそらく、「日本書紀」成立の成果は十分あったのである。

だからこそ、「王年代紀」で、同じ手を使ってみたのだと思う。この場合は、端から国交樹立の意志などなく、私的交易で丁重に扱わせるための策と言ってよさそうだが。📖「王年代紀」有難きかつ意義なし的
結果、この場合も、コトは思惑通りに運んだようだ。当然ながら、その後、「王年代紀」に関心を払う人が居る訳もない。

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