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■■■ 「古事記」解釈 [2021.8.18] ■■■
[229] 稗田阿礼猿女説は当たり且つ外れだろう
🐒稗田阿礼は猿女氏族で女性だったというような言説があるようだ。気にもとめないでいたが、ある意味、1世紀以上に渡って、堆く摘みあがって来た「古事記」研究の"成果"の象徴とも言えるので、取り上げてみたい。

言い方を変えれば、「古事記」研究とは儒教道徳に従って権限実直に行うものと云いつつ、熊楠翁が指摘するようにその実態は違っており、猿女説は一種の揶揄的現象でもあると見た、ということ。

以下、小生の実感から来る自信ある推定。・・・

結論は1行につきる。
 稗田阿礼は男性だが、猿女をしたことがある。

この様に書くと、違和感を覚えるだろうが、猿女とは氏族名ではなく、女職名だからだ。もちろん女性である。(実際、延喜式に大嘗祭式・鎮魂祭式での舞担当とされている。職員令では頭一人女王と記載とのこと。)

  故 爾詔天宇受賣:
  「此立御前 所仕奉猨田毘古大~者 專所顯申之汝送奉
   亦 其~御名者 汝負仕奉」
  是以猨女君等 負其猨田毘古之男~名 而 女呼猨女君之事是也


それでは、猿女の職は何か。
祭祀用装身具を着けて踊るのだから、いかにも巫女的であり、そのような意味も兼ねているとはいえ、事実上の卑猥なストリップそのもので道化を演じたと言ってよかろう。神祇の式典で伏せた桶[汙氣]をしつらえて、その上で足踏み踊りを奉納するなど尋常では考えにく訳で。
だからこそ、観客の神々を大いに沸かせたのであるし。

  爾 高天原動而 八百萬~共咲

その道化だが、西欧語の訳語として使われているが、歌舞伎用語の転用と考えられている。(語源ははっきりしないが、始祖は猿若。)・・・エロスが係わることが多いが、童戯・愚行をすることで、猥雑で滑稽さを打ち出す行為をのことになる。
但し、これだけでは語義としては不十分であり、本来的には、道化を行う尾大人には必ず主人が存在しており、経済的に自立していないし、表だって登場すること無い存在とう点を見逃すべきではない。だからそ、馬鹿な真似をしても生活を持できるのである。

これだけで、結構、参考になるのでは。

中華帝国でも帝室には必ず、身分が低い、道化者がいたようで、座に呼ばれて勝手な振る舞いをしたようだ。その場で、皆の笑いを誘う役割である。失敗すれば、皇帝の起源を損ねることになる訳で真剣勝負。もちろん、エロだけではなく、辛辣な政治姿勢の風刺も多用され。度が過ぎることもあって、即刻処刑されたりも。だが、どうあれ、常識的ルールを破る行為が要求されるのである。(宦官はそこらが発祥とも考えられる。)

要するに、破目を外す行為が許されたということ。

稗田阿礼は語り部として、天武天皇の舎人の一員となっているものの、人名が記録上トレースできない。つまり身分自体は低いが、天皇お気に入りの御側御用人ということになろう。
その名前の、稗は穀物だが、出自の場所は稲田域だから、この文字で奴婢的階層を暗示している可能性があろう。
  賣太神社@大和郡山稗田(御祭神:稗田阿礼)
語り部ではあったものの、時には道化役も果たしていた可能性があろう。道化専業と言う訳ではないから、その内容は、エスプリを利かしたお道化でしかなかったろうが。
とはいえ、そうそう出番がある訳でもないだろうし、関心を払う人がいる訳でもなかろうから、目立つこともない裏方の一人でしかなかったろうが、太安万侶が語り部から聴取する段になり、色々話を聞くうち大ファンになったのではなかろうか。

ただ、道化は本朝では成り立ちにくい側面がある。社会通念を反故にする行為を平然と行うことを許すには、絶対的権力が必要であり、天宇受賣にしてもも天照大御神のお付でこそできた仕業。
天武天皇は可能だが、一般的には難しかろう。従って、道化は猥雑・滑稽を薄めた娯楽に衣替えするしかなく、猿女職も官僚ヒエラルキーの中に位置付けられているので廃止はされないが、内容は娯楽的舞踏へと変わっていったと考えるのだ自然だ。
語り部という職種も天武天皇代からの文書化の流れで、転身を要求されたのであろうから、歌謡に転身するしかなかろう。
両者は近しい関係が形成されるのは当たり前ではなかろうか。

太安万侶についてはすでに触れているが📖序文要約部冒頭は解題的
、インターナショナル化で多家も転換を余儀なくされていたのは間違いなかろう。
「楽家録」1690年によれば、多家は神楽歌舞の京方となっており、平安朝時にすでに担当だったと見てよさそう。
本貫地は奈良盆地中心部でもあり、最古の氏族。(神八井耳命は意富臣[=多氏]の祖)📖「欠史八代」という安直な解釈は無意味
当然ながら、雅楽の御神楽の始祖とされた筈で、実際、古代から中央での祭祀役だったのだろう。
  多坐弥志理都比古神社@磯城田原本多字宮ノ内/大和国十市郡飫富郷
  (御祭神:多氏祖神神八井耳命+父神倭磐余彦尊+弟神沼河耳命+祖母姫御神)
   【摂社】小杜神社(本居宣長説御祭神:太安万侶)/木下樹森春日戸坐神社

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