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■■■ 「古事記」解釈 [2021.8.24] ■■■
[235] 蚕女・大気都比売・三色奇虫の関係
全体を俯瞰的に見ることができるようになると、色々な気付きが生まれてくる。

"(卵⇒)芋虫⇒繭⇒蛾"の3変態の虫の話があるが、📖有變三色之奇虫の驚きとは日本固有の天蚕であると考えた。この虫のお蔭で、天皇は大后との関係をある程度修復できたというストーリーである。

太安万侶流石と思ったのは、養蚕を示唆する話に仕立てていない点。

と言っても、虫食は別として、生活上重要なのは家蚕と日本蜜蜂だけなので、他に有り得ないのは自明であろう。(トンボは例外的存在で、セミは道教概念であり、他は害虫扱いと言ってよかろう。)

この"天蚕"の記載のどこが凄いかといえば、この存在で蚕が3種類存在していることがわかってくるからである。
"天蚕"はその表記からわかるように、素晴らしい質の糸を作ることができる点。しかし、当然ながら生産性は極めて低い。織った布は、特別仕様であり、祭祀用に使うしかない。この皇后は、その辺りの事情はご存じだった筈。儀式の手配等はすべて執り行っていたのだから。ある意味、天皇はこの皇后の力を借りないと儀式運営さえ難しかったと言えそう。
それでは、普通に呼ぶ蚕とはなにかと言えば、"家蚕"である。もともとは、"桑蚕"であるが、質が低い糸を少量生産できるだけで、手間の割にはほとんど成果が得られなかったと見られている。それを、選抜することで、生み出したのが"家蚕"ということになる。

その家蚕が、須佐之男命に様々な食物を与えた大気都比売神の遺骸から生まれたとされる種。
伊予之二名島の阿波国の別名でもあるのがわかりにくい箇所だ。
鼻・口・尻から食材を取り出して調理したので穢らわしいとして殺害されてしまうが、遺骸の目・耳・鼻・陰部・尻から穀と豆の種が生まれる。ところが、それに加えて頭から蚕も。
すべて、渡来ということだろう。

しかし、この渡来以前、すでに~御衣を織っていたことが記載されている。須佐之男命は神聖は織物屋を穢したことで高天原から追放になる話で登場する。・・・
  轉 天照大御~坐忌服屋 而 令織~御衣之時
  穿其服屋之頂 逆剥天斑馬剥 而 所墮入時
  天服織女見驚 而 於梭衝陰上 而 死

蚕渡来前なら、麻であるのは間違いないところ。

ところが、実は、そうとも言えないのである。

須佐之男命の所業は逆剥天斑馬剥だからだ。

残虐行為による嫌がらせと考えることになるが、これは有名な蚕女譚{干寶:「捜神記」卷十四]を示唆しているのは明らか。・・・
戲言で出かけた父を呼び返したら結婚すると約束したにもかかわらず、馬に連れ戻された父は殺害していまったため、娘は馬皮に包まれて消え失せてしまった。発見された遺体は蠶と化しており糸が吐き出されたという有名な伝承話があるからだ。[「周禮」:教人職掌,票原蠶者。注云:"物莫能兩大,禁原蠶者,為其傷馬也。"]
中華帝国にとって、蚕は極めて重要であり、だからこそのシルクロードという名称も生まれたのである。「酉陽雑俎」にも、巨蚕の話が収録されている位だ。📖欲深の真似ごと説話

蚕女の話を知れば、逆剥とは馬の生き返り呪術的なものを意味すると考えるしかなかろう。供犠の馬から皮革を取るのは臀部から行うのが普通だが、頭から行えば一種の脱皮行為を行っていることになるからだ。そんな皮が屋根から放り込まれたのだから、馬霊が降りて織屋で馬婚が成立してしまうことになる。
梭で陰部を衝いてしまうというのは、奇異な話ではないことがわかる。

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