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■■■ 「古事記」解釈 [2022.3.7] ■■■
[430][安万侶サロン]猪甘は浅ましき輩ではない
折角だから、もう一つ地名譚を取り上げておこう。・・・
≪袁祁之石巢別命≫
初天皇逢難逃時 求奪其御粮
猪甘老人是得求
喚上而斬於
飛鳥河之河原
皆斷其族之膝筋
是以至今其子孫上於倭之日必自跛也 故 能見"志米岐"其老所在

故 其地謂【志米須】
この<猪甘老人>は前段で登場する。
於是 市邊王之王子等意祁王袁祁王<二柱>
聞此亂 而 逃去
故到
山代苅羽井食御粮之時
面黥老人來奪其粮
爾 其二王言:
「不惜粮 然汝者誰人」
答曰:
「我者
山代之猪甘也」
故逃
玖須婆之河
至針間國


逃亡2王子は、旅行食である糒(御粮)を食すために木津川そば(相良郡〜綴喜郡〜久世郡と思うが、事典では城陽の宇治川そばとされている。)の井戸で一休みしたのだろう。太安万侶は泉津から針間への交通幹線沿いの地と解釈した筈である。
猪甘とは、おそらく、その井戸管理者。名称からして、山代地区のイノシシ捕獲+ウリ坊飼育の部民と思われる。
📖猪の扱いで見えて来る動物観
そうなると、井戸は飼育用だろうから、認可無しに勝手に井戸水を使うことはご法度。従って、井戸水で糒をふやかしていれば、罰として"粮"を取り上げ猪の餌とするのは理に適っている。ここで海人でもないのに黥面なのは天皇直轄の猪肉奉納役であることを示すための装飾だろう。従って、堂々と名乗る訳だ。(「今昔物語集」からすると、葬儀関係者と食肉扱い者は、地位的には賤民である。)
現代のお話だと、とんでもなき浅ましき輩と映るだろうが、小それは間違っているのでは。
王子が「不惜粮」と語っているのは、「食べ物などお前にくれてやる。」との強がりを示したのではなく、"御用達猪"の飲料水を使うなとの態度で、折角作った食事を取り上げられて立腹しているだけのことだろう。

そして、再び、【屎褌】こと【久須婆】が通り道になっている。一応、樟葉の地とするが📖[安万侶サロン]大虐殺万歳譚、ここで渡河となる。そこで一安心というところだろう。

猪甘老人は捜索され捕捉の身となり、処刑とされるが、太安万侶はそう書いている訳ではない。巫女が父の遺骸を発見するのとは違い、子供の頃すでに老人だったのであり、若年即位などあり得ないから、当人ではなく代理であろう。儒教国家ではないから、賤民一族抹消に踏み切るつもりなどもともとない筈で、猪奉納時に跛(足萎え)の儀式を行わせることで罪とすることで天皇としての威厳を保ってと考えたのだろう。
「老人が居た所をよく"見しめき"」から来た【志米須】が地名というのは、ナンだかねの類に近いが、話の流れからすると、河原の処刑地を<しめす>と呼んだのではなかろうか。

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