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■■■ 「古事記」解釈 [2022.5.19] ■■■
[503]"安川"について
日本列島の川の源流たる山地は、標高1000〜3000mだ。ところが、それに比して、河川の長さは短く、その上に河川敷〜流域も猫の額程度。大雨が降れば、たちどころに氾濫が発生する。従って、原理的に、完全防御を狙う治水は無理筋。(流れを変える手での洪水量調整工事や、人的被害回避の周到な退避策が実践的対処となる。洪水防御は所詮は生きている世代の時間稼ぎで、さらなる大洪水を招くことになるからだ。)
従って、"安川"との名前は夢物語の産物としか思えず、そのような命名がなされることは考えにくい。
しかし、僅少とは言え、皆無ではない。・・・
 <河川名>
  豊橋…豊川水系間川支流
  田辺…日置川水系
  広島安佐南…太田川水系古川支流
 <地名>
  富山 砺波
  福井 大飯
  兵庫 佐用

常識的には"やす川"と云う名称を漢字表記すれば、以下の川名になろう。
  野洲川/八洲川@御在所山源流〜琵琶湖流出…淀川系

「古事記」【地名】では天安河が登場するが、やす八洲やす (八十やそは無理だろう。)という、借字(当て音)と思われる。呉音の音素表記文字ではなく、翻訳文字(平安の意味)ということになる。
  やす-きやす-きかた-き
後世、音素文字(単音)として、"安"を"あ"としている以上、2音素の訓仮名と見るしかなかろう。
  [巻一#53]安礼衝哉[生れつぐや]
 📖[安万侶文法]"ア"と"あ"を規定 📖[安万侶文法]母音初音は阿

極めて重要な地名であるから、「萬葉集」でも登場すると思ってしまうが、そのように考えてよいのか、大いなる疑問が生じてしまう。
なんとか、該当すると言えそうな歌を探すと、以下の3首になってしまうからだ。・・・
  [巻十八#4125]天照らす 神の御代より 安の川[夜洲能河波] 中に隔てて 向かひ立ち・・・ 大伴家持
  [巻十八#4127]安の川[夜須能河波] い向かひ立ちて・・・ 大伴家持
  [巻二#167]天河原尓 (「柿本朝臣人麻呂歌集」)
上記にしても、天安河で男女が向かい合うというシーンは、「古事記」からは想定しがたい。川で隔てられた男女というモチーフは明らかに牽牛・織女であり、そのような別離譚との類似性を示唆する記載は皆無だからだ。
要するに、「萬葉集」では中華帝国で生まれた"天の川"(牽牛/牛郎-織女を隔てる天に存在する川)を題材にしているだけで、それは天安河とは何の関係も無い可能性が高いと云うこと。その漢字表記からして、高天原とは無縁と考えるべきでは。
  [巻八#1518]天の川[天漢]・・・ 山上憶良
    【注】天漢/銀漢/雲漢/銀浪/銀河/星河は漢籍の詞語。


天安河とは違うことが歴然としているのが次の歌。・・・
  [巻十#2089]天地の 初めの時ゆ 天の川[天漢] い向かひ居りて 一年に 二度逢わぬ 妻恋に 物思ふ人 天の川[天漢] 安の川原の[安乃川原乃] あり通ふ・・・
「萬葉集」巻十には【七夕歌】/乞巧節歌(犧牲天神祭祀+婦女供犠河神儀式)が98首が収録されており、前半38首は「柿本朝臣人麻呂歌集」出で、他は作者不詳。一部引いておこう。
  [巻十#1996]天の川[天漢] 水さへに照る 舟泊てて  @歌集
  [巻十#1997]天の川原に[天漢原丹]  @歌集
  [巻十#2000]天の川[天漢] 安の渡りに  @歌集
  [巻十#2001]天の川道を[天漢道]  @歌集
  [巻十#2019]天の川津に[天河津尓]  @歌集
  [巻十#2033]天の川[天漢] 安の川原に[安川原]  @歌集
  [巻十#2040]安の川門に[天漢門尓]
  [巻十#2042]天の川[天漢] 舟出早せよ
水無川と云うことで、多少毛色が違う歌もあるが。
  [巻十#2007]久方 天印等 水無川 隔而置之 神世之恨 @歌集

<再掲>
≪安[=宀+女][後の平仮名]あ≫
  [意味] …家のなかに女が居る。
   安全 安逸 安泰 平安 保安 安国 安易
  [音]アン
  [訓]やす-い やす-らか いず-く いず-くにか いず-くんぞ
--- 「古事記」用例 ---
【人名/氏族名】萬侶 近淡海之直之祖 近淡海之國造之祖 建波邇
【地名】河 越高
【意味】平/國家平也 於是其身如本以平也 其呉人置於呉原

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