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■■■ 「古事記」解釈 [2022.7.26] ■■■
[571]Not表記は検討の価値があるかも
<莫・勿><無/无><非><不・未>の7語について触れたが、あくまでも「古事記」用例を眺めたに過ぎず、漢字そのものについての検討は難しいので避けた。📖[安万侶文法]否定辞7語の用法確立

「万葉用字格」を参考にして眺めていると、<不>の用法が結構多いので、色々と感じさせられることもあり、素人的でも漢字分類を作っておくかという気になった。
以下適当に名付けたものだが、太安万侶にはこの辺りのセンスがありそうだ。もしそうだとすると、漢語と倭語に類似の概念が存在すると見ていたとも言え、pmとsnで音の系列は全く違うものの、音声的に分岐しただけと考えていた可能性もあるかも。
---p系---
【単純否定詞】
  古pɯ [呉音]フ ホチ
  ⇒不+口=<否> [呉音]
  ⇒不+之=古pɯd [呉音]ホチ
【反転詞】
  <非> [呉音]
---m系---
【行為・状況否定詞】
  毋/⽏/⺟古ma[呉音]
    ≒<無> [呉音]
    ⇒<无>[呉音]
  ⇒毋+之=古mɯd [呉音]モチ
【行為非完了詞】
  古mɯds [呉音]
【反対表意詞】
  古mɯl [呉音]
  古mral? [呉音]
【消滅詞】
  古maŋ [呉音]マゥ ム
  古mɯːd [呉音]モツ モチ
【非存在詞】
  古maːɡ [呉音]マク モ

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<さ項>
     [正訓]不怜サブシ 見十方不怜(見れども寂し)[巻三#437]
     [正訓]不樂サブシ 無而不樂毛(なくて寂しも)[巻三#257]
     [約訓]不開有之サガザリシ 〃(咲かずありし)[巻三#257]
<し項>
     [正訓]不知シラニ 不知等妹之(知らにと妹が)[巻二#223]
     [正訓]隠不得シヌバズ 吾者隠不得(我れは忍びず)[巻十一#2752]
     [正訓]不竊隠シヌバズ 〃(ぬすまはず)[巻十一#2470]
     [正訓]白不シラズ 去邊白不母(ゆくへ知らずも)[巻三#264]
     [義訓]不顔面シヌべハ 人不顏面(人には忍び)[巻十一#2478]
     [正訓]
 【じ】
告其妹曰女人先言不良
<す項>
     [正訓]
 【ず】
答八十神 言吾者不聞汝等之言
<た項>
     [義訓]不通タエ 不通有之(淀めりし)[巻十二#2988]
     [義訓]不令恃タノメズ 不令恃者(頼めずは)[巻四#620]
<つ項>
     [正訓]盡不得物ツキセヌモノハ 〃(尽しえぬものは)[巻十一#2442]
     [義訓]不止ツ子ニ 不止将通(やまず通はむ)[巻三#324]
<て項>
     [正訓]不曜テラズ 不曜十方余思(照らずともよし)[巻六#1039]
<と項>
     [正訓]不時トキジク 不時如(時じきがごと)[巻一#26]
     [義訓]不語トハズ 〃(語らはず)[巻十三#3276]
     [義訓]不定トキワカズ 時不定鳴(時わかず鳴く)[巻六#961]
     [義訓]不御問トハサズ 御言不御問(御言問はさぬ)[巻二#167]
<な項>
     [正訓]  二八十一不在國(憎くあらなくに)[巻十一#2542]
     [正訓]  吾莫勿久尓(我なけなくに) [巻一#77]
     [正訓]  為便乎無三 [巻十二#2901]
     [正訓]  妹毛有勿久尓 [巻一#75]
     [借訓]  莫津左比曽来之(なづさひぞ来し) [[巻六#1016]
 【な】
往黃泉國・・・爾 伊邪那美命 答白:「・・・莫視我」如此白
卽 布刀玉命 以尻"久米"繩 控度其御後方 白言:「從此以內 不得還入」
爾將方產之時白其日子言:「・・・願勿見妾」
如此歌參歸白之:「我天皇之御子 於伊呂兄王无及兵・・・」
<ぬ項>
     [正訓]
 【ぬ】
海鼠不白 爾天宇受賣命 謂海鼠 云此口乎 不答之口而
<ね項>
     [義訓]不勝宿者子ラレ子バ 寐乃不勝宿者(寐の寝かてねば)[巻三#388]
     [正訓]
 【ね】
於今者 山田之曾富騰者也 此神者 足雖不行
<は項>
     [正訓]不著ハカズ 不著雖行(はかず行けども)[九#1807]
<ひ項>
     [n.a.]  我佐不之毛(我れは寂しも)[巻十八#4074]
<ふ項>
     [正音]   不盡能高嶺者(富士の高嶺を)[巻三#317]
<ま項>
     [正訓]不奉仕マツロハヌ 〃(奉ろはぬ)[巻二#199]
     -----
     [正音]
     [借訓]マク  散莫惜毛(散らまく惜しも)[巻八#1517]
<み項>
     [正音]
     [正音]
<む項>
     [正音] 🈚📖「古事記」は同音異義語創出の祖
<も項>
     [正音]
     [略音]

【付記】「万葉用字格」は辞書的に編纂されているというに、素人が見ても疑問な箇所が散見される。対象量が膨大なので網羅性は無理があるものの、その点でのカバーの仕方がいかにも難ありに映る。分類の概念も不明瞭と言わざるを得ない。しかし、特定のカテゴリーと認定できそうな語彙は掲載していないので、曖昧な編纂方針を採用して都度採択と分類を適当に判断している訳ではなさそうである。
著者は学僧らしいし、おそらく客観性と網羅性の重要性を認識していたに違いなく、現代人には読み取りにくい見方が存在していた可能性も否定しがたいものがあろう。時代から考えると、漢字表記の蔵語に触れていたと見ておかしくないから、倭語との関連性が気になったということかも。


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