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■■■ 「古事記」解釈 [2022.8.14] ■■■
[590]沼池湖用語の見方
・川・カハ📖河川用語の常識の話をして、そこで終わってしまうと、尻切れトンボの感は否めないので、<沼・池・湖>も取り上げておくことにした。

太安万侶は律儀に用語をしっかりと分けていると見てよかろう。現代語では、定義がバラバラで誰も差異がわからなくなっているし、分野によっては再定義されていたりもするが、例外や捨象もあって、どう見ても曖昧状態。それと比べるとたいしたもの。

日本列島の湖と云えば、押しも押されぬ琵琶湖となるが、「古事記」ではこれに限らず、一切、<湖>という文字は使っていない、そのような地形な存在していないと判断したからだろう。・・・
≪沼≫[呉音・漢音]セウ[訓]ぬま [元義]
≪池≫[呉音]ヂ ダ[漢音]チ タ[訓]いけ [元義]
≪湖≫[呉音]グ ゴ[漢音][訓]みづうみ [元義]大陂
  ≪陂[阜+皮][呉音・漢音]ハ ヒ[訓]つつみ [元義]
文字の形態的義からすれば、<陂>とはHill-side以外に考えられない。従って、みづうみとは、人工か自然現象かは別として、歴史以前に存在した地形ではなく、ヒトが目にした造形物と考えれば、頭の整理がつくというもの。
「萬葉集」では、もっぱらみなととして用いられており、そのような用語にすると判りにくくなるので「古事記」としては避けたのだろう。

一方、池は湖の小さなモノという概念らしいから、溜池や船溜まり用に土木工事が行われて登場した施設を指すことになろう。・・・と考えがちだが、それは全国どこでも溜池アルアル状態になり、その後埋め立てという事象が目に焼き付いているためかもしれないので、そこらは注意した方がよさそう。御陵工事だらけの地域であれば、船で大量の土砂を運ぶから、水が入り込んだ大きな窪地はいくらでもできておかしくないし、大和国内なら、その様な地の使われ方としては苑池が一番似つかわしいと云えなくもない。舟遊びの話も。すでにこの時点で例外的では無く当たり前だった可能性も。

要するに、「古事記」では、昔から存在していた水面地を<沼>とし、新興地を<池>としたことになる。ただ、改修や手入れが行われるので、両者の境は明瞭なものではなかろう。ヌである<沼>も、イケと呼ばれていてもなんらおかしくないことになろう。

ここらの見方は思っている以上に重要なので、聴き捨てなさらずに、よくお考えになることをお勧めしたい。現代では。沼というイメージが、清流と程遠いドロドロ観だからなおさらである。
おそらく凹地に水が溜まれば、流れがあってもそれは沼であり、清流域はその源流というだけのこと。海人文化を貴重とする倭人の生活感から考えると現代とは逆で、沼域こそ生命を保つ地だった筈。漁労・農耕・鳥猟・屋根材採取地としては、ココこそが本拠だった可能性が高かろう。
だからこそ、天沼矛や天沼琴が国土と国家発祥の正統性を示すレガリアたり得る訳で。
それ以外に、わざわざ沼という文字をわざわざ当てる必然性はないと思う。国史編纂の高級官僚層からすれば忌避したくなりそうな文字を敢えて用いているのだから。

皇統の要で、"御毛(御飯みけ)"という音素文字表記の名称記載にしているのは、それだけの意味があるからだろう。(神倭伊波禮毘古命という名称との繋がりは皆無。)

<奴部>
[正音]【奴】 努 怒 弩
   農 濃
[正訓]【沼】
   【不】
   【野】…誤読(正:ノ)とされるものの、ヌは意図的な読みである。
       [巻一#4]内乃大野尓 [巻二#232]野邊徃道者
      「古事記」江野財臣之祖…ヌでもかまわぬのでは。
   寐 宿 寝 眠…活用系
   沾  ヌレ:所濕(湿) 所霑 所漬
[義訓]<所>  ヌサ:布施 ヌレヒヅ:潤濕(湿)
[略訓]
   <徃(往)>
[借訓]【沼】 寐 宿 <烏>
[n.a.]
   ([巻六#1065]三犬女乃浦者)
<伊部>
[n.a.]
[正訓]寝 寐 宿 眠・・・ イケ:沼
<美部>
[n.a.]
[義訓]ミナト:湖

---沼---
㊤巻:天沼矛 天沼琴
 沼河比賣…"奴乃加波"@高志(越)国-頸城-沼川[≒糸魚川-能生&青海]
 青沼馬沼押比賣…青渭大神(水神)@武蔵国-多摩[深大寺]
 五P命+稻氷命+御毛沼命+若御毛沼命[豐御毛沼命 or 神倭伊波禮毘古命]
①段:血沼海…五瀬命戦死
①/②段:
 神沼河耳命/建沼河耳命[阿倍臣ら祖]
④段:
 血沼之別
⑧段:
 建沼河別命[阿倍臣等之祖]
⑩段:
 沼名木之入日賣命…渟名城入姫神社[大和神社境外末社]@天理
 建沼河別命[大毘古命子]
⑪段:血沼池@est.和泉国茅渟県
 沼羽田之入毘賣命+[子]沼帶別命
⑫段:大沼@相武國
 沼代郎女 沼名木郎女
⑮段:"阿具奴摩"--沼@新羅國
 若沼毛二俣王
㉙/㉚段:
 沼名倉太玉敷命
@「萬葉集」:前玉之小埼乃沼 隠沼/絶沼/隠有小沼 血沼/血沼之海 青山之石垣沼 開沼(佐紀沼) 沼名河 可美都氣努伊可保乃奴麻(上つ毛野伊香保の沼)/可美都氣努可保夜我奴麻(上つ毛野可保夜が沼)/可美都氣努伊奈良能奴麻(上つ毛野伊奈良の沼)

---池---
…作池の目的は不詳
⑧段:劔池之中岡上【御陵】📖剣池御陵は"初国知らしし"天皇改造かも
⑩段:作依網池 亦作輕之酒折池
⑪段:血沼池 又作狹山池 又作日下之高津池
 劔池之中岡上
 作二俣小舟 而 持上來以 浮倭之市師池 輕池
 住是鷺巣池之樹鷺乎
⑫段:又作坂手池 即竹植其堤也
⑮段:亦作劍池・・・爲役之堤池 而 作百濟池
⑯段:又作丸邇池 依網池 又 掘難波之堀江 而 通海 又掘小椅江 又 定墨江之津
㉛段:坐池邊宮
@「萬葉集」:嶋宮勾乃池/嶋宮上池 埴安乃池 軽池 磐余池 浮沼池 取石池 真野池 斑鳩之因可乃池 劔池 清隅之池 乎夜麻田乃 伊氣(小山田の池) 無耳之池 勝間田之池 豊國企玖乃池

---湖---
「古事記」無し
@「萬葉集」ミナト:枚乃湖(比良の港) 湖風(港風) 近江之海湖者八十 居(猪)名之湖 明石之湖(水門) 高嶋之足利湖(高島の安曇の港) 湖(港)葦 湖轉(港廻)

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