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■■■ 「古事記」解釈 [2023.5.29] ■■■
[686aa] 「古事記」仮名 五十音 おまけの言語比較
Tamiḻ現存最古の五十音図は11世紀初頭に成立した「孔雀経音義」の附図をされるが、並べ方が"キコカケク"と異なっており、母音とナ行欠落なので、素人からすると全く異なった思想とみなしたくなる。(「金光明最勝王経音義」1079年は原型のイメージはあるものの五十音図とは言い難く、院政期の天台宗 明覚[1056年-n.a.]の著作からと言えそう。)言うまでも無く、悉曇学ベースであることは間違いない。その知的営為は空海[774-835年](「梵字悉曇字母幷釈義」814年奉献)が率いた真言密教の仏僧達と、円仁を祖師とする天台の悉曇学。

・・・浅学の身にはおよそ理解し難い話である。空海は五十音図概念を全く理解せずにいたと考えざるを得ない指摘になっているからだ。そうなると、空海の悉曇学とは何だったのか、考え直すしかなかろう。この問題を単純化すれば、以下の2択となろう。・・・
❶空海は、サンスクリット文法を習得しておらず、全く読めなかったが、文字の音だけは完璧に履修して来たので、呪語として発声することができた。
❷空海は、帰国時点での漢字音に合わせた五十音を設定していたが、次々と請来する漢籍と変化する漢字音の変化に対応できない上に、もともと梵語表記に合致しかねる漢語音の漢字が導入されて混乱をきたしてしまった。


超優秀な官僚として派遣されたなら、渡航旅程から見て、まず間違いなく❶となるが、抜群の能力との師からのお墨付きを得ている以上、❷の可能性が高い。
そうなると、空海は聖典言語のサンスクリットだけではなく、天竺の一般言語についても一通り理解できるレべルに達していたと考えてもおかしくなかろう。
それは、サンスクリットの本場でのパーリ語(上座部仏教語でもある。)ではなく、当時からすでに南インドに追いやられていたドラヴィダ語族タミル語。奇異に感じられるかも知れないが、密教の系譜は金剛智(母語タミル語)-不空三蔵(母語タミル語 父親:パーリ語 母親:ソグド語)-恵果阿闍梨(7才から不空が育成。)-弘法大師📖だからだ。

空海は、経典言語として悉曇を特別扱いしているものの、一般言語についてはタミル語を参考にしていたと見る訳である。タミル語は音韻・文法については紀元前にすでに確立しており、聖典用語と違い、社会に属する人々すべてが日々用いる、"生きている"言葉を表記可能にしたもの。
倭語を音素文字で表記しようと考えるなら、発音が不適でないなら、サンスクリット語より、タミル語の方法論を用いたくなる筈。空海は、その手で、仏教経典用はサンスクリット語だが、タミル語的方法論で倭語表記化を図ったのではなかろうか。
なんといっても、母音の類似性が高いのだから、惹かれて当然であるし、インド大陸の発音の巻舌音を除いてしまえば、子音は五十音的に並ぶことになる訳で、同等子音として扱えるなら、この音韻論で倭語も整理できることになるのは、素人でもわかる。
しかも、なんといっても注目すべきは、もともとの発音には無かったものの、渡来語彙表現用に文字を作成し、音を決めた点。漢字が溢れかえる社会になりつつあった当時の日本国には、この様な対応こそ、最善策と言えるのではなかろうか。

太安万侶はそれを見透かすように、「古事記」仮名を用いていたことになる。

 --- 日本語 ---  📖 「古事記」仮名8母音 おまけの言語比較
______唇_音_唇齒音__齒茎音_硬口蓋音_軟口蓋音_声門音
 破裂音無声_p________t________k______
 ___有声_b________d________g______
 摩擦音無声__________s_____________h_
 ___有声__________z_______________
  非公認音_ɸ_____________ʃ_ç
 破擦音無声__________________________
 ___有声__________________________
 鼻_音有声_m________n_______________
 他 ・・・rjɰ
 母音・・・ aiɯ eo

 --- サンスクリット語 ---
_____________┌巻舌音
______唇_音_唇齒音│_齒茎音_硬口蓋音_軟口蓋音_声門音
 破裂音無声_p_____ṭ __t ___c____k______
 ___有声_b_____ḍ __d___j____g______
 _送気無声_pʰ ____ṭʰ __tʰ___cʰ___kʰ______
 _送気有声_bʰ ____ḍʰ __dʱ___jʰ___gʱ______
 摩擦音無声_______ṣ __s ___ś ___________
 ___有声__________________________
 破擦音無声__________________________
 ___有声__________________________
 鼻_音有声_m_____ṇ __n ___ñ ____ṅ______
 接__音_v_____r__l___y____h
母音・・・ ɐ  ɑː  i  iː  u  uː
       eː  ɑj[ai]  oː  ɑw[au]
        r̩  r̩ː  l̩  l̩ː
         (◌ƨ[aṃ]  h[aḥ])

 --- タミル語@ドラヴィダ語族 ---
_____________┌巻舌音
______唇_音_唇齒音│_齒茎音_硬口蓋音_軟口蓋音_声門音
 破__音_p___t̪__ʈ ___________k______
 ______p異音…pː b
 __________t̪異音…t̪ː ð d̪ r
 ____________ʈ異音…ʈː ɽ ɖ
 ________________________k異音…kː ɡ
 摩__音_f___s_ʂ ______ɕ ____x____ɦ__
 破__音______________͡ʨ____________
 ___________________͡ʨ異音…ʨ dʑ
 ____________ɽ
 _______________
 鼻___音_m_____ɳ __n___ȵ ____ŋ_______
 接__音_ʋ _____ɻ ______j ____________
 側面接近音_______ɭ __l_______________
 外来語模写音・・・ ɕ ʃ ͡dʒ ş kş
母音・・・  ä  äː i iː u uː e eː o oː
       ʌj ʌʋ
母音後(無声声門摩擦音)・・・ ḥ


≪母音発生構造図≫
 --- 日本語 --- 長母音表記[ー]は現代では外来語のみ。
________(⇒ɯ)
_______о
______a_
 --- タミル語 --- 短母音と長母音は峻別される。
 【短母音】
________
_______о
______a_
 【長母音】 二重母音は長母音でもある。
__iː______uː
___eː____оː
____ai_aː_aw

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