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■■■ 「古事記」解釈 [2023.5.23] ■■■
[698] 「古事記」仮名選別字
この項は、太安万侶仮名に対する真摯な姿勢の確認。
小生の場合、特段「古事記」に興味があった訳でなく、行きがかりで立ち寄ったようなもの。切っ掛けは、「酉陽雑俎」(翻訳と鋭い注のみの書)にたまたま目を通したことにある。なんらの傷物でもなく、単に読まれていないので図書館で廃棄処分化されている書との話を目にしたから。ところが、読むと、魯迅研究者であった翻訳者の注記の力量に目を見張らされ、原著者の本物のインテリの凄さが伝わって来たのである。(それとは直接つながらないが、その時、老人自殺の原因が鬱以外にもあることに初めて気付かされた。自分の人格が壊れ始めたことに気付けば、日本に住んでいる以上、取るべき道は他にないのは自明。)そんなことで、類似の和書もあろうかと思ったが、南方熊樟では新しすぎるので、「今昔物語集」に手を出すことに。その社会文化論的見方に驚かされ、そこから「古事記」へと入ってきたという流れ。
仮名について眺めているのに、わざわざ、こんな話をするのは「古事記」と「萬葉集」は編纂者のスタンスが全く異なっている上に、文字表記が与えるインパクトの理解の深さが比べるべきもないという点を書いておきたいから。
要するに、両者をミックスして、仮名を眺めたところで、オレンジ・アップルどころではなく、蜜柑・トマトで議論しているようなもの。それを踏まえないと、両者それぞれの価値を台無しにしかねないと思う。


<に>という1音文字を「古事記」と「萬葉集」で眺めようという嗜好。
前者で用いる文字種は10程度だが、後者はその3倍もあり、用途が音を表記する仮名文字と考えるなら、書全体の分量がいかに違っていようと根本的な思想が異なっているとしか思えまい。
それに、「古事記」の場合は助詞等と文字としての<に>と、単なる音仮名を分別する姿勢が見受けられる。数字の2についても、音で読まないようにしていると考えることもできる。よく整理されているように思える。
これに対して、「萬葉集」はそれこそ歌人の好き好きで決めているようだ。・・・
(二:仁の旁)(〃) [萬]…迩 @呉音
迩  曽迩奴岐宇弖:そにぬきうて
     [巻三#475]久迩乃京者:久迩の都は
尓  尓波都登理:にはつとり
     [巻一#1]此岳尓:この岡に
於  於頭者大雷居・・・助詞
     [巻十一#2683]於身副我妹:身に添へ我妹
于  至于今・・・助詞
     [巻四#702]至于今日:今日までに
     [巻一#9題詞]幸于紀温泉之時:紀の温泉に幸しし時
丹  戸取垂白丹寸手・・・丹砂/赤土の訓
     [巻一#17]青丹吉
     [巻一#22]常丹毛冀名:常にもがもな
仁  1例のみ(仁番:にほ・・・須須許理の名前)
     [巻五#808]許牟比等乃多仁:来む人のたに
而  1例のみ(取魚而)・・・文脈都合
     [巻十#2122]心者無而:心はなしに
  二字:・・・2であるから訓が妥当  📖数字2での遊びはせず
     [巻一#22]湯津盤村二:ゆつ岩群に
 貳/弐 貳歲  📖漢数字の大字使用について
     [巻五#816歌人]小貳小野大夫:せうに
    [巻五#847題詞]員外思故郷歌兩首:にしゆ
  [巻三#277]散去奚留鴨:散りにけるかも
  [巻十三#3288]肩荷取懸:肩に取り懸け
  [巻十一#2762]中之似児草:中の和草(にこぐさ)
  [巻二#223]不知等妹之:知らにと妹が
  [巻二#87]霜乃置万代日:霜の置くまでに
  [巻一#22]常處女煮手:常処女にて
  [巻十二#3136]客在而:旅にありて
  [巻九#1694]吾尓尼保波尼:我れににほはに
  [巻十六#3811]左耳通良布:さ丹(に)つらふ
  [巻九#1792] 田時乎白土:たどきを知らに
  [巻七#1145]所沾之袖者:濡れにし袖は
  [巻五#892]可麻度柔播:かまどには
  1例のみ[巻十二#3174]湯鞍干:ゆくらかに
  1例のみ[巻十三#3276]田付乎白粉:たづきを知らに
  1例のみ[巻十一#2516]苔生負為:こけむしにたり
  1例のみ[巻二#151]泊之登萬里人:泊てし泊りに
  [巻十七#3969題詞]詞失乎聚林矣:詞を聚林に失(うしな)ふ
  [巻十七#3976前文題詞]抑小児譬濫謡:はた小児(せうに)の濫(みだ)りなる謡の譬(ごと)し
  [巻十六#3869左注]右以神龜年中:神亀ねんぢゆうに
  1例のみ[巻三#461左注]依餌薬事:にやくのことによりて
≪二≫  [訓]ふた(-つ) [呉音][漢音]
  [漢文@序]二靈 二氣
  ㊤二柱 二神 二字 十二神 二目 二耳 二人
    伊豫之二名嶋 我之女二並立奉由者
  ㊥㊦二王 二女 男七女二 十二柱 東方十二道 御身長一丈二寸 二女王 二俣榲作二俣小舟 二孃子 若沼毛二俣王 如此相讓非一二時故海人既疲往還而泣也 珠二貫 御身之長九尺二寸半御齒長一寸廣二分 二歌 故燒火少子二口 男七女十二 男三女二

  【正音】:に   …漢数字の意味無しの音だけ:正真正銘の万葉仮名用法
     (十二月:しはす
  【義訓】吾二:わがふたり[巻二] 二走:ふたゆき[巻四]
     二梶:まかじ[巻八]
  【借訓】二手:まて[巻一] 二十物:はたもの[巻七]
  【戯書】生友奈"重二":いけりともな"し"[巻六#946] 名積叙吾来"並二[⇒煎]":なづみぞわが"こし[⇒ける]"[巻三#382]
     二五:とを[巻十一#2710]
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≪一≫  [訓]ひと(-つ) [呉音]イチ [呉音]イツ
  [漢文@序]一句 一事  得一光宅
  ㊤一代 一字 十一字
  一處 此嶋者身一而有面四 天一根 易子之一木乎 湯津津間櫛之男柱一箇取闕而燭一火 一日絞殺千頭・・・吾一日立千五百產屋 是以一日必千人死 一日必千五百人生也 身一有八頭八尾 一宿爲婚・・・一宿哉妊 釣魚不得一魚・・・亦作一千鉤 大一歎 一尋和邇 僕者一日送・・・一日之内送奉也

  【正訓】一隔:ひとと[巻二]
  【借訓】:ひと
  【義訓】一身:ひとりのみ[巻十一]
≪三≫  [訓](-つ) S[呉漢音]サム
  [漢文@序]三軍 幷錄三卷  通三亭育
  ㊤三柱 三字 三神 桃子三箇 三年
   隱伎之三子嶋 墨江之三前大神 三貴子 打折三段 伊都久三前大神 三枝部造 比禮三擧打撥 三度雖乞不許
  ㊥三嶋湟咋 將殺其三弟 筑紫三家連 三野之稻置 男王五女王三 三川之穂別 三勾耳 其麻之三勾遺 男王十三女王三 三枝之別 尾張國之三野別 三川之衣君 三尾君 三度擧 三年 三重纒手 三野國 三宅連 三王 三野國 軍圍三重 三歎 三重村 吾足如三重勾 三腹郎女 三野郎女 三國君
  ㊦茨田三宅 三年 三人 有變三色之奇虫・・・ 己所養之三種虫 三歌 伊勢國之三重婇 山三尾之 御齒者如三技押齒坐也 三尾君 三嶋之藍御陵 男三女二

  【正訓】三枝:さきくさ[巻五]
  【借訓】:み
     三:さ…神思知三:かみししらさむ[巻四:561]
  【約訓】三都:みつ[巻一] 三輪:みわ[巻二] 三行:みゆき[巻九] 三宅:みやけ[巻一] 三禮:みつれ[巻四] 三犬女:みぬめ[巻六] 三名之綿:みなのわた[巻十六]
  【義訓】三更:よひ[巻八] 三更:さよふけ[巻十九]
  【戯書】繁三"毛人髪三":しげみ"こちたみ"[巻十二#2938] 三五月:もちつき[巻二#196]
  【仮名】[巻一#25]三吉野之:み吉野の [巻一#27]良人四来三:良き人よく見 [巻三#414]引者難三等:引かばかたみと …漢数字の意味無しの音だけ:正真正銘の万葉仮名用法

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