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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.7.10 ■■■

ゾロアスター教の思い出

蛇の扱いについて、道教[→]と仏教[→]で見てきたので、もう一つ。
と言っても、特段の宗旨が記載されている訳ではない。異境の不思議感を浮きだたせるような話。すでに、「大唐西域記」で成式が気になった箇所として、「珍習(文化)」[→]で取り上げた済みだが。

蛇磧,蘇都瑟匿國西北有蛇磧,南北蛇原五百余裏,中間遍蛇,毒氣如煙。飛鳥墜地,蛇因呑食。或大小相噬,及食生草。 [卷十 物異]

・・・怪奇譚収集が目的の書ではないから、これを読んで、なにか感じないかネ、と読者に語りかけていると言ってよかろう。
蘇都瑟匿國/ストリシナと言っても馴染みが無いが、ザラフシャン川流域のソグド人の地、通称"ソグディアナ"の中心地である。地域的にはこんな都市国家が含まれている。
 中央【ザラフシャン川流域"ソグディアナ"】
  ストリシナ(蘇都瑟匿國)=イスタラウシャン@タジキスタン
  ホジェンド(倶振提國)@タジキスタン
  サマルカンド(康国)@ウズベキスタン
  ブハラ(安国)@ウズベキスタン
その周囲は以下のような国々。
 東側【シルダリヤ支流流域】
  タシュケント(石国)@ウズベキスタン(首都)
  フェルガナ(大宛國 or 破洛那)@ウズベキスタン
 西側【アムダリア下流域"ホラズム"】
 南側【アムダリア中流域"バクトリア"】
  テルメズ(蜜国)@ウズベキスタン
  バクトラ(縛喝国)@アフガニスタン

蛇の話ではないが、ホジェンドの記述があり、そこから"ソグディアナ"の信仰がわかる。・・・

銅馬,倶コ建國鳥滸河中灘派中有火【】祠,相傳【】神本自波斯國乘神通來此,常見靈異,因立【】祠。内無象,於大屋下置大小爐,舍檐向西,人向東禮。有一銅馬,大如次馬,國人言自天下,屈前在空中而對神立,後入土。自古數有穿視者,深數十丈,竟不及其蹄。西域以五月為,毎日,鳥滸河中有馬出,其色如金,與此銅馬嘶相應,俄復入水。近有大食王不信,入【】祠,將壞之,忽有火燒其兵,遂不敢毀。 [卷十 物異]

おわかりのように、ゾロアスター教/教一色の地である。
古くからペルシアが国教だから、そちらが大元のように映るが、本来はバクトラが発祥地らしい。と言うのは創始者が祀られている地だからだ。

「酉陽雑俎」には、この他にも教の地が記載されている。

孝億國界周三千余裏。在平川中,以木為柵,周十余裏,柵内百姓二千余家。周國大柵五百余所。氣候常暖,冬不雕落。宜羊馬,無駝牛。俗性質直,好客侶。貌長大,鼻黄發,濠瘰ヤ髭,被發,面如血色。戰具唯槊一色。宜五谷,出金鐵。衣麻布。舉俗事【】,不識佛法。有【】祠三百余所,馬歩甲兵一萬。不尚商販,自稱孝億人。丈夫、婦人佩帶。毎一日造食,一月食之,常吃宿食。 [卷四 境異]

孝億國はナイル川中流のジャウティ(現アシュート)との説もあるが、情報不足なのでなんとも言い難し。中央アジアにはこのような地は無いことだけははっきりしているが。
ここでは、"ペルシア"〜"バクトリア"〜"ソグディアナ"とは異質な、冬季が無い地域にもゾロアスター教が拡がっていることを示したかっただけでは。そうだとすれば、次は、"絹の道"より北の"毛皮の道"状況が次に語られることになる。・・・

突厥事【】神,無祠廟,刻氈為形,盛於皮袋。行動之處,以脂蘇塗之。或系之竿上,四時祀之。 [卷四 境異]

ここらの記載を、ふ〜ん、と聞き流してはいけない。
「酉陽雑俎」を段成式[803-863年]が執筆したのは9世紀前半のことだからだ。

そう、イスラムの宗教-政治-軍事一体王朝が、ササーン朝ペルシアに替わって立ち上がってきた時期なのである。言うまでもないが、唐朝はその力に屈し、"絹の道"を支配できなくなっており、衰退一途と言って間違いない。
   633年イスラム大征服戦争開始
   642年ササーン朝ペルシア滅亡
     ▼アラブ人のイスラム宗教国家の時代
   [661〜750年]大食/ウマイヤ[倭馬亞]王朝@ダマスカス
   [705〜715年]中央アジア征服戦争
     ▼本格的イスラム帝国の時代
   [750-1517年]アッバース[阿拔斯]王朝@バグダード
   751年タラス河畔の戦い(唐軍敗退)
   762年バグダード遷都

はやい話、イスラム勢力にソグド人はすでに殲滅し尽くされていた訳で、ソグド商人の友人が多かったと思われる成式はそれを一番よくご存知だった筈。もちろん、一般布教は禁じられていたが、長安と洛陽にはその祠があった位だし。
従って、上記の記述は一種の鎮魂の言葉ということもできそう。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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