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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.7.14 ■■■

怪豚か神豚か

「一行禪師伝【一行救命殺人犯】[→]で、やって来る7頭の豚をとっつかまえろと命ずる話を取り上げた。
細かく書かなかったが、上人はこれによって天空の北斗七星を隠したのである。そして、これは、大赦すべしという天命が下ったということですぞ、と帝に上奏する。お世話になった婆様への恩返しとして、殺人犯の息子を救ってあげるというストーリーだ。
日本人的には豚の登場にえらく違和感ありだが、大陸では全く異なる感覚で見ていることがわかろう。言うまでもないが、その北斗七星とはヒトの寿命を決める官僚の総元締めの象徴でもある。

明の時代ではあるが、豚精信仰はかなり拡がっていたようである。と言っても、豚肉禁忌の人は稀だったと思われるが。僧一行以外の豚話が記載されている。・・・
北鬥相傳知豕状。唐一行於渾天寺中掩獲群豕,而北鬥不見。
國朝徐武功奉鬥齋甚虔,闔門不食豕肉,及論決之日,大風霾雷電,有物若豕,蹲錦衣堂上者七焉,遂得赦,戌金齒,是其驗也。
一雲:「北鬥九星,七見二隱。」
 [明 謝肇:「五雜俎」]
徐武功は、はなはだ敬虔で斎を守人。豚肉は食べなかったという。
議論も尽き、ついに採断が下る日になって、突然にして天候が異常に大荒れ。
そして、その場に豚が出現。
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これをして、「北鬥九星,七見二隱。」だと。


北斗七星とは7匹の豚ということになる。
そのような知識を得た上で、以下のお話を読まないと、なにがなにやらとなりかねない。

前秀才李鵠覲於潁川,夜至一驛,才臥,見物如豬者突上廳階。鵠驚走,透後門,投驛廐,潛身草積中,屏息且伺之。怪亦隨至,聲繞草積數匝,目相視鵠所潛處,忽變為巨星,騰起數道燭天。
鵠左右取燭索鵠於草積中,已卒矣。
半日方蘇,因説所見。未旬,無病而死。
 [続集巻一 支諾皋上]
秀才だった人の潁川での話。
夜になって、駅に到着。
就寝後、豚のような物が突然階段を駆け上って来た。
驚いて逃げ出す。
そして、駅の厩の積草の中に身を潜め、息を殺して見つめていた。
怪物はそこにやってきて、草のまわりを巡ぐり、潜んでいる所をじっと睨んでいたが、忽然として巨大な星に変身。立ちあがるや否や空へと行ってしまった。
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そんな話を周りに語っていたのだが、それから10日もたたぬ内に死去。もちろん病気などではない。


潁川[=潁水]とは、帝尭に召された隠士の許由が、そんな話は耳の汚れだということで、禊を行った川。怪物が登場してもなんらおかしくない雰囲気の地域と言えよう。
耳を汚すような話はしてはならないのに、それを破れば寿命はカットされるのである。
徐武功は難を逃れて命拾いをしたが、この場合は、天官に寿命を短くされてしまった訳だ。

豚の由緒はおそらく、インドの陽炎の神である摩利支天。日本の像だと、理由はわからねど、7頭の猪が乗り物役。
  「猪文化を考える」 [4:親猪社会] 2014.11.15
仏典にそう記載されているからで、大陸でも当然ながら、その見方が流布している筈。ただ、中華帝国の場合は、道教がすかさずこれを取り入れ、北斗七星の母君"斗母元君"としたので、日本とは少々違う印象を与えることになる。
  「神道視点での道教考(女神)」 2014.11.15

ともあれ、豚は独特の扱い。
なにせ、シンデレラ話をおちょくったようなストーリーもあるからだ。成式先生は収録をさし控えたようだが。・・・

李汾秀才者,越州上虞人也。性好幽寂,常居四明山。山下有張老莊,其家富,多養豕。天寶末,中秋之夕,汾歩月於庭,撫琴自適,忽聞戸外有嘆美之聲,問之曰。誰人夜久至此山院。請聞命矣。俄有女子笑曰。冀觀長卿之妙耳。汾戸視之,乃人間之極色也。唯覺其口有K色。汾問曰。子得非神仙乎。女曰:「非也,妾乃山下張家女也,夕來以父母暫過東村,竊至於此。私面君子,幸無責也。汾忻然曰。娘子既能降顧,聊可從容。女乃昇階展叙,言笑談謔,汾莫能及。夜闌就寢,備盡綣,俄爾晨報曙,女起告辭。汾意惜別,乃潛取女青氈履一隻,藏衣笥中。時汾欹枕假寐,女乃撫汾悲泣,求索其履,曰:「願無留此,今夕再至。脱君留之,妾身必死謝於君子。」汾不允,女號泣而去。汾覺。視牀前鮮血點點出戸。汾異之,乃開笥,視青氈履,則一猪蹄殼耳。汾惶駭,尋血至山前張氏溷中,見一牝豕,後足?一殼。豕視汾,瞋目咆哮,如有怒色。汾以事白張叟,叟即殺之。汾乃棄山院,別遊他邑。出《集異記》 「太平広記 巻四三九畜獸六李汾」
四明山に住む李汾の話。
中秋の晩、美しい女が訪れてくる。
語らい合いながら一夜を過ごす。
鶏が鳴いたので、女を引き留めるべく、靴の片方取り上げ、衣類籠に隠す。

夜が明けて見ると、靴は豚の蹄だった。
近くの豚小屋まで血が点々と。


品位がなさすぎる、と見なしたのかも。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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