表紙
目次

📖
■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.9.13 ■■■

青城山

青城山[@四川都江堰:四大道教名山の首位]は"天下幽”とされ特別扱いされる場所。
蘇軾:「和桃源詩序」でも、"舊説南陽有菊水、水甘而芳、居民三十余家、飲其水皆壽、或至百二三十蜀青城山老人村、有五世孫者"ということで、「青城山」が登場する。  「大陸の桃信仰」[2015年7月23日]

歴史的には143年に五斗米道/天師道開祖の張道陵[34-156年:没123歳]が青城山に入山して、道教が確立したとされるが、この地はそれ以前から特別視されていた可能性が高い。
蜀と言えば劉備[161-223年]だが、青城山に長生殿を建立したという話が残っているところからみて、天師道教主の范長生[219-318年]は、この時代から続く戦乱を生かして、道教を蜀での事実上の国教化を果たしたのだと思われる。おそらく大量の流民を支配下におくことで、軍事的には無視できぬ一大勢力化していたのであろう。氏族主義濃厚な社会風土にうまく合致させたことも奏功の大きなファクターだと思われる。そして、その力を背景に、道教教団が帝位を認める仕掛けをつくりあげ、政治的地位も得ることで、洞天福地的概念を導入して、一層の道教の拡大を図ったということであろう。

蜀の滅亡と共に、青城山勢力の力は下火となったが、隋唐期に、政権とお近づきになることで大発展を遂げたのであろう。

狂道士/灰袋(天師弟子)が生き神様化したのもそんなところからと見て間違いなかろう。・・・
蜀有道士陽狂,俗號為灰袋,天師晩年弟子也。毎戒其徒:“勿欺此人。吾所不及之。”
常大雪中,衣布褐入青城山,暮投蘭若,求僧寄宿,僧曰:“貧僧一衲而已,天寒如此,恐不能相活。”但言容一床足矣。至夜半,雪深風起,僧慮道者已死,就視之。去床數尺,氣蒸如炊,流汗袒寢,僧知其異人。未明,不辭而去。

   「唐朝道教の変遷」

「酉陽雑俎」では、その辺りの雰囲気を、朱道士を通じて、書いているように思われる。
朱道士については、「玄武攷」[→]で取り上げたが、その際は、太和八年を北魏484年とした。これを成式の生きていた時代の文宗朝834年とみなすこともできるが、小生は、成式父親世代の白楽天が朱道士について語っているので、ずっと古い話でしかるべしとしたのである。(この詩のハイライトは最後の行で、朱丹を焼く真香の術だと思われる。そう考えると、ここでの朱道士とは固有名詞ではなく普通名詞かも。)
  「贈朱道士」  白居易
  儀容白皙上仙郎,方寸清虚内道場。
  兩翼化生因服藥,三屍餓死為休糧。
  壇北向宵占鬥,寢室東開早納陽。
  儘日窗間更無事,唯燒一降真香。


要するに、唐代に"玄武"が大流行していたようだから、成式はその発祥元を考えて書いたと見た訳である。
こんな話。・・・
朱道士者,太和八年,常遊廬山,憩於澗石。
忽見蟠蛇,如堆暑ム,俄變為巨龜。
訪之山叟,雲是玄武。
 [續集卷三 支諾下]
朱道士の話、その1。
大和八年のこと。
朱道士と言われている修行者が廬山で遊んでいたのだが、岩上でしばしの休憩をとっていた。
忽然として蟠蛇が出てきた。その姿は、暑ムの布を堆みあげたように見えた。ところが、俄かに、ソレが巨龜に変身。
山中の老道士に伺いに参上すると、ソレは"玄武"なりと。


ともあれ、朱道士は唐代で人気を集めていたことは間違いない。
 「河口逢江州朱道士因听[=聽]琴」  盧綸[739-799年]
  廬山道士夜[=携]琴,映月相逢辨語音。
  引坐霜中彈一弄,滿船商客有歸心。


実は、上記の廬山"玄武"話は朱道士の第一話で、続けて青城山の第二話がある。・・・

朱道士又曾遊青城山丈人觀,至龍橋,見岩下有枯骨,背石平坐,按手膝上,状如鈎,附苔絡蔓,色白如雪。
雲祖父已嘗見,不知年代,其或煉形濯魄之士乎?
  [續集卷三 支諾皋下]
朱道士の話、その2。
青城山の道教寺院"丈人観"での修行中のこと。
"龍橋"
[吊り橋か?]から見下ろすと年月を経た骸骨あり。
石を背にして胡坐で座っている。しかも、鈎[鍵][鎖]の如き恰好で、手を膝の上で組んだまま。
すでに、苔生しており、蔓草が絡んでいるが、骨は雪の様に白い。
祖父もすでに見かけていたというから、その年代は不明。修煉を積んで、肉体の気である魄を自ら洗い流した道士なのではあるまいか?、とのこと。


中華帝国の道教教団組織にとっての洞天福地作りがどのようなものかが想定できる記述と言えよう。
唐朝道教とは、官僚的な体裁を整えた、そのエピゴーネンにすぎまい。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

 「酉陽雑俎」の面白さの目次へ>>>    トップ頁へ>>>
 (C) 2016 RandDManagement.com