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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.11.27 ■■■

外交における挨拶の意義

外交に関しては、寺院表敬訪問[→]、音楽鑑賞[→]、酒食[→]といった話をとりあげたが、詠詩交歓と時候挨拶という儀礼的な部分を描いた話にも、なかなかおもわせぶりなところがある。[卷十二 語資]

キャストの魏使は全く同じ、李騫と崔劼。
迎える梁側の登場人物は、ここではオールキャスト的に見えるが、場面毎に入れ替えたりして、人材層の厚さをみせつけたのかも。

梁遣
 黄門侍郎明少遐、
 秣陵令謝藻、
 信威長史王沖、
 宣城王文學蕭ト、
 兼散騎常侍袁狎、
 兼通直散騎常侍賀文發
宴魏使 李騫、崔劼。


先ずは、よくある気候うかがいから、詩の交換へと。・・・

良畢,少遐詠騫贈其詩曰:
 “‘蕭蕭風簾舉’,依依然可想。”
騫曰:
 “未若‘燈花寒不結’,最附時事。”
少遐報詩中有此語。


両者を仕切る簾も、風で上がる時もございましたナという句が琴線に触れるものだったことを明かし、
それに、魏の使も応えた訳だ。
そして、さらに時候の話へと。

劼問少遐曰:
 “今奇寒,
  江淮之間,不乃冰凍?”
少遐曰:
 “在此雖有薄冰,亦不廢行,
  不似河冰一合,便勝車馬。”


 「北は矢鱈に寒くなってしまい大変ですな。
  揚子江と淮水の間は凍結でしょうか?」

 「なんのなんの、薄氷でも、通行に問題無しです。
  黄河が結氷していれば、
  車馬が渡れるのとは訳が違います。」


これを仲が良い同士の最初のご挨拶とみれば、ご機嫌伺いのような、どうでもよい会話である。時節柄、お日和もよろしいようで、といった調子となんらかわらない。

しかし、この後である。
氷結した場所を渡る話題に入ってしまう。

狎曰:
 “河冰上有貍跡,便堪人渡。”
劼曰:
 “貍當為狐,應是字錯。”


 「氷上に貍の足跡があれば、
  人も安心して渡れる訳です。」

 「それは、狸と言われていますが、実は狐。
  間違いでしょう。」


ここで、ピクリと反応。
ツーと言えば、カーである。

少遐曰:
 “是。狐性多疑,鼬性多豫,
  狐疑猶豫,因此而傳耳。”
劼曰:
 “鵲巣避風,雉去惡政,乃是鳥之一長。
  狐疑鼬豫,可謂獸之一短也。”


 「そうでしたナ。
  キツネは疑い深い獣。
  完全に氷結しないと渡ろうとはしません。
  一方、イタチは用心深い獣とか。
  史記李斯列傳の狐疑猶豫はここから来たとか。」

 「カササギは風を避けて巣を作ると。
  キジは惡政から逃避するとも。
  こうした姿勢は鳥の長所といえましょう。
  ところが、キツネはなんでも疑う訳ですナ。
  イタチは先がどうなるかと心配ばかり。
  おっしゃる通り、
  狐疑鼬豫は獣の短所を謂った言葉ですナ。」


明少遐は、梁の黄門侍郎として、魏の使節である崔劼との会話で、お互いの考え方を確認することができたのである。
ちなみに、侯景之乱[548年]が勃発すると、明少遐は早速にして、魏に出奔し北斎に仕えたそうである。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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