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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.12.4 ■■■

塩沙漠への関心

「卷四 境異」には、長安のインテリが想像できそうにない状況の地誌的情報を収録している。
"奇異"と言えば、その通りだが、それはビックリギョウテン番組的な面白さを狙って記載している訳ではない。ましてや、怪奇的なお話に仕立てようという意図などさらさらなかろう。

そう考えて読むと、選定眼の鋭さに敬服せざるを得ない。

特に、仍建國の解説は特筆モノ。

仍建國,無井及河澗,所有種植,待雨而生。
以紫礦泥地,承雨水用之。穿井即若海水,又鹹。
土俗潮落之後,平地為池,取魚以作食。


小生は、ココは、塩沙漠として知られるインド沙漠/Thar Desertと見た。
何故に、そんな地をわざわざ記載したか理由は明らかである。
滅び去ったインダス文明の地だからである。乾燥地帯にもかかわらず、灌漑農業を続け土中塩分が増加しどうにもならなくなって放棄するしかなくなった可能性が高いと読んだと思われる。
ちなみに、河川がある、沙漠入口都市Jodhpurでさえ、年間降雨量300mmで夏季は最高気温は50℃を越える。過酷な地域だが人口は少なくない。灌漑農業が廃れてはいない地域が残っているということ。
尚、沙漠南側の海岸近くは広大な湿原。地理的にはインダス河口に繋がる地域で、短い雨季には海水面と化す訳だ。

もちろん、その一方で、与太話的なものも同居している。
25,550里も離れており、ペルシア15,300里よりさらに遠くとの印象を与えるが、"365日(=天) x 70回"のことだろう、
   「多猿国殲滅」
婆彌爛國,去京師二萬五千五百五十裏。
此國西有山,巖峻險。
上多猿,猿形絶長大。
常暴雨年,有二三十萬。國中起春以後,屯集甲兵,與猿戰。
殺數萬,不能盡其穴。


ただ、まるっきりの作り話ということではなく、猿だらけの、インド北方の森に囲まれた、隔絶された山国のことを耳にしたのであろう。
宗教的に猿の殺生を嫌っていても、それは成り立たないこともあると指摘しているようなもの。

そうそう、アフリカの角の話が収載されているのには驚かされる。
西南海中にあり、大食/アラブと戦争をしたとされているから、撥拔力國/ベルベラとは、ソマリアの港湾都市なのはほぼ間違いない。それは、ソグドのネットワークで得られた情報であろう。
   「ソグド商人」
ここでは、どうしてそう読めるのか書いておかなかったが、この国の交易品が、女子、象牙、阿末香/anbarしかないと記載されているからだ。この香料は"龍涎香"以外に考えられないが、今のところ「酉陽雜俎」が初出とされている。
撥拔力國,在西南海中,不食五穀,食肉而已。
常針牛畜脈,取血和乳生食。
無衣服,唯腰下用羊皮掩之。
其婦人潔白端正,國人自掠賣與外國商人,其價數倍。土地唯有象牙及阿末香。
波斯商人欲入此國,圍集數千,人齋紲布,沒老幼共刺血立誓,乃市其物。
自古不屬外國。戰用象排、野牛角為槊,衣甲弓矢之器。
歩兵二十萬。大食頻討襲之。


アフリカといえば、教の地として孝億國を登場させているのも凄い。
ナイル川中流のジャウティ(現アシュート)との説もある位で、記載内容からみて中央アジアということはない。
   「ゾロアスター教の思い出」
ナイル文明を直観的に感じとったのかも知れぬ。拝火教の源流はその辺りかも。
孝億國界周三千余裏。在平川中,以木為柵,周十余裏,柵内百姓二千余家。周國大柵五百余所。氣候常暖,冬不雕落。宜羊馬,無駝牛。俗性質直,好客侶。貌長大,鼻黄發,濠瘰ヤ髭,被發,面如血色。戰具唯槊一色。宜五谷,出金鐵。衣麻布。舉俗事,不識佛法。有祠三百(一曰千)余所,馬歩甲兵一萬。不尚商販,自稱孝億人。丈夫、婦人佩帶。毎一日造食,一月食之,常吃宿食。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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