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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.12.25 ■■■

東方朔の馬鹿話

小説のネタとして、手の平に乗せて息を吹きかけると伸びていくという、異草話は面白い。[→]
寝るときに身に着けていると、夢で、偲ぶ故人と逢えるという草の話も、異草モチーフと見なせば同様に映るが、その根底に流れる思想は全く違う。それを全く感じなかったとしたら、自分のセンスはかなり鈍いと思った方がよい。

前者は、自然観からくるが、後者は道教の世界に依拠しており政治的なもの。こんな感じ。・・・

夢草,
漢武時異國所獻,似蒲,晝縮入地,夜若抽萌。
懷其草,自知夢之好惡。
帝思李夫人,懷之輒夢。

  [卷十九 廣動植類之四 草篇]

段公路は「北戸録」で、睡蓮と昼夜反対の挙動をするのが夢草と記述している。成式サロンでの、アッハッハ話を思い出したのであろう。・・・
睡蓮,---
凡五種色,當夏晝開,夜縮入水底,晝復也。
與夢草晝縮入地,夜即復一何背哉?!

 (夢草似蒲,色紅。即方朔獻武帝者。)

   [段公路:「北戸録」卷三 睡蓮] ( ) は崔亀図の注。

好惡を見極めるためなら"夢占草"と呼んてもよさそうな気もするが、書いてある事績は全く違う。
漢 武帝[B.C.156-B.C.87年]が李夫人を偲ぶ様子を見て、東方朔が献じた一枝を懐いたところ夢で逢えたというのだから。それなら、"夢見草"あるいは"懷夢草"との命名が妥当なのは確か。

実は、この話の背景には、北極鍾火山がある。異国渡来の珍なる草の話ではないのである。四季や、昼と夜をも規定する、赤蛇神 燭陰の地の草だからだ。[「山海経」巻十七 海外北経])
つまり、端から霊的な草なのである。・・・
有夢草,似蒲,色紅,晝縮入地,夜則出,亦名懷夢。懷其葉,則知夢之吉兇,立驗也。帝思李夫人之容不可得,朔乃獻一枝,帝懷之,夜果夢李夫人 。因改曰懐夢草。
  [漢 郭憲:「洞冥記」卷三@欽定四庫全書]

しかも、献上したのは、武帝の御伽衆的存在とされる東方朔。仙界話好きで、「神異經」なる著作まで。奇なることを吹聴することを旨としていたハチャメチャ型人物。
要するに、道教体質の帝による統治の太鼓持ち役を務めたのである。"懷夢草"話も、武帝の姿勢を褒めたたえるためのものでしかない。
成式も、流石に、帝が夢を見たというのだから、そこらをあからさまには書けなかったのである。

太鼓持ちのこの手の話は、帝が嬉しがるのだからいくらでもあった筈。それをさらに周囲が囃す訳である。いい加減にしないかというのが、まともな官僚層の本心であっても、道教勢力にやり玉にあげられては命も危ういから、いかんともしがたい訳だ。
マ、それが中華帝国の宿命。その辺りは魯迅も知っていた臭い。独裁者が道教を捨てるよう命じれば、紅色豆本教の馬鹿話だらけの世界に変わるだけ。不快な顔を見せたりすれば、即刻処刑。

と言うことで、東方朔の話をあげておこう。・・・
東方朔言,為小兒時,井陷,墜至地下,數十年無所寄托。有人引之,令往此草中,隔紅泉不得渡,其人以一只屐,因乘泛紅泉,得至草處食之。
  [卷十九 廣動植類之四 草篇]
馬鹿話がお得意の朔は、その草なら井戸から落っこちた時に、地中で食べたぞとのたまう。  「鳳, 烏」【地日草】
風聲木,東方朔西那汗國回,得風聲木枝,帝以賜大臣。人有疾則枝汗,將死則折,應“人生年未半枝不汗”。
  [卷十 物異]
東方朔は、冗談半分に汗をかく木だと。  「珍品(貢物とお宝)」【風聲木】

【参考】 問題意識の違いがわかる。・・・
  「新樂府 李夫人」  白居易
漢武帝,初喪李夫人。夫人病時不肯別,死後留得生前恩。
君恩不盡念未已,甘泉殿裏令寫真。丹青畫出竟何益,不言不笑愁殺人。
又令方士合靈藥,玉釜煎錬金鑪焚。九華帳深夜悄悄,反魂香降夫人魂。
夫人之魂在何許,香煙引到焚香處。既來何苦不須臾,縹緲悠揚還滅去。
去何速兮來何遲,是耶非耶兩不知。翠蛾髣髴平生貌,不似昭陽寢疾時。
魂之不來君心苦,魂之來兮君亦悲。背燈隔帳不得語,安用暫來還見違。
傷心不獨漢武帝,自古及今皆若斯。君不見穆王三日哭,重璧台前傷盛姫。
又不見泰陵一掬涙,馬嵬坡下念貴妃。縱令妍姿艷質化為土,此恨長在無銷期。


(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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