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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.1.19 ■■■

馬について特段「毛篇」で取り上げる必要もなかったように思うが、象と獅子という仏教教説の核ともいうべき獣から始めると、跳ばす訳にもいかぬであろう。

仏典的な話はすでに寺塔記で取り上げている訳だし。(続集の巻だが、もともと別途刊行されていた書を所収したと思われる。)
   「仏典逍遥詩 馬事篇」

そんなこともあるのか、文章の長さはそれなりにあるものの、お話そのものは極めて淡泊。・・・

【馬】,
虜中護蘭馬,玉白馬也,亦曰玉面諳真馬,十三馬也。
以十三已下,可以留種。
舊種馬,戎馬八尺,田馬七尺,怒馬六尺。
 瓜州飼馬以草,
 沙州以茨
 涼州以勃突渾,
 蜀以稗草。以蘿蔔根飼馬,馬肥。
 安比飼馬以沙蓬根針。
 大食國馬解人語。
 悉怛國、幹國出好馬。
馬四,兩齒。至二十,齒盡平。體名有輸鼠、外鳧、烏頭、龍翅、虎口。
豬槽飼馬,石灰泥槽,汗而系門,三事落駒。
回毛在頸,白馬。
K馬鞍下腋下回毛,右脅白毛,左右後足白。
馬四足K,目下毛;黄馬白喙,旋毛在吻後,汗溝上通尾本,目赤睫亂及反睫;白馬K目,目白卻視,並不可騎。
夜眼名附,屍肝名懸,亦曰舌、
方言以地黄、甘草啖五十,生三駒。

  [卷十六 廣動植之一 毛篇]

これだけでは、成式の実感がよくわからないので、すでに見て来た箇所を見ておこう。・・・

良い馬は武の核。人扱いされ大事にされることが多い。されど、神頼み的な猿馬信仰はどんなものかネ。太宗は不快感隠さず。 [→「李王朝前期略史」]
そんなことより、良馬の決め手はあくまでも馬種蒔と見ていたということであろう。
従って、垂涎の名馬血統の地があった訳で、どの地でどのように飼育されているかの情報には関心を払っていたようだ。 [→「ソグド商人」] [→「馬絵論議」]
なかでも、オアシスの道の先の国々での、飼育の違いには注目していたようだ。
  大食國@アラブ、悉怛國@n.a.幹國@n.a.
  ↑
   :
  ↑ 沙州@甘粛敦煌
  ↑ 瓜州@甘粛安西
  ↑ 粛州
  ↑ 甘州
  ↑ 涼州
  ↑ 蘭州@甘粛武威
長安 →安比@内モンゴル
  ↓
  @四川

その上で、馬の見方について一言。
北魏 賈思:「齊民要術」卷第六 養牛馬驢騾第五十六には、乳歯の生え変わりから、永久歯の変化まで、三十二歳にわたる状況が記載されている。
ホホー、これぞ馬齢かとなる。・・・
 将以全陛下厚コ,究孤犬馬之年,此難能也。
   [曹植[192-232年]:「黄初六年令」]

ただ、馬齢を歯で見る対象は若駒ではないか。・・・
馬歯は切歯12本、犬歯4本、狼歯(♂のみ)2本、臼歯24本。年間3〜4mm伸びると言われている。その一方て、草を咀嚼するために摩滅する。従って、食生活で、歯の状態は変わることになる。
尚、生まれた直後は、切歯4本、前臼歯12本のみ。後臼歯が生えてくると、これらは生え変わり、犬歯が揃うと確定する。5歳直前に歯の構造が完成することになる。
冒頭から13歳の馬の話がでてくるが、それは、壮年期を終えた頃だと思う。20歳を過ぎると間違いなく老年期であり、歯の成長も弱まり、摩耗も相当なレベルになってくるのは間違いない。現代でも、32歳とはほとんどみかけない超々高齢馬。ギネスものかは調べていないのでわからぬが。

独特の専門用語も記載されている。
他の動物の形象から来ているが、馬の良し悪しを判定するのに、わかり易いということなのであろう。余り、意味があるようにも思えないが、馬を飼う官僚の仕事であろうから、そのように決めると好都合な理由があったのだろう。
成式が、これをどう評価していたのかは、読者が想像するしかない訳である。
そうそう、見かけも重視されていたらしく、嫌われる外観が色々と記載されている。劣勢遺伝の可能性を示唆する兆候ということかも。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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