表紙 目次 | ■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.6.6 ■■■ 長安名小吃有名人の名小吃が記載されている。・・・今衣冠家名食, 有 【蕭家餛飩】,漉去湯肥,可以瀹茗; 【庚家棕子】,白瑩如玉; 今でも、ウドン店とチマキ店が使えそうなキャッチーな名前である。 その餛飩だが、今村注が指摘しているので、段公路の著作の注を引いておこう。・・・ 〈禾ォ〉丸餅、渾沌餅{《要術》書上字。《廣雅》曰餛飩也。《字苑》作餫。顔之推云,今之餛飩,形如偃月,天下通食也} [「北戸録」卷二 食目] 偃月の形状であるし、湯[スープ]に油脂分が浮いてくるので、それを掬い取って漉したりするから、現代の麺たるウドンではなく、ペリメリや日本式水餃子料理に近い。 汁を茶にするとなっているが、一種の薄いスープだろう。 チマキの表現である"白瑩如玉"だが、レトリックではなく、色艶がそんな出来栄えの商品はある。見栄えもさることながら、味や食感が、どうしてここまで違うのかとビックリさせられることもある。逸品モノは確かに素晴らしい。 次は、韓約の料理。 宦官一掃をもくろんだ「甘露之変」[@835年]は失敗に終わったが、その幕開けは左金吾衛大将軍の韓約が、朝会で「昨夜、甘露が降った」と上奏したことから。結果にがっかりしたからか、それとも宦官とつきあうため手段ということかはわからぬが、韓約はグルメに耽ったようである。・・・ 韓約能作【櫻桃饆饠】,其色不變; 有能造【冷胡突】。 繪鱧魚臆、連蒸詐草草皮索餅; 饆饠は糯米粉で作る餡入り点心。 長安長興坊に胡人料理の人気店があった。 (蕃中畢氏の好む有餡麺粉製蒸熟調理食品の食堂) ある科挙受験生がご贔屓にしていたようである。金持ちの息子だらけだったから、驚くようなことではない。 (郎君與客食畢羅計二斤)[→] 一方、鬼はその臭いを嫌った。 (初,將入畢羅肆,鬼掩鼻不肯前,)[→] この畢羅だが、櫻桃の他には、蟹黄、天花、等々とバラエティ豊かだったようだ。櫻桃は、現代で言えば、皮に透明感があり具の色が生える蝦餃子ではないか。 (今村注の引用文献から見ると八宝菜的飯とされているが、小生は、この手の料理に櫻桃という名称はそぐわないと見なした。) 【冷胡突】は全くわからない。 小吃として、これに加わるのが、ナマス。一緒という訳ではなかろうが、この手の一品に人気が出るのはわかる気がする。 してみると、実は【冷胡突繪】が、胡風の香辛料のナマスを意味しており、"鱧魚臆"というのは、"その材料は鱧魚だろう"と読むべきかも。 続く、草皮索餅は理解しがたい料理だ。小麦粉の練りモノを葉で包んだ、油の揚げモノが逸品と見なされていたとは考えにくいからだ。 ここの文章は、別な版で"連蒸獐獐皮索餅"となっているようで、こちらの方ならわかる。鹿の一種[麞]の薄切り肉で餅を巻いた蒸モノになるからだ。現代で言えば、餅のベーコン巻3連串揚げの蒸しバージョンでは。 最後にロバ肉とラクダ肉料理が紹介されている。一般料理紹介ではロバ肉の煮物だったが。 【煮驢馬肉】:用助底郁。驢肉,驢作鱸貯反。[→] 有名料理は特殊部位を使った焼肉。・・・ 將軍曲良翰,能為【駿鬃】炙+【駝峰炙】。 曲良翰は左領衛大将軍で、吐蕃と闘った武将の曲環[726-799年]の子息。武人らしき大胆な料理かも。 煮物は美味である可能性が高そうだが、炙った場合はどうなのだろうか。 中東では、廃ラクダはもっぱらBBQ用肉に回されるらしく、ラクダが珍しくない地域だと、市場での定番的位置付けらしい。本音なのかはわからぬが、そこでは、牛肉より美味しいとの評価が定着しているとされる。マ、部外者の公平な見方からすれば、両者はほとんど変わらぬということではないか。 ただ、それは一般部位の肉での話。ラクダ背中瘤肉の炙料理はどうなのかはなんとも。ロバ鬣側首筋肉も同じようなもの。 グルメの成式が、わざわざこんな特殊な肉のことを書くのだから、絶品なのだろうとは思うものの。美味しく食べるためには、なんらかのスキルが必要なのではないか。もっとも、素人的には、料理方法より、屠殺場での解体の仕方で肉質が大きく左右されそうに思えてくる。 (参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載. 「酉陽雑俎」の面白さの目次へ>>> トップ頁へ>>> (C) 2017 RandDManagement.com |