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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.8.28 ■■■

肉攫部総覧[下]

[上][→]に引き続いて、「卷二十 肉攫部」の細かな説明部分をとりあげておこう。

先ずは、コレから。・・・
鷙撃等,
 一
變為鴿
 二
變為
 三
變為
自此已,後至累變,皆為正


換羽による成鳥過程を説明しているのだろう。幼羽⇒幼鳥羽⇒若鳥羽⇒初回(成鳥冬羽⇒成鳥夏羽)⇒第2回第3回・・・、と進むのだが、餌の状態で個体差は相当にでてくる。3年で完成というプログラムが体に組み込まれている訳ではないが、3年で成鳥との見方は標準的とはいえそう。
  曰黄鷹,二鷹,三曰青鷹。[晉 郭義恭:「廣志」]

さて、ここからは、各論というか、様々な姿の紹介に入る。ある意味、美的感覚の披歴でもある。

審美眼のほどはわからぬが、どうも胸の色と模様に拘りがありそう。マ。中華文化は官僚統制必至であるから、どのようにワシ・タカ類に序列をつけるかご下問があったろうから、なんらかの指標が作られていた筈である。
現代では、梟以外の猛禽類を飼う人は極めて少ない。そのため、動物園以外では滅多に側で見ることはできない。そのため、ワシ・タカ類の姿となると、上空を飛んでいる姿になってしまう。お蔭で、残念ながら、成式の細かな記載があっても、その実感がさっぱりわかない。遠くから眺めるだけであると、識別できるのは、1に大きさ、2に全体形状、3に尾と翼の特徴、位しかない。
しかし、大きさにしても、他の鳥との大体の比較で言うしか手がない。小型とはハト程度で、中型はハシブトガラスで、それ以上は大型程度の言い方しかできないのが実情。特に大型は高空の鳥影で判断することになるから、いい加減なものである。空中をよく旋回しているトンビと比較しての大小以上はまるでわからぬ。
(成式の場合、飼育して日常的に真近でじっくり眺めていたと思われ、状況が余りに違いすぎる。)

それでは、以下、羅列。・・・

【白鴿】,觜爪白
從一變為【弁
至累變,其白色一定,更不改易。
若觜爪K,臆前縱理,尾斑節微微有黄色
一變為【弁,則兩翅封上及兩之毛間似紫白,其余白色不改。

【白鴿】事例≫
齊王高緯武平六年,得幽州行臺仆射河東潘子光所送【白鴿】,合身如雪色。視臆前微微有縱白斑之理,理色曖昧如。觜本之色微帶青白,向末漸烏。其爪亦同於觜。脛並作黄白赤。是為上品
黄麻色,一變為,其色不甚改易,惟臆前從斑漸闊而短。
轉出後乃至累變,背上微加青色,臆前從理轉就短細,漸加膝上鮮白。此為次
青麻色,其變色一同【黄麻之此為下品
又有【羅烏𩾥【羅麻𩾥(一日【鶻】)。

"上中下"評価は、どのような観点なのだろうか。色についての"上中下"は後述しているので、それだけではなさそう。

【白兔鷹】,嘴爪白
從一變為【弁乃至累變,其白色一定更不改易。
嘴爪K而微帶青白色,臆前縱理及尾班節微有黄色
一變背上翅尾微為灰色,
臆前縱理變為理,變色微漠若無,間仍白。
至於轉已後,其灰色微褐,而漸漸向白,其嘴爪極K,體上黄鵲斑色微深
一變為【青白
轉之後乃至累變,臆前理轉細,則漸為色也。

【白兔鷹】事例≫ 1
齊王高洋天保三年,獲【白兔鷹】一聯,不知所得之處。
合身毛羽如雪,目色紫,爪之本白,向末為淺烏之色(一曰“目赤色,觜爪之本色白”)脛並黄,
當時號為「金

【白兔鷹】事例 2≫
又高帝(一曰“高齊”)武平初,領軍將軍趙野叉獻【白兔鷹】一聯
頭及頂遙看悉白,近邊熟視,乃有紫跡在毛心。其背上以白地紫跡點其毛心,紫外有白赤周繞,白色之外以K為縁。翅毛亦以白為地,紫色節之。臆前以白為地,微微有赤從理。眼黄如真金,觜本之色微白,向末漸烏。作淺黄色,脛指之色亦黄。爪與觜同。

【散花白】
觜爪K而微帶青白色
一變為【紫理白
轉以後乃至累變,理轉網,臆前紫漸滅成白。
其觜爪極K
一變為【青白
轉之後乃至累變,理轉細,臆前漸作灰白色。

【赤色】
一變為
其色帶K,
轉已後乃至累變,理轉細,臆前微微漸白。
其背色不改,此上色

【白唐】
一變為【青而微帶灰色,
轉之後乃至累變,理轉細,臆前微微漸白。

爛堆黄】
一變之,色如
轉之後乃至累變,理轉細,臆前漸漸微白。

【黄色】
一變之後乃至累變,其色似於而色微深,大況鷃爛雄黄,變色同

【青班】
一變為【青父
轉之後乃至累變,理轉細,臆前微微漸白。此次色

【白唐】
K色,謂斑上有K色,
一變為【青白,雜帶K色,
轉之後乃至累變
理轉細,臆前漸漸微白。

【赤斑唐】
謂斑上有K色
一變為,其色多K,
轉之後乃至累變,理轉細,臆前K雖漸褐,
世人仍名為【K鴘】

【青斑唐】
謂斑上有K色
一變為,其色帶青K,
轉之後乃至累變,理雖細,臆前之色仍常暗此下色也

色の"上中下"は、なんとなくイメージが湧く。
要するに、見た目、胸がフワッとしていて、いかにもボリューム感が溢れていれば最高ということのようだ。従って、暗い色調は嫌われ、跳びぬけたような白色が大いに好まれたということだろう。飛ぶ姿もさることながら、じっとしている姿の美しさという点で、胸の色で価値が決まったということか。

模様についても、相当に気になるようで、小生など、たかが胸の毛が生み出す柄などどうでもよい、と考えてしまうが、かなり重要事項と考えていたようである。
それが、観賞"美"のポイントなのか、はたまた"力量"を示唆する表象なのか、さっぱりわからぬが。・・・
鷹之雌雄,唯以大小為異,其余形象本無分別。
雉鷹雖小,而是雄鷹,羽毛雜色,從初及變,既同兔鷹,更無別述。
雉鷹一,臆前從理者,世名為𩾥斑。
至後變為弁之時,其臆從理變作理,然猶大。
若臆前從理本細者,後變為弁之時,臆前理亦細。

鷹の雌雄は、ただ大きさが異なるだけ。
形象では区別がつかない。
雉鷹は小さいとはいえども、鷹は鷹であり、雄なのである。
羽毛は雜色で、初めからだし、その後変化しても。
兔鷹は皆同じ。そらに別途論述する必要無し。
1歳の雉鷹で、胸臆の前の筋目模様がひろびろしている者は、世間では、"𩾥斑"と名付けられている。
しかる後、弁に変わる時、その筋目模様が横に流れる。
しかるに、猶、ひろびろしているもの。
もし、胸臆の前の筋目模様が細かったりすれば、後に弁に変わる時、胸臆の前の筋目の横目も又細い。


ここから先は、何処で生まれ、何処に向かって飛んでいるかの記載になる。さらに、"快"速飛行ができるかも指摘。

"渡り"の観察も大好きだったと見える。鷹狩りは貴族の楽しみとはいえ、そのような観察好きは僅かだったろう。
なにせ、時期と場所を見定めて、ひがな一日空を眺めることになるからだ。そんな時に人と出会えば、一体、何をしていると、尋ねられること必定。しかし、そんなことを気にしていたら愉しむことはできない。
少ない人数とはいえ、"渡り"の観察同好の人々との情報交換もことの他嬉しかったに違いない。インターナショナルな雰囲気をことのほか愛好した成式にとって、"渡り"の姿は憧れでもあったろうし。・・・

【荊白】
短身而大,五斤有余,便鳥而快
 一名【沙裹白】
 [生]代北沙漠裏荊上,雁門、馬邑

【代都赤】
紫背K須,白睛白毛。三斤半已上、四斤已下便兔,
 [生]代川赤巖裏,虚丘、中山、白𡼏

【漠北白】
身長且大,五斤有余,細斑短脛,鷹内之最
 [生]沙漠之北,不知遠近,代川、中山
 一名【西道白】
"白"とされると、黒褐色系の大型は該当しないことになるが、内陸(騎馬民族の地)で古くから飼われてきた大型は金雕/イヌワシと言われている。兔狩は得意である。

【房山白】
紫背細斑,三斤已上、四斤已下便兔
 [生]代東房山白楊、樹上範陽、中山

【漁陽白】
腹背白,大五斤便兔,生徐無及東西曲。
 一名【大曲】【小曲】
白葉樹上 [生]章武、合口、博海

大型は海雕系。"漁陽"という名称や、"博海"に向かった飛ぶというのだから、マ、その手の鷹。次の"東道"もそうだが、日本海側にいる大鷲か尾白鷲が該当しそう。いずれも、白と黒のツートンカラーだが、腹背が真っ白とはいかず、ピッタリではない。・・・
【東道白】
腹背白,大六斤余,鷹内之最大
 [生]盧龍、和龍以北,不知遠近,渙休、巨K(一曰裏)、章武、合口、光州(一曰川)
雖稍軟,若,越於前鷹。

【土黄】
所在山谷皆有。
 [生]柞櫟樹上,或大或小。
日本だと、土着の大型は鷹G/クマタカである。森林中に棲息するので、山谷皆有の特徴に合う。"渡り"をせずに、木々の生い茂る内部に入る必要から、翼はかなり短めになるが体躯は大きい。

【Kp
五斤,
 [生]漁陽山松杉樹上多死
時有,章武
なにげに、突然、"多死"が語られるのか奇妙な話だが、快速狩猟だとすれば、隼/ハヤブサ系で発生した可能性が強い。鳥類を狙うから、小鳥に、高病原性の鳥インフルエンザ罹患が発生していれば、まず間違いなく感染するだろう。

【白p
五斤,
 [生]漁陽、白道、河陽、漠北,所在皆有。
 [生]柏枯樹上便鳥靈丘、中山、範陽、章武

【青斑】
四斤,
 [生]代北及代川白楊樹上
細斑靈丘山、範陽

さて、ここで終わりかと思いきや、もう1つ。これが難物。鷹に""がくっついた名前が登場するのである。
今村注では、これは鷹匠社会でジャーゴン的に使われていたと示唆している。それにしても、不可思議な命名である。"荏子"とはエゴマ/荏胡麻[→]。アナロジー的には、勇の正反対の怯懦とか虚弱という意味で使われることもままあるらしい。およそ、猛禽類らしくない用字である。
以下の内容からするに、巣から攫ってきた小さな雛を意味していそう。当然ながら、死ぬことが多かったに違いなく、仏教的倫理感から大きく外れた行為なので、このような用語を使ったのだろう。・・・

鷹荏子】
青K眼明,是未嘗養雛,尤
若目多,已養雛矣,不任用,多死
又條頭無花,雖遠而聚。
或條出句然作聲,短命之候也
口内赤,反掌熱,隔衣蒸人,長命之候也
疊尾、振卷打格、只立理面毛、藏頭睡,長命之候也

ここからは、前集20巻の最後の部分である。
その印象はすでに書いた。[→「後書き考」]
凡鷙鳥飛尤忌錯,喉病入叉,十無一活。叉在咽喉骨前皮裏,缺盆骨内,之下。
 : 
(中略)
凡夜條不過五條數短命,條如赤小豆汁與白相和死。
凡網損、擺傷、兔傷、鶴兵爪,皆為病。

ただ、専門的な話の箇所だけは、中抜きしたので、そこに触れておこう、・・・
吸筒,以銀棄為之,大如角鷹翅管。
鷹已下,筒大小準其翅管。

鳥用に、外出時に水を入れて持ち歩く容器である、
吸筒は、不要な薄い銀の板金で作る。
その大きさは、角鷹の翼の管ほど。
鷹がそれよりは小さい時は、
 管の大きさは、その鳥の翼の管の大きさに準じる。


(定番図鑑:20グループ312種) James Ferguson-Lees and David A. Christie: "Raptors of the World"(@Princeton field guides) Princeton University Press 2005 [Hard: Houghton Mifflin Harcourt, 2001]…胸〜下腹の模様の5パターン図 両翼の5パターン図
(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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