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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.10.21 ■■■

松、槐、楷の追加譚

先ずは、どこまで入れるのか、概念がはっきりしているとは言い難い針葉樹から。
<松>
「續集卷九 支植上」の最後に松の一種について一行書いてあるが、洛陽にあるゾ、以上ではなさそう。・・・

【魚甲松】,
洛中
[洛陽]有魚甲松。

すでにとり上げ、小生は以下のように推定した。
   「松の盆栽」
魚甲松という聞きなれない名前があるが、樹皮が見事な菱形で揃っている2針葉の大王松のことではなかろうか。成式によれば、五鬣松皮不鱗であるから。

松の"強い"イメージからすると、かなり異端な怪奇譚ありとの話も追加収載。[續集卷十 支植下]・・・

怪松,
南康有怪松,從前刺史令畫工寫松,必數枝衰悴。
後因一客與妓環飲其下,經日松死。

怪奇な松が南康[江西州]にあった。
前からのことだが、
赴任してきた刺史が画工に命じてこの松を写生させると、数本の枝が必ず衰弱して枯れてしまうのであった。
その後のこと。
とある客人が、妓達と、その木の下で、円陣をつくって酒宴を開催。
それから数日たって、その松は死んでしまった。


いかにも風刺的な味わいがある話だが、意図わからず。
植物観察好きの成式のことだから、強健に見える松だが、実際は、環境が変わるとすぐにへたって枯れてしまう弱い樹木なのですゾということか。

続いて、「續集卷十 支植下」にも、すでに書いてきた樹木の特殊なものらしき記載。
   「鬼と儒の樹木」
<槐/エンジュ
たいした意味がなさそうな内容。・・・

【夏州槐】,
夏州
[陝西靖邊]唯一郵[文書取次宿駅]有槐樹數株,
鹽州
[陝西定邊〜寧夏鹽池]或要葉,行牒[公文書]求之。

位置的には、北方民族が長安に向かう路の要衝であろう。中華帝国内にあるということで、植えるのが習わしだったのだろうか。
エンジュの葉は小さな楕円形で羽状複葉で数対の互生タイプ。形的には、好まれる理由はなさそう。薬なら、蕾や豆で十分だと思うが、皮膚に貼る用途ということで葉が欲しいということか。夏州は運送屋が集まる地のようだから、夏州槐葉は痔疾用に最高とかいう話が伝わっていたのかも知れん。

もう一つ。・・・

【三枝槐】,
相國
[最高位官僚]李石,河中永樂有宅,
庭槐一本,
抽三枝,直過堂前屋脊,一枝不及。
相國同堂兄弟三人,
 曰石,曰程,皆登第、宰執,
 唯福一人,歴七鎮使相而已。


李石の家系図は以下に示す。どこまで正しいのかはわからないが、唐王朝の李家の血筋であり、同堂の3兄弟をウリにしていたのは確か。そして、家にある老木を大いに誇って喧伝したに違いない。換言すれば、李石は弟の李福を高級官吏にするために、ありとあらゆる手をつかったということ。宗族繁栄を第一義にする儒教に従えば当然の姿勢である。にもかかわらず、残念ながら、宰相にはなれなかったのである。それでも、末弟よりはましなのかも知れん。

李神符[579-651年]…襄邑恭王
│李文, 他6子
├┐
│李挺
││
│李柏
││
│李
│├李倨
│└李程/表臣[766-842年]…796年進士及第

李捷

李堅


├李石/中玉[781-843年]…818年進士及第
├李福/能之[n.a.-878年]…833年進士及第とも
└李

李石の誇るこの家系図だが、祖には7子であり、その調子で5代続けたらとんでもない数になる。つまり儒教の至福たる宗族繁栄とは、他族抹殺と表裏一体の概念。そして、宗族内のとんでもない人数のなかでの角逐も日常的ならわしとなる。従って、せめても、同堂のよしみでそこだけはなんとしても強固な紐帯を、となるのは自然なこと。
蛇足だが、周代に、外庭に3本の槐樹を植えて、三公の座席を設けたことがずっと踏襲されている。本来的には、行政府首相+軍事統括責任者+監察長官を指す筈だが、実際にはすでにグダグダ化していただろう。宗族だらけの組織だから、職掌が権限を発揮できる根拠になっているとは限らないのである。
面三槐、三公位焉。州長衆庶、在其後。
  [「周禮」秋官 朝士三公]

そうそう、今村注に記載ありとされているので、引いておこう。
相國李石,河中永樂有宅。庭槐一本抽三枝,直過堂舍屋脊,内一枝不及。相國同堂昆弟三人,曰石,曰程,皆登宰執;唯福一人歴七鎮使相而已,蓋一枝稍短爾。
  [n.a.:「玉泉子」]

ついでにもう1種。
<楷>
言うまでもないが孔子廟の木である。・・・

【蜀楷木】,
[@四川盆地]中有木類柞,
衆木榮時枯,隆冬方萌芽布陰,
蜀人呼為楷木。


柞樹=櫟/クヌギ(久沼木)/Japanese chestnut oakだが、ドングリ族たる楢/ナラ類の総称と考えるべきだろう。(栗、椎、山毛欅/は入らない。)
植生で考えると、もともとは常緑広葉樹が茂っている地域[いわゆる照葉樹林帯]に、ナラ系の落葉樹が入り込んでおり、前者が伐採されると後者主体の林ができあがったりする。
そのような暖帯樹林相に、冬の落葉期に芽をだす木があるというのだ。理屈から言えば、落葉したため優占性が失われて、冬場のみ成育するということはありうるが、浅学故、そんな樹木がはたして存在するのかは知らない。(調べていない。)

ただ、弔いに大枚を叩き、長期に渡り全身全霊をかけた儀式を要求する宗教たる儒教を揶揄しているのは明らか。(日本は宗教部分を削って儒教を移入したので、感覚が違うので要注意。)
   「孔子廟の木」[2013.12.22]

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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