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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.11.9 ■■■

猛禽類補遺

「卷十六 廣動植之一 羽篇」の"難物"[→]に猛禽類が入っていた。
  【百勞】=伯勞/百舌[もず] or 鵙
  【/=鶻//隼[はやぶさ]の類縁
その補遺的な話が、「續集卷八 支動」に。
「卷二十 肉攫部」での記載[→肉攫部総覧/上]に余りに力が入り過ぎ、その割に抜けがあることに気付いて、付け加えておこう、といったところか。

についての追加情報。・・・

世俗相傳雲,
鴟不飲泉及井水,惟遇雨濡,方得水飲。

世俗の伝承でしかないが、この鳥、泉や井戸の水を飲まないという。しかし、雨で羽を濡らすと飲むようになる、と。

捕獲して、飼ってみた話で、鷹とは違って、なかなか人に懐かない鳥ということであろうか。

それでは、新たに取り上げている種に移ろう。
先ずは、木兔。
この漢字だと読める人が多そう。・・・

北海有木兔,類

耳があるということで、木の上に棲息する兎との命名は実に分かり易い。
もっとも、耳と言っても羽がそのような形にとび出ているにすぎぬから、昼のさなかに見付けた人は耳がある鳥となるだけで、耳朶がついた鳥がいると考える人はまずいないから、夜間にその姿を見れば角が生えた鳥と解釈するのは自然な反応である。従って、中庸をとって"羽角"と呼ばれている。
これがミミズクの特徴だが、分類のメルクマールとしては扱われていない。つまり、ミミズク類という概念は学問的には葬り去られている訳だ。

従って、あくまでも、鴟/梟/フクロウ/Owlの一種としての、雕 or 頭鷹/木菟 or 鴟/ミミズク/(Horned owl)ということになる。
 ご参考→ 「フクロウ文化について」[2013.8.6]

ただ、木兔だとすぐにどの鳥かわかるが、と記載されるとこれはナンダとなる。世俗用語と分類に拘る用語の対立は古代からすでに存在していたのかも。
マ、そうそう見る機会無しの鳥だろうから、用語が統一されることもなかったのであろう。

現代人は、木兔はわかるが、それがの類だと言われるとかえってなんだかわからなくなるのがつらいところ。

「山海經 北山經」第3山系列饒山に""が登場するがこれもなんだかわからぬし。
ともあれ、以下に登場する鳥は、すべて梟の類とみてよいであろう。
 主人一朝病,争向屋檐窺。呼群,翩翻集怪鴟。
 主人偏養者,嘯聚最奔馳。夜半仍驚噪,逐老狸。

   [「大觜烏」 唐 元]
 鴟夜撮蚤,察毫末,晝出瞋目而不見丘山,言殊性也。
   [「莊子」秋水]

次の補遺話に移ろう。

"鷹の雌雄は、ただ大きさが異なるだけ。形象では区別がつかない。雉鷹は小さいとはいえども、鷹は鷹であり、雄なのである。"[→肉攫部総覧/下]…の追記にあたる。・・・

凡鷙鳥,雄小雌大,庶鳥皆雄大雌小。

一般化できるとは思えないが、猛禽類の良心は子育てにはえらく熱心であり、母親主導の生活が営まれている訳で、雌の身体の方が頑丈で大きくなるのは自然な傾向とは言えよう。成式先生、結構、よく観察しているものである。
と言うか、見かけ雄雌の区別がさっぱりつかぬのに、当事者はどうやって配偶者をみつけるのか大いなる疑問を感じ、じっとペットの鷹を眺めていたのだろう。その辺りのセンスは実に冴えている。

そんなこともあって、雌雄がわかる、最小の猛禽類を忘れていたことに気付いて、追加したのが以下の話では。・・・

鷂子兩翅各有復,左名撩風,右名掠草。
帶兩出獵,必多獲


つまり、小生は、このように解釈した。
  鷂子=雀鷹/ツミ/Sparrowhawk(小:Japanese)
  鷂=灰鷹/ハイタカ/Sparrowhawk(大:Asian---かなり小型)
(ハイタカではなく、音便形のハシタカで記載されていることが多い。本当か、はなはだ疑問だが、"疾き鷹"が語源と言われているらしい。常識的には、体色上からの"灰鷹"では。尚、♂コノリ♀ハイタカと別名との説もあるらしい。それはツミではないか。♂♀は、見た"目"が違うから。)

ツミは日本独自種であるかのような中国名/英語名がついているが、大陸にも存在していると思う。
島国で小型化した鳥ではなく、森の中に棲むために身体が小さいと考えれば、そう見ざるを得まい。ツミとハイタカは同じグループにされていても、本質的に全く違う生活を送っており、羽の構造はかなり違う筈である。

言い換えれば、羽について細かく語っているから、これは森の中に住んでいる小鳥のツミと考える訳である。複雑な形状の障害物を除けながら、超迅速に獲物目がけて飛ぶ必要があり、それを可能にしている羽とはどうなっているのか気になったことを示しているのは間違いなかろう。

それに、ハイタカの文字"[=月+缶]+鳥"からすれば、長く揺れる様を言っており、上空でのんびりしている鳥ということになろう。これはハイタカの習性で、ツミには無い。
要するに、一見、姿だけは灰鷹の子供のような鳥がツミなのである。

(参照) 「鳥與史料 鴟科」Fonghuanggu Bird and Ecology Park, National Museum of Natural Science, Taiwan
(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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