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2010.4.16
 
 


日本での、電子版新聞の有料化見込みを考えてみた…

表層的に「電子新聞 v.s.宅配紙」を考えるのは不毛ではないか。
 新聞の電子版購読料を検索したら、日経の月額購読料4,000円を、デイリースポーツの1,890円と比較し、価格設定の背景を説明しているブログに遭遇。ブロガーは、20年も実名でネット活動をしている現役記者。
 骨子は、“日経に至っては紙の新聞の販売に影響させないことを至上命題にしている観さえあります。月額1000円前後まで下がれば劇的な変化を起こす可能性があると思います。”というもの。(1)

 う〜む。
 確かに、日本の大手新聞社は、産経新聞を除けば、電子化に関して消極的と言ってよいだろう。米国のように本格的なサイトを作ろうとはしないし、記事の情報内容も薄く、そんな情報でさえすぐに消去してしまうのだから。ネット活動に精力を傾ける人にとっては、販売網維持ばかりにこだわる新聞社の姿勢を批判的に眺めるのはわからないでもない。もちろん、宅配というビジネスモデルをそのままにしておいて、電子化が進む訳はないが、そこばかり見ていると、変化の端緒を見落としはしないか。

 特に気になるのが価格の話。小生も、低価格で電子版購読サービスを提供して欲しいと思っているクチだが、それが市場拡大の引き金になるとは限らない。高価格側から市場が開き、それが低価格サービスを生み出す切欠となるかも知れないのである。

魅力的なビューワーが出なければ宅配体制は続く。
 冷静に考えてみればわかるが、宅配新聞の仕組みで今後も食べていく気になればそれなりのことはできる筈。
 購読者減少は著しいといっても、ビジネス規模は小さいものではないからだ。それに、モノを配達し集金するという仕組みを活用すれば副業もありうる。
 そんなことを言うのは、ビジネスマンの目から見れば、日本の新聞事業は高収益ビジネスになれる特質を持っているからだ。ただ、できる限りそう見えないように工夫し続け、社会の公器イメージを醸し出してきただけのこと。おそらく、現状でも、リーダークラスは、印刷体制、運送・配送体制を共用化したり、合理化を行えば高収益企業になる。欧米の状況とは異なるのだ。
 はっきり言えば、言葉の上では危機だが、一般の企業と比較すれば、余裕綽々と言ってもよいかも。
 ただ、マイナーなポジションの新聞社は事情が全く異なる。リーダークラスと同様なインフラを維持してきたから、大きな負債を抱えているのは間違いない。その状態で、購読者が減ったりすれば、存続が問われる可能性はかなり高い。

 この見方が妥当なら、リーダークラスが宅配網維持に動くのは自然な話。電子化に対して臆病とかいう話ではなく、宅配ニーズに対して対応するだけで十分な収益を上げることが可能だからだ。逆に言えば、今のところ、読者の大半は今迄通り新聞紙を届けてもらいたいと考えているということ。それは習い性というだけではなく、パソコンではこまる点があるから。誰でも知っていることだが、書いておこうか。
  ・紙ならどこででも読める。
    朝、トイレでスポーツ面をじっくり読むのが習慣という人がいたりする。
  ・バラバラにできる。
    三面記事とスポーツ面を別な人が同時に見ることができる。
  ・役に立つ部分を切りとれる。
    購入品はこの手が多いからこそ、新聞広告を出そうとなる訳だ。
 まだまだあるだろうが、上記の特徴が特に重層的に効いてくる。それは、宅配とは世帯購読だからだ。個人用でないので、パソコンでは対応しかねるのである。従って、それなりの仕様のビューワーが登場しない限り、この層を満足させるのは至難の業。

宅配を越える魅力が無ければ、電子化は進まない。
 そうなると、いよいよビューワーが登場してきたから電子化必至となるかといえば、そうでもない。
 と言うのは、こうした議論は、あくまでも新聞を結構読む層での話しだからである。よく知られているように、新聞を読む時間が減っている。これは、まともに読まない人の数が増えているという現象を平均値で見た結果。じっくり読むほどの価値はないが、見出しと広告をざっと見て済ましているということ。そんな程度の用途でしかないのにもかかわらず、購読を止める気はない。ここが肝要。

 このことは、次の状況を示唆している。

(1) パソコンやテレビでニュースを見る程度で十分と考える層は増大していそう。しかし、新聞が邪魔な訳ではないから、家族に一人でもじっくり読む人がいれば、宅配購読は続けるということ。

(2) 新聞は読まないが、宅配してもらわないとこまるという家庭も多そう。テレビ番組案内が、チャンネルリモコンのところにないと面倒というのが最大の理由かも。それに、新聞そのものではないが、折込チラシの情報は貴重な筈。

 特に重要なのが、チラシの存在。これは新聞の宅配ビジネスモデルを支えるものでもある。広告の対費用効果を厳密に考えるようになってきたため、次第に枚数は減ってきたようだが、月に、一世帯で500枚近いのだから、1枚の配布料金を4円とすれば、2,000円近い収入が業界に落ちていることになる。

〜 電子チラシの例 〜
オリコミーオ [大日本印刷] >>>
Shufoo!(しゅふー) [凸版印刷] >>>
Yahoo!チラシ情報 >>>
チラシックス >>>
 もちろん、チラシの電子化も行われてはいるものの、流れが変わった感はない。即座に、チラシを取捨選択し、興味があったらその部分を切りとっておく習慣が続いているということか。

 それなら、その機能に特化したビジネスもあるということで、都会では、テレビ番組案内と挿入チラシの宅配サービスがある。(2)無料だから、どっと購読者が流れ込んでもよさそうなものだが、そうはならない。
 まあ、チラシなど不快という人もいるだろうし、食のデリバリーカタログのチラシだけ欲しいなど、ニーズも色々、難しくて当然である。
 高年齢層だと、この手の情報に関心を持っていると見なされたくないらしいし。こうした心理的バリアを突破できるだけの魅力あるサービスになっていないということだろう。

 この辺りもよく考えないと、電子化は頓挫すると思う。
 例えば、日本の若者をネット好きと見なす訳にはいかないのである。
 ご存知のように、米国のローカル紙が廃業に追い込まれた最大の原因は、Classified Ad.がネット化され広告収入が激減したから。日本とは全く状況が違うことにご注意されたい。
 若者がどのようにアルバイトを探すか見るとよかろう。都会ではもっぱら、無料誌。
 そこらじゅうに置いてあるのだから、なんとなく手が伸びるということか。そして、すぐに電話してみればそれで済む訳だし。

 一日中ケータイを弄繰り回し、メールを打ち続けている人達がコレ。
 従って、携帯電話で特売チラシや求人情報を送るサービスも登場したが、それが奔流化してはいない。
 そうそう、前に述べたが、ITの世界で生きている人達にしても、紙の本を執筆できると大喜び。そんな人達が、電子書籍リーダー機器に真っ先に飛びつくのである。
 余計なことを言うとえらい目にあわされるから、ビジネスマンは皆黙っているが 。なんだかね。

 宅配ビジネスモデル云々ではなく、若者が何故そこまで紙好きなのか、ご自分の頭で考えてみることをお勧めしたい。   →  「 日本の電子書籍化の動きは鈍そうだ」 [2010.3.8]
次回に続く >>>

 --- 参照 ---
(1) “新聞有料電子版、日経とデイスポの落差鮮烈”Blog vs. Media 時評 [2010.01.26]
   http://blog.dandoweb.com/?eid=86981
(2) 「タウンマーケット」 リクルート
   http://townmarket.jp/CSP/CSP01/CSP0100000.jsp?lp=lp100125&vos=ntwmafsbz100115001


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