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2009.10.19
 
 


昨今の政治状況を眺めて[オバマ政治を考える]…

 ついつい政治の話を続けてしまったが、せっかくだから、もう少し。
  → 「自民党総裁選挙」「オバマ政権の鳩山新政権への対応」 [2009.10.7/12]

 今回は、どうしてもだらだらと長くなるが、頭の整理にはなるかも知れないので、お読み頂く価値はあるかも。

ブレジンスキー教授から見れば、日本はチェスの一駒に過ぎない。
 一般の人でも知っている古い地政学の本がある。(1)著者は、Brzezinski元国家安全保障問題担当大統領補佐官(カーター政権時)。オバマ政権の外交方針立案を支えていると言われている人だ。

 おそらく、日本の民族派が一番お嫌いな本だ。現実をはっきり記載しているからだが。
 要するに、日本は、すべてアメリカ依存で、提供しているのは基地だけとの主張に近いのである。保護国同然といったところ。これで、カチンとこない訳がなかろう。
 ちなみに、要点を、なるべく訳本そのままの表現でまとめると、以下のようになる。

【現状】
 ・過去も現在もひよわな国
   -世界の資源と貿易の円滑な流れがわずかでも混乱すれば、打撃を受ける。
   -人口動態、社会、政治の弱みが表面化している。
   -安全保障を依存している強大な同盟国が、経済的には第一の競争相手だ。
 ・日米安保条約は事実上、日本をアメリカの保護国とすることを規定
   -憲法(アメリカが作った)にも制約を受けている。
 ・地域で政治的に孤立=国際関係でアメリカ依存
   -日本、中国ともに相手を信頼していない。
   -日韓関係は表面上良港なだけ。[過去の記憶-優越感]
   -日ロ関係は凍りついたままだ。
   -アジア諸国からアジアのまともな一員とは認められていない。[自国利益追求+欧米模倣]

【吉田ドクトリン: 旧来方針】
 (1) 経済発展が日本の最重要課題である。
 (2) 防衛力は最小限にとどめ、国際的な武力紛争には関与しない。
 (3) 政治的にアメリカに従い、安全保障面でアメリカに依存する。
 (4) 外交はイデオロギー色を排除し、国際協調に重点をおく。

【日本で主張されている地政戦略の3大パターン】
 (A) アメリカ第一主義
 (B) 世界重商主義
 (C) 積極的現実主義
 (d) 国際理想主義

 簡単に言えば、長らく、「(B)世界重商主義」路線で国際政治は米国にまかせるやり方を続けていたが、冷戦構造崩壊で脱皮を迫られているが、どうせ手詰まりだろうという指摘に近い。自民党は、民族主義的に振舞うが、所詮は「(A)アメリカ第一主義」で動くしかなかろうということ。それに風穴を開けたのが、小沢ドクトリンの「(C)積極的現実主義」といった構図である。
 ただ、「(A)アメリカ第一主義」は米国にとっては気が抜けない。表面的には追随するだけに見えるが、冷戦構造復活待望論者かも知れないからだ。軍事緊張を作り出すことに吝かではない勢力が伸張するとなれば厄介である。静かなら安心ともいかない。米国の傘に隠れて、なし崩し的に地域の軍事/経済の大国化を狙っている可能性もなきにしもあらずだ。日本という駒を上手く動かしているつもりが、逆に動かされていたのではたまらぬと言うこと。
 そうなると、米国のコントロール下での「(C)積極的現実主義」は、それなりに有難いということかも。もちろん、こちらの駒の方が使い手がありそうだというに過ぎないが。

 まあ、そんな過去の経緯もあり、じっくり鳩山政権の動きを見ていこうというのが、オバマ政権の基本スタンスかも。まあ、自然な流れではあろう。

不安定なのは日本の連立政権より、オバマ政権かも。
 こんな古い話が今でも結構通用するのだから、米国から見れば、日本が「ひよわな国」に映って当然でもある。
 だが、それなら、オバマ政権は磐石で、大胆な“Change”が進んでいるかといえば、とても、そうはいえまい。
 ここのところ、経済は回復基調との発表が多いが、好転が約束された訳ではないからだ。時に、サマーズ国家経済会議[NEC]委員長(クリントン政権財務長官)の発言と、その解説記事がメディアに掲載されるが、これを読んでいると低迷から脱するのは難しい感じがしてくる。個人消費が上向くことは考えにくいし、不良債権が消え去っている訳でもないからだ。とりあえず、緩やかなドル安期待位しかなかろう。その点では、協力的な鳩山政権誕生は有難かろう。
 ポイントは以下のようなところか。
  ・住宅価格はさらに下がってもおかしくない。
  ・商業用不動産価格が下落している。
  ・金融機関の不良資産は徐々に増えているが、それに対応して自己資本比率が上がってはいない。
  ・家計部門は惨澹たる状態である。
    -積み上がった借金総額は高水準
    -保有資産は大きく劣化
    -膨大な雇用喪失+賃金水準は2000年レベル

 もともと、バブルを繋げて、もたせてきた経済である。グリーンビジネスやアフリカブームに火でもつけば、なんとかなるかも知れぬが、そうは問屋が卸すまい。
  (1) 巨大なドル債権者(中国と日本)がドル機軸廃止の方向へと動くことを示唆し始めた。
  (2) ドル暴落を阻止するため、米国の政策にはしばりが発生する。
    -今のレベルでの財政出動は調達金利を上昇しかねない。
    -と言って増税は難しい。
    -ドルを供給し続ければインフレ化必至だ。
  (3) 膨大な戦費の垂れ流しを続けることはできなくなる。
  (4) 戦時経済的な国内経済の下支えが外れる。
  (5) 米国市場の縮退が始まる。

 この状況に気付けば、上述した「(B)世界重商主義」者は、米国市場から、BRICsや新興国へと大胆にシフトを始めるだろう。米国市場依存からの脱却は簡単ではないが、不可避と判断すれば、不退転の決意で怒涛のように動くだろう。生産性が低くどうにもならない産業のブル下がりを黙認し、国際競争に勝ち抜いて、日本経済を支えて来た優秀な層なのだから。
 それに伴い、米国は世界経済の牽引車としての役割を終えることになるのかも知れぬ。これは、米国国内での低所得層人口が益々増えるということ。
 そんな状態で、医療保険改革が頓挫しそうなのである。議会では、民主党v.s.共和党(増税反対+財政支出拡大反対+移民優遇反対)の妥協なきイデオロギー的な政治的対立が激しさを増している。
 まさに、“Polarization, we can believe in”の世界である。
 とんでもない状況と見てよいのでは。

カリフォルニア型の政治に陥いるとメタメタになる。
 ともかく、医療保険に関しては、議会は、妥協点を見出そうという姿勢が感じられない。これでは流産必至。
 “Change, we can believe in”どころではなかろう。
 カリフォルニア州の政治状況と瓜二つだ。地域毎に政治が色分けされており、直接住民投票まであり、妥協なき対立が発生すると、政治は機能しなくなるのである。イタリア並みの経済規模がありながら、経済まで滅茶苦茶になり始めており、お話にならぬ。
 ちなにみ、カリフォルニア州の主要産業を並べてみれば、垂涎ものなのだが。
  ・農業
    -地中海性気候
    -大規模灌漑農業
  ・鉱業
    -石油
  ・観光とメディア
    -ビーチと広大な森林公園
    -ハリウッド
    -ディズニーランド/ユニバーサルスタジオ
    -ワイナリー
  ・軍需航空産業
  ・知識産業/金融
    -ベンチャー・キャピタル
    -高等教育機関
    -シリコンバレー
    -コンピュータ・ソフト/サービス
    -バイオテクノロジー
    -ブランドアパレル
  ・NAFTA貿易
    -ロサンゼルス/ロングビーチ港湾

 これだけ競争力がある産業がありながら、政治的対立でニッチモサッチモ状態。無原則的な予算削減しかできなくなってしまったのである。
 これは米国の縮図である。
 以下のような州の状況を考えれば、その深刻さがわかろう。
  ・極端な貧困や、極端な地域格差が発生する可能性が高い。
    -所得階層の幅は広い。
    -英語が使えない移民人口が多い。
    -教育費用削減で労働力の質は低下する。
    -都市の生活コストが高くなってきた。
     (貧民化か他地域移動しか手がない。)
    -プロフェッショナルサービスが都会に集中してしまった。
  ・インフラ維持能力が急激に落ち込んでいる。
    -エネルギーと水資源の需給が逼迫している。
    -交通輸送のキャパシティが限界に達している。
    -高等教育機関の経営が悪化している。
  ・強い産業の雇用は海外に流れる一方。
    -プロフェショナル労働力はインド人・中国人に依存している。
    -印/中ネットワークによるグローバル分業が進み米国内での雇用創出効果は小さい。
    -雇用創出の主体は都市のサービス業で、単純労働がほとんど。
     *南部(ロスアンゼルス+サンディエゴ)
     *サンフランシスコ周辺のベイエリア
  ・重要でない部門への政治的支援は続く。
    -農業のGDPは無視できる規模(1%レベル)と思うが、支援が行われている。
    -サービス・不動産・流通の生産性向上につながる施策はなさそうだ。
     (GDPの半分程度に当たるセクターだろう。)

 まあ、米国が、日本の政治をとやかく言えた筋ではないことがわかる。もっとも、GDPの2倍の借金という途方もない腐敗政治までは進んでいないが。
 オバマ政権が医療改革でリーダーシップを発揮できなければ、政治的麻痺状態もあり得るかも。そうなると、経済低迷脱出は困難になり、貧困も深刻化する。下手をすれば、合衆国の内部崩壊の危険性さえある。

米国の中東政策は転換せざるを得ないが、まともな解は見つからないかも。
 しかも、国内問題に加えて、アフガニスタンでの劣勢が鮮明になってきたことも、ボディブローのように政権の力を弱体化させているのは間違いなかろう。厭戦気分が広がりかねない状況と見た方がよいようだ。
【アフガニスタン】
  ・アフガニスタン全体で見れば、タリバンの軍事力が優勢である。
  ・山岳地帯にはNATO軍は全く手出しができなくなりつつある。
  ・膨大な兵員を割いても、補給路確保は大変である。
  ・欧米軍は侵攻軍とみなされている。
  ・アフガニスタン政権の腐敗が進んでいる。
  ・部族野合的な性格上、国軍育成は困難を極める。
  ・イラン、ロシア、中国、インドに影響力を強める算段がありそうだ。
【パキスタン】
  ・パキスタン軍による国境地域への攻撃で、反パ組織が強化されてしまった。
   (親タリバン方針を援助で方針転換させたのはハイリスクな賭け。)
  ・米国の援助を失うと政権転覆の可能性がある。
  ・インドは政権弱体化を狙う。
  ・ロシア、中国は影響力を確保する方策を検討しているに違いない。
  ・パキスタンは核兵器増産を続けている。

 なにせ、事態は差し迫っている。“Top U.S. Commander For Afghan War Calls Next 12 Months Decisive”(2)というのだから。
 Brzezinski教授に至っては、ソビエトの二の舞とまで警告している。(3)敗退寸前といった印象はぬぐえない。まあ素人が考えても、当然の結果ではある。
  → 「アフガニスタンのテロ撲滅戦争の見方」 [2009.2.25]

 米国が、この先も長期間兵力を送り続けることができるかは疑問。これで何を得るのかという、有権者の声に答えるのは難しいからだ。イラクにしても、米軍撤退に伴う内戦勃発リスクは否定できまい。もしそうなったら、イラク派兵とは一体なんだったかということになり、国内は騒然となろう。
 身軽に進駐可能な米軍の力を使った、中東安定化構想は完全に破綻したということである。まあ、当たり前の話だ。
  ・軍事独裁政権を打倒しても、別な勢力がその地位を埋めようと動くだけ。
  ・世俗的な勢力は、利権をばら撒くことでしか権力維持ができない。
  ・中東一帯に反米感情が蔓延しており、駐留軍を攻撃するゲリラ活動はなくならない。
  ・ハイテク型の“軽い”戦争はゲリラ戦では効果があがらない。
  ・テロ活動抑止は、社会と密着している治安組織や民兵しかできない。
  ・軍隊は日常的な情報活動はできないから、ゲリラ的な攻撃には、集落破壊で対応になりがち。

 そもそも、タリバン相手の現在の戦争はテロ撲滅とは何の関係もなかろう。イスラム世界でテロリストが力を持っているとは思えない。ヘンテコな眼鏡から眺めるので、現実が見えないのではないか。どの政治勢力にしても、敵対国の政権を混乱させるために様々な仕掛けを駆使するだけの話で、その一つとしてテロ組織もあるというに過ぎない。マイナーな役割でしかなかろう。邪魔になれば、テロ組織は捨てられるだけ。
 少し眺めればわかる筈である。
 例えば、パキスタン国軍とタリバンは、援助を含む、微妙な共存関係を保つことで、パキスタンの国境地区での大規模戦乱発生を防いできたに違いないのである。国家観などない部族林立地区なのだから、それが一番なのである。米国は、それが面白くないということで、援助を見返りに、無理矢理にパキスタン国軍をタリバン潰しに引き込んだのである。それが、どんな結果をもたらすかはわかりきったこと。パキスタン内の欧米施設やアフガニスタンへの兵站基地が攻撃を受けるに違いないのだ。タリバンの仕業とされるが、国軍が絡んでいないとも言い切れない。援助がさらに増えるから、攻撃は大歓迎である。これが政治の現実では。
 パキスタン国軍は、クメール・ルージュ(ポルポト)やムジャヒディンに対する米国の支援の仕方を見てきたから、どう米国を利用すべきか様々な方策を練っているに違いない。タリバン撲滅に動いたところで、何の得にもならないから、米国は泥沼に引きづり込まれること必至。米国の援助で、核兵器生産をなんとか続けたいというところだろう。
 従って、本気でテロを防ぎたいなら、タリバンと戦うのではなく、タリバンに反米活動をしそうなテロ組織を隔離をさせる方策を考えるしかない。しかし、今更、そんなこともできないだろう。

 そして、もっと頭が痛いのは、イランとイスラエルの挑発的な動きと、イエメンを始めとする国内少数派のシーア派の抵抗運動勃発だろう。米国が手を抜いたりすると、中東全域が大混乱に陥りかねまい。

 それに関して、Brzezinski教授が耳慣れないメディアでインタビューを受けているが、(4)どうも、そうでもして警告を与えないと米国の押さえが効かなくなってきたということかも知れない。恐ろしいことだ。
 ミサイル防衛網について、・・・
 “The Bush missile-shield proposal was based on a nonexistent defense technology, designed against a nonexistent threat, and designed to protect West Europeans, who weren't asking for the protection.”
 そして、イスラエルのイラン攻撃については・・・
 “They have to fly over our airspace in Iraq. Are we just going to sit there and watch?”
 “If they fly over, you go up and confront them. They have the choice of turning back or not.”

 ついにここまできたということ。

 --- 参照 ---
(1) [山岡洋一訳]「ブレジンスキーの世界はこう動く―21世紀の地政戦略ゲーム」日本経済新聞社 1997年
  Zbigniew Brzezinski: “The Grand Chessboard: American Primacy And Its Geostrategic Imperatives ”
(2) Bob Woodward: “McChrystal: More Forces or 'Mission Failure'” Washington Post [September 21, 2009]
  http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2009/09/20/AR2009092002920.html?sub=AR
(3) [Video 53分] “Keynote Address - Dr Zbigniew Brzezinski” IISS @Geneva [11 September 2009]
  http://www.iiss.org/conferences/global-strategic-review/global-strategic-review-2009/
  plenary-sessions-and-speeches-2009/keynote-address-dr-zbigniew-brzezinski/
(4) Gerald Posner: “How Obama Flubbed His Missile Message” The Daily Beast [September 18, 2009]
  http://www.thedailybeast.com/blogs-and-stories/2009-09-18/how-obama-flubbed-his-missile-message/
(参考までにあげると、・・・)
  Zbigniew Brzezinski: “A Geostrategy for Eurasia” Foreign Affairs [September/October 1997]
  http://www.foreignaffairs.com/articles/53392/zbigniew-brzezinski/a-geostrategy-for-eurasia
  Zbigniew Brzezinski: “The global political awakening” NewYorkTimes [December 16, 2008]
  http://www.nytimes.com/2008/12/16/opinion/16iht-YEbrzezinski.1.18730411.html


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