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2015.2.12

毛沢東路線回帰か

中国人民解放軍海軍が空母艦上戦闘機「J-15」の配備を本格的に進めるらしい。そのため、航空機の性能が気になり始めた人が多いようだ。ことあるごとに、政府の息のかかった中国マスコミが、空母を大々的に宣伝しているからでもあろう。
おそらく、これこそが習政権のよりどころ。当たり前だが、権力闘争という意味で。
毛沢東の「人民解放」思想を隠れ蓑にした中華思想が破綻したため、政権維持のためには、今や露骨な覇権主義で進まざるを得なくなってしまい、そのシンボルとして使われているのが空母艦載機ということ。いくらなんでも、孔子崇拝復活という訳にはいかんだろうし。

しかしながら、いくら喧伝しようが、この戦闘機は、当面、対米露という観点では、軍事的にはほとんど意味がなかろう。
「J-15」とは「J-11」がベースとされる。これは、1977年登場の露Su-27空母艦載機ライセンス生産の改良版。喉から手が出るように欲しかった次世代機の「Su-33」は、露はまともには売ってくれなかったのである。まあ、恨み骨髄だろうから、なんとしても、露を越えたい悲願があろう。しかし、「改良型」が、一時代前とはいえ、本家のモデル「Su-33」の性能を越えることはありえまい。
艦載戦闘機技術の核はなんといってもエンジン。中国の場合、どう見ても露の旧型エンジンのノックダウンバージョンを使うしかない。この状態を脱することができない限り、機体の一部改編や装備のアップグレード以上は無理。"改良"すれば、ミクロで旧型機を"凌駕"するが、それをいくら積み上げたところで、総体として格段の能力向上は期待できない。全体バランスを考えた開発能力を欠くからだ。(だからこそ、米露は、新たなバランスを考えた、次世代機を開発してきた訳である。)
  → 「“航空元年”に思うこと」[2015.1.8]
つまり、「J-15」は、コピー元の露の旧型機レベルにさえ追いつくことは難しいということ。
素人がそんなことを断言できるのは、軍事技術「体系」を考えれば、当然だと思うから。艦載戦闘機の性能というか、能力を考えるなら、エンジン-機体構造-運用プログラムの三位一体として評価する以外にないからだ。
このうちの、どこか一部を善かれと思って"改良"したところで、それは全体から見ればマイナスになりかねないということ。
例えば、バランス上無理をすれば、耐久性が落ち、とてつもないカネ喰い虫になりかねない。下手をすれば、年中お蔵入りで実戦配備できなくなる。文字通り、張り子の虎的お飾りで終わってしまいかねない訳だ。
それに、なんといっても厄介なのは常時メインテナンスが必要なエンジン。中国はついに本格的なエンジン開発に手を染めたようだが、優秀なエンジニアを大量投入し、実験を繰り返す必要があるから、とてつもない投資。もちろん、現政権の期間で実現できる訳がない。
  → 「軍事大国化を急ぐ中国の危険性」[2014.11.17]
そもそも、単独就航空母は軍事オモチャ以外のなにものでもない。寄港地ネットワークなくしては、母港周遊しかできず、たいした意味がないからだ。


要するに、「アメリカ帝国主義は張り子の虎」時代の解放軍体質が又ゾロ表に出て来ただけ。自力で世界レベルに到達と気勢をあげている訳である。冷静に考えれば、「J-15」こそ、まさしく張り子の虎以外のなにものでもないのだが。
もっとも、弱小国に対しては張り子の虎でも大いに奏功するから、威信発揮の捌け口が無い訳ではない。ただ、それで満足することはなかろう。

中国は、カネにあかせて、近代兵器を量的に揃えて来たのは間違いない。ただ、そのポリシーは旧態依然たるもの。毛沢東流の人民戦争は数で凌駕すれば勝てるという発想から、兵器の数で凌駕すれば勝てるに変わったにすぎないからだ。その流れを加速させたのが江沢民政権。解放軍にポジションとカネをばら蒔くことで権力基盤強化を図ったからだ。お蔭で、水膨れ路線はいくところまで行ってしまった筈。(帳簿上は巨大軍備が整っている筈だが、おそらく実態は違う。)

そんなところへ、リーマンショック。以後、金欠で米国の軍事力が急速に落ち込んだ。こうなると、戦力的に米国に追いつけるのではないかと夢想してもおかしくない。自力で世界のレベル実現という、毛沢東の「大躍進政策」と全く同じ発想である。毛沢東思想復活と言っても、そう間違ってはいない。

中国が誇る兵器とは、モノ真似開発品でしかないが、それを、独自技術で世界最高性能が発揮できる「最先端」品と言い始めた訳である。こうなると、それを諌めたりすれば粛清の憂き目に合う。こうなると、もう止まらない。
この流れに乗り、権力闘争勝利を狙っているのが習政権である。要するに、「J-15」を褒め称えようとしない勢力の抹殺を図ることで、権力基盤強化を図っている訳だ。

もともと、解放軍とは、人民の海で戦うという毛沢東思想に諾々を従ってきた組織。鉄砲で政権をつくるという思想に支えられているだけで、現状認識能力が低い層が大半を占めている筈。
習政権は、そうした状況を見てとり、「戦争ができる軍隊化」を目指すということで権力掌握を図ったということでもあろう。
換言すれば、日本の自衛隊と表面上同等に見えるだけの兵器を揃えることを至上命題としていると言ってもよいだろう。もちろん、相変わらずの、量での凌駕路線ではあるが。052D型ミサイル駆逐艦配備など典型。・・・
中国海軍所擁有的配備相控陣雷達的駆逐艦数量在2018年将超過其在該地区的最大競争対手日本。[人民網2015年01月12日08:23]

この手の軍事組織に戦略発想など皆無であり、無責任な官僚制が特徴の国でもあるから、今後、なにがあっても、おかしくなかろう。
なにせ、現在の共産党中央は、世界の覇権国として動くという方針をはっきりさせつつある訳で。当然ながら、覇権実現の障害は軍事的に排除すべしというのが解放軍の基本姿勢となる。

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