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2003.10.12 
 
 


話題の町工場 [日進精機(3:職人の力)]…

 主要顧客が海外に移転し、できる限り新規投資を抑え、使い捨て型製品を少なくしようという流れのなかで、単純に職人芸を磨き続けるだけでは、金型ビジネスで成功するのは難しい。このことを、ながながと、説明してきた。
  ・ 「長島精工」
  ・ 「日進精機(1:主力事業)」
  ・ 「日進精機(2:中国との競争)」

 しかし、武器が「職人」しかないなら、どうしたらよいのか。
 そのヒントを、日進精機の動きから読み取らなければならない。少し考えてみよう。

 「職人」を武器にするなら、まずは、必要なスキルをはっきり定義する必要があろう。職人が持つ「暗黙知」で戦うべし、と一般論で語る人が多いが、このような曖昧な定義ではどうにもならない。方向を間違う可能性さえある。
 使い込んだ古い工作機械を駆使して、素晴らしい金型を作れる熟練者を重視すべし、という結論に繋がりかねない。これは、伝統を重んじる、真似が難しい「宮大工」の世界に近い。これで生き残れる可能性もあるが、飛躍パターンではない。

 それでは、「職人」のスキル要件はなにか。
 工作機械の自製などできないのだから、少なくとも、NCマシーンを駆使できる能力と、CADシステム活用能力は不可欠と言えよう。
 といっても、コンピュータの深い知識が必要な訳ではない。保存図面を活用したり、図面のやり取りができ、汎用機械のコンピュータ制御ができる力があれば十分だ。
 逆に、いくら職人芸に秀でていても、IT技術を生かしたシステムへの対応力が無ければ、要件は満たされていない。

 この要件が重要なのは、町工場でも、ネットワーク化すれば、大企業と同一の土俵で戦える点にある。
 (余談だが、日本の機械系産業の強みは、ここでの標準化をいち早く進めた点にあると思う。)

 しかし、これだけでは、安価な労働力を駆使する企業には勝てない。

 そこで次ぎの手が必要になる。担当エンジニアの質の向上だ。ここが難しい。
 例えば、NCマシーンの習熟度で競っても、決め手にはなるまい。というより、中国のエンジニアと戦って勝てるとは思えない。他社には真似できそうにない、質を上げる工夫が必要なのだ。

 それでは、どのようにして質を上げたらよいのか。
 普通の金型教育項目を見てみよう。普通は、以下の3つに分けられている。
  1 金型設計:パートライン、ゲート、ランナーの設定と、分割/突き出し位置決め
  2 金型製作:目的別工作機械選定と機械の使い方、特に放電加工機利用方法、仕上げの仕方
  3 金型修理

 上記の内容を、専門家から学び、OJT研修に励めば、最低限のことはできる。しかし、最低限でも、工作機械は優れているから、ほぼ図面通りにできあがる。
 しかし、それだけでは、一向に超精密金型は作れないのである。

 こうしたカリキュラムに決定的に抜けている点があるからだ。
 それは、「段取り」である。

 どのような工具で、どのような手順で、しかもその作業を上手く進めるためにどのような治具をつくればよいのか、といった知恵を絞るプロセスのことである。
 機械は確かに正確無比だが、加工作業を始めれば、作用反作用の法則で、材料に必ず歪みがでる。温度も変わる。理屈通りのモノはできない。
 従って、「段取り」作業の質が結果を左右する。しかし、このプロセスに関する教科書は無いし、品質統計データも揃っていないのが普通だ。従って、職人の知恵を生かすことができる。
 (特に差がでるのは、治具だ。まともに開発すれば膨大な金がかかりかねないからだ。)

 この知恵を生み出すためには、総合的な判断力と、試行錯誤が不可欠となる。この仕組みを、日進精機は率先して作り上げたといえる。

 量産型の事業では、こうした仕組みは作れない。様々な材料、色々な形態の、一品モノを作ってきたからこそ、応用がきくのである。特殊品を作っていても、基本は汎用品と違わない。どの会社でも手に入る機械を使いながら、その利用方法を工夫するのだ。
 このため、完成した金型の使用工程の知見も必要になる。超精密実現には、金型のどの点に注意すべきかなど、一般論では議論できない。類似の製品のプレス工程を検証し、実際に検討してみない限り、知恵は湧かないのである。

 従って、余り儲からなくとも、新しい知見が得られる注文は、受けることになろう。そこで得られる新しい知識が財産であり、競争力の根源なのである。
 新しい精密製品をプレスで作る場合は、日進精機に頼むのが一番確実で便利だ、という状況を作り上げている訳だ。


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