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2004.7.2 



腕時計産業への新規参入…

 社会が成熟してくれば、パーソナル嗜好が進むのは当然である。日々の生活に追われなくなれば、自らの好みを大事にするのは自然な流れといえる。自分のライフスタイルに合わせた商品保有や商品購買が楽しみの1つになってくる訳だ。
 といって、一人がこなせる情報量には限りがあるから、こうした「嬉しさ」は、現実には、自分の好みのブランド品を選択することで味わうことになる。
 従って、この先、ブランド化の流れは止まることはないと思う。

 しかし、ブランドと一口に言っても、「クラス」顧客からの注文で生き延びてきた、知る人ぞ知るブランドもあれば、大衆消費時代に生まれた差別化を意識した人工的なブランドまで、幅広く、膨大な数がある。

 もともと時計メーカーではなかったカシオ計算機は、自社技術を強く訴求できる新ブランドを立ち上げることに注力してきた。日本のハイテクイメージ、小型・高性能・高品質といった道具としての素晴らしさ、独自のこだわり感、すべてをブランドに埋め込んだのである。その結果、「クール」なブランドが出来上がった。
  → 「腕産業への挑戦」 (2004年7月1日)

 一方、欧州時計メーカーは、クラフツマン・イメージを重視してブランドを構築してきた。手工芸の限定作品だから、大量販売という訳にはいかないが、総じて元気である。
  → 「元気な伝統腕時計メーカー」 (2004年6月30日)

 これを見て、欧州時計メーカーは、幸運にも時流に乗った、と見るべきではないと思う。流れを率先して作ってきたから、好調なのである。

 確かに、VACHERON CONSTANTIN のように、創業1755年といったブランドがあれば、なにもしなくても生きていけるように映るかもしれない。しかし、よく観察すれば、そこには、努力と知恵を発見することができる。たまたま発生した、「残り物には福」現象とは思えないのである。

 例えば、FRANCK MULLER は「天才時計師」と呼ばれているらしいが、1990年代に突然降って湧いた話しである。IKEPOD にしても、誰が見ても他とは違うデザインを新しく作り出した訳で、「歴史」をウリにしているとは思えない。

 TAG HEUER にしても、タイガーウッズモデルやアントンセナモデルで売り出しており、伝統に安住している訳ではない。

 PANERAI に至っては、創業は確かに1860年と古いが、市場に登場してきたのは1997年と、極く最近のことである。時計に興味を持たない人からすれば、夜光塗料文字板のイタリア軍用時計というだけのものでしかないが、一気に人気を博したのである。

 英国のAccurist Watches もスイスのパーツを使って時計作りを始めたのは1946年だが、未だに宝飾時計の老舗としての地位を保っている。(1)

 皆、独自のカルチャーの打ち出しを工夫していることがわかる。CONCORD は超薄、BREITLING はクロノグラフ、といった点での特異性で訴求力を高めている訳だ。

 誰でも知るブランドROLEX にしても、栄光の「オイスターケース(完全防水)」に安住している訳ではない。アンティークから、新品まで、コレクションの喜びを提供するための仕掛を着々と作り上げている。機械式再興のために、巷の時計修理技術者を養成しているだ。(2)

 伝統と歴史にあぐらをかいていた訳ではない。どう見ても、復活のための努力が実ったのである。

 と、言うことは、歴史がない企業が、スイスの伝統企業に対抗するのは難しい、とも思えない。知恵を絞れば、競争することはできる筈だ。

 もちろん、日本の大手企業のクラフツマンが直接「完成度」で勝負を挑むことできる。
 実際、そのような取り組みが始まっていることがよく報道される。「モノ作り復活」との文脈で紹介されるのだ。しかし、欧州企業のような美しいウエブを作りあげる気はなさそうに見える。これでは職人芸競争になりかねない。折角、技術力があるなら、その力を競争力向上に繋げるための仕掛を考案すべきだろう。

 欧州企業のイメージが、「クラフツマン的」デザインをウリにしているのだから、秀逸なデザインを切り口にすれば、新規参入も可能な筈だ。特に、日本のように、成熟した大市場と、豊富な質の高いエンジニアを抱えている社会では、チャンスは転がっていると言えよう。

 KENTEX(3) は1997年からイタリアで販売スタートした新顔の日本ブランドである。イタリア市場で試した翌年、国内販売を開始した。

 SHELLMAN(4) も日本からの挑戦である。もともと、PATEK PHILIPPE のアンティーク時計を販売していたが、CAMILLE FOURMET との合弁で、1996年から自社製品を始めた。

 日本の時計メーカーは5社、と確定している訳ではないのだ。
 → (2004年7月5日)
 --- 参照 ---
(1) http://www.accurist.co.uk/
(2) http://www.tokyowatchtechnicum.jp/op.html
(3) http://www.kentex-jp.com/htmls/index_cp.html
(4) http://www.shellman.com/about/aboutus.html

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