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2007.6.6
 
 


日立製作所不調の遠因…

 日立製作所の“株価は2002年後半から低迷したままである。期待感などないといえる。”と、あえて失礼なことを書いたのは、2003年春のこと。
 それから4年たった。
  → 「日立製作所の株価水準の意味 」 (2003年3月9日)

 流石に、株価は純資産の価値を越えた。しかし、その程度で留まったまま。

 売上が伸びているのに、ここ3期連続で営業利益が急落。製品価格の下落や、原材料費高騰など、競合他社も同じ条件下にもかかわらず、よく比較される総合電機の他2社は増益基調。市場の評価が低いのは致し方あるまい。
 ともかく、優秀なエンジニア・研究者を大勢抱えているのに、その知恵を業績に生かせないのである。
 日本の代表的な企業がこれだ。実に、こまったものである。

 しかも、子会社がおしなべて好業績なのに、本体は不振。グループ総体で力を発揮できるマネジメントを追求していた筈だから、本体が飛躍しそうなものだが、全く逆である。これでは、買収して、900社もある連結子会社を次々と整理することで、膨大な利益を生み出せると考える人が出ないのが不思議な位だ。
 総合電機各社は、総花経営との批判を浴びて以来、重点分野を明確にして、資本効率向上に邁進してきたと思っていたが、この会社だけはちょっと違うようだ。

 ・・・と言う見方が多いようだが、そんな問題だけではないように思う。
 グループ企業として、シナジー効果を発揮するとの発想で経営を進めるから齟齬が発生しているのではなかろうか。

 と言うのは、確かに、総合電機といえばそう分類できないことはないが、どう見ても、その範囲を超えた巨艦である。多角化の程度からいえば、金融から原子力発電までかかえる米国のGeneral Electric 並の広さ。
General Electric の主要事業
(注意:比較のための勝手な分類)
金融 個人向
法人向(リース, 不動産)
産業システム 発電システム
航空機エンジン
水質浄化システム
医療用画像診断装置/病院システム
(素材) (エンジニアプラスチックス)
電気機器 家電/照明
セキュリティ, センサー, FAシステム
放送
エンタテインメント
“NBCユニバーサル”
 General Electric はエジソンの会社だが、総合電機と見る人はいまい。Fortune 500の産業分類では“Diversified Financials”である。(1)
 常識的には、こうした企業は“conglomerate”。米国では、この業態は経営スキルが蓄積できないので儲からないとされ、とうの昔に嫌われ人気がない。にもかかわらず、General Electric は利益対前年比27%増と好調そのもの。
 この事実を見た上で、「GEは全く無関係の産業に色々と進出しているのだが、これは間違いなのか?」と聞かれ、「その通り。conglomerate”は駄目。」と言える訳があるまい。問題は業態ではないのである。
  → 「総合電機の終焉 」 (2000年7月15日)

 誰が見ところで、General Electric の事業領域はバラバラで統一性など見られない無い。しかし、マネジメント上では、確固たる思想が貫かれている。そのため、コア人材は金太郎飴化しており、バラバラではないのだ。

日立製作所の事業領域
(注意:勝手に名称をつけた)
分野 営業
利益率
材料 7%
デバイス 4%
  [ディスプレイ] 0%
機器 赤字
システム(IT) 2%
  [ソフト] 7%
  [ハード] 赤字
システム(他) 1%
金融サービス 46%
物流サービス 2%
 日立製作所も同様に“conglomerate”だ。
 ところが、この企業は、技術やビジネス上での“直接的”シナジー効果を狙っているようだ。理屈から言えばありうるが、難しいマネジメントである。余りに広い事業領域だから、『木を見て森を見ず』になりかねないのだ。ミクロでシナジー効果が発揮できそうに映っても、マクロでは会社全体の足を引っ張ることになりかねないからだ。

 そんな危惧の念を抱かせる理由は、この企業の技術視点にある。
 わかり易いから、事業領域毎の営業利益率で見てみよう。数字を見た瞬間、「もの作り」に長けた会社というイメージに疑問を感じるのではなかろうか。材料は別として、ハード的な分野で利益が稼げない体質に陥っているように見えるからだ。

 おそらく、この企業の技術的な強みは「もの作り」の力ではない。エンジニアリング力が強いのである。「現場」の力が優れていると言うこと。
 これは言葉の遊びではない。曖昧な表現を避けるべしと主張している訳でもない。
 技術マネジメントの核心、自社技術体系の問題なのである。

 はっきり言えば、「もの作り」で頑張るとか、「すり合わせ」活動で強みを発揮しよう、という発想では、この企業の場合、折角の力が生きてこない可能性が高いということ。自社の力が生きない見方をしてしまうから、事業観が歪んでしまうのである。
 そのツケが、ディスプレーやハードディスクの展開に現れているのではないか。
続く>>>

 --- 参照 ---
(1) http://money.cnn.com/magazines/fortune/fortune500/2007/snapshots/561.html
(財務データ)
 ・日立製作所 2007年3月期決算の概要
  http://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2007/05/0516/0516.pdf
 ・日立製作所 10年分のデータ
  http://www.hitachi.co.jp/IR/financial/highlight/financialdata.pdf
 ・三菱電機 平成18年度連結及び単独決算概要
  http://www.mitsubishielectric.co.jp/ir/data/financial_result/18_6/1.html
 ・東芝 2006年度(第168期)決算概要
  http://www.toshiba.co.jp/about/ir/jp/library/er/er2006/fy/html/ter2006fy_01.htm


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