↑ トップ頁へ |
2007.6.18 |
|
|
日立の医療機器事業を眺めて…日立製作所グループに、売上高約1,200億円の日立メディコという企業がある。商品ラインには、コンピュータ断層装置、X線装置、医療電子装置、サービス・医療情報、核医学装置、が並ぶ。(1) 営業利益率は3%と低く、業績は良くない。構造改革中である。 この企業を取り上げるのは、日立製作所と似た多角化展開企業、GEが手がけている分野だから。 根が同じだから、機関車、タービン、モートルといった伝統ビジネスでも重なるし、原子力発電分野では提携関係にある。 しかし、すでに述べたように、両社の方針は似て非なるもの。 → 「日立製作所不調の遠因 」 (2007年6月6日) 医療機器分野は、その違いが特にわかり易い。 と言うのは、日立メディコの考え方が明確だからである。 ・・・“総合医療機器メーカーとして、当社をはじめ日立グループ全体の技術力を活かした新製品の開発から製造を行い”(2)グローバル展開を進めるとされている。 ハード中心の「もの作り」企業なのである。 一方、GEは、1990年代から、機器メーカーから脱すべく動きを開始していた。 → 「電子医療機器研究にはネットワーク型事業構想を組み込むべきだ 」 (2000年6月1日) もちろん、技術を武器にした飛躍狙いである。 と言っても、ビジネスの主体はあくまでも画像診断機器だったから、最初は、脱X線フィルム化を図っただけ。しかし、市場が低迷しようが、画像アーカイブを構築するためのコンピュータシステムの研究開発には継続的に投資を続けた。 それが単品機器販売ではなく、ネットワーク化した病院システムに繋がることを見越していたからだ。 IBMが高収益化可能な領域をはっきりさせたように、GEも、この領域が高収益ビジネスになると考えたからに他ならない。 当たり前だが、こんなシステムは特殊だから、そう簡単に真似などできない。それに、病院基幹機能の優劣を決める仕組みでもあるから、病院側もなんとしても欲しくなる仕組み。高収益化すると考えるはごく自然なこと。 機器単品での品質・機能の競争や、誰でもできそうなサービスはそうはいかない。 先端技術だから、ちょっとそっと注力する程度ではとても勝てないし、もしも技術で追い抜かれたりすれば、価格勝負で生き残りながら、打ち負かす策を考えなければならない。つらいビジネスだ。 だが、高度な技術人材を大量に投入しているのに、低収益というのは、どう考えてもおかしいし、そんな社会は間違っている。 間違いなく、これがGEの戦略展開の原点である。 高収益になるタネはある筈なのである。そのような経営を進めることが、経営者にかせられた使命ということ。 ここで間違ってはいけない。ハイテク医療機器は儲かりそうもないから、ハードの手抜きとか、サービス重点化に移行した訳ではない。次世代診断機器でも先行して勝利を収めるためには、収益をあげるビジネスにしなければならないということ。ハードの革新的な研究は不可欠であり、ここにも研究開発投資を怠らないのは当然である。 実際、どの程度成果があがったかは、日本語のキャッチコピーだけでわかると思う。(3) “国内初!” “言うなれば2倍の生体情報取得能力。手にいれたのはつまり、驚異の視力。” 機器で先行することを狙うが、機器単品ビジネスだけでは、このビジネスは成り立たなくなると早くから見抜いていただけのことだ。 それは、GEのジェットエンジンビジネスとの“相互学習”のシナジー効果ともいえそうだ。単品機器メーカーからの脱皮が不可避だった理由を、他の事業から学んだのである。 ・・・販売したすべてのエンジンについて、過去のすべての履歴を保有し、どこでも診断・修理が対応可能な仕組みを作って、圧倒的な地位を築いたのである。 こんなことは頭で考えれば、誰でもわかる。 それに、画像は桁違いに情報量が多いとはいえ、そのアーカイブの仕組みがとりたてて難しい訳ではない。それを取り込んだ病院システムも、画期的な技術が必要という訳でもない。 しかし、これが結構難しいのである。 必要なのは“全体の技術力”だからだ。 “全体の技術力”とは、物理的には様々な要素技術の集まりではある。しかし、それだけではない。優れた要素技術を保有していても“全体の技術力”が高いとはいえないのである。 例えば、技術のレイヤーを考えたマネジメントができないと、“全体の技術力”は発揮できない。 (センサー部品から、単品機器、病院システムまで、様々なビジネスの階層があるが、ある階層のどの技術の強みが他の階層のビジネスにどう影響を与えるか、考えたマネジメントという意味。本来、「すり合わせ」技術が長けているとは、これを指す。しかし、多くの場合、技術干渉する複数の部品を、どう寄せ集めかという技術に矮小化されている。同一階層での技術しか見ないマネジメントに徹している訳である。) ちなみに、GEがシステム構築に当たっては、日立製作所のライバルの日本のコンピュータメーカーにかなりの部分を頼ったと言われている。 今、GEの機器から出力された画像医療情報は専用の中央サーバに収められるようになっている。各地の病院は光ケーフルを介してワークステーションで好きな時にこのデータを見ることができるようになった。 素人でも想像がつくように、こうしたデータを駆使して、三次元画像でどのように診断すべきか、次の段階に向けた研究開発が進んでいる。 GE Medical Systemsの経営者Jeffrey Immelt が、GE全体のトップに採用されたのは、当然だと思う。 → [VIDEO] “Jeff Immelt Chairman & CEO of G.E. 6th April 2005” (50分) @Kellogg Business Leadership Club (1) http://www.hitachi-medical.co.jp/ir/high/index.html (2) http://www.hitachi-medical.co.jp/ir/kessan/pdf/kessantansin1903.pdf (3) http://www.gehealthcare.co.jp/rad/mri/excite3t/index.html 侏儒の言葉の目次へ>>> トップ頁へ>>> |
|
(C) 1999-2007 RandDManagement.com |