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今回は観光業を考えている訳ではないが 2006年8月31日
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建築ツアーのお勧め…

 ビジネスマンは、文字通り、日夜を問わず課題発見とその解決に頭を使わざるを得ない。
 熱中するから成果もあがるのだが、たまには気晴らしも必要ではなかろうか。
 そんなものとして、日本の建築屋さんの“成果物”ツアーをお勧めしたい。
 結構お洒落で愉しいと思うが。

 建築関連業界の人は別だが、それ以外の人達は、建築物にはほとんど関心を持たないようだ。人それぞれだから、無理に興味を持つ必要はないが、この分野はライフスタイルの微妙な変化や、思想の変遷を感じとることができるから、たまには、眺めたら如何だろうか。
 前もって勉強などせずとも、建築を眺めるだけで、頭を使うことになる。そこから何かヒントが得られるかもしれない。

 こういう小生も、全くの素人である。しかし、素人だからこそ、間違いを恐れず、簡単に説明できるとも言える。
 建築を見ていれば、なんとなく流れが見えてくるものである。

 例えば、高年齢層に懐かしい建築家といえば、なんと言っても、2005年に亡くなった大御所、丹下健三である。
 国家的イベントと言うと、必ず登場した人である。
 アスベスト問題でしばらく閉鎖されるらしいが、原宿駅脇の、貝の螺旋状建物を見れば、その感覚がよくわかる。
 いかにもメインテナンスが大変そうな吊橋型構造物で、技術屋なら経済性の観点で一番嫌いそうな施設だが、造形の奇抜さという点ではピカ一である。政治的モニュメントとしては確かに優れた作品だろう。
 もっとも、建築に興味を持たない人にとっては、代々木体育館より、新宿の新都庁舎が身近な丹下作品だ。見るからに壮大な建物である。といっても、東京では、ゴシック調の建築そのものが醸し出す威圧感の凄さで知られているというより、受注の辣腕ぶりで有名になったが。

 丹下時代の次を担ったのは、当然ながら、こうした政治的建物と一線を画す人達である。
 典型は黒川紀章氏だろう。表参道の日本看護協会ビルを見ればその思想は一目瞭然。
  → 「表参道のビル探訪 」 (2005年12月12日)
 使い心地や、ビルとしての経済性など、どう見ても二の次。既存思想への“アンチテーゼ”としての建物だ。
 この対極が、槇文彦氏の建物。六本木のテレビ朝日のスマートなガラスビルに、政治臭さは感じられない。
  → 「六本木ヒルズと丸の内の違い 」 (2005年12月26日)
 言うまでもないが、両者ともに、丹下門下生である。

 そして、最近の巷の話題と言えば、安藤忠雄氏の「表参道ヒルズ」。地に足をつけた建築ということらしい。土着文化を大切にしようという思想だ。
 ここら辺りが第三世代となるらしい。

 それでは、第四世代は誰か。

 その代表は隈研吾氏ということのようだ。愛知万博の担当者になったものの、規模縮小で降りた方だ。

 この方の発想は、第三世代までとは相当違う感じがする。
 なにせ、素人が読めそうな建築思想本を出しているのである。(1)
 その思想とは、周囲から飛び出すような、目立つ建築物で気を引く発想からの離脱といえようか。“オブジェ的なものを否定していきたい”(2)ということである。
 手近なのは、地下鉄外苑前駅近くの、お寺ビルの「梅窓院(3)」と「NTT青山ビル(4)」。両者を眺めると、なんとなくだが、そうした感覚が伝わってくる気もする。

 だが、本心を言えば、青山のビルにはたいして興味がわかない。
 なんと言っても、熱海のヴィラ「水/ガラス」だ。写真だけの話だが、余りに素敵で息をのむ。遊びに行きたいものだが、残念ながら、そんなことはできない。
 このお宅はブルーノ・タウトが建てた日向邸のお隣で、水の縁側があるという。(5)水、硝子、海、斜面の緑といった生の素材を使い込んだ建物という感じがする。まことに羨ましい限りのお宅である。

 建築の面白いところは、こうした素敵なヴィラを生み出す流れと並行し、住宅とはどうあるべきか、原則論を追及する建築家が頑張っている点にある。
 2005年に亡くなったもう一人の著名な建築家は、住宅に徹底的にこだわった。建築家としての自己主張、芸術性より、住む人への配慮を重視した稀な人である。
 言うまでもないが、ワルター・グロピウスの弟子と言われる清家清である。
 しかし、この人の最大の功績は、ユニバーサル・デザインの流れを作ったという点だろう。その主張は古い。(6)問題提起が、早すぎたかもしれない。

 こんな話をしたくなったのは、知る人ぞ知る超有名な建築関係の本屋さん(7)が、2006年7月から突然日記の掲載を始めたからである。
 別に、店員さんのダイアリーが面白い訳ではないが、その意気になんとなく感じるものがあった。
 素人が建築の見て歩きをする前に、一度、神保町のこのお店で、本を眺めるとよい。お客さんは専門家と学生ばかりだが、本が整然と並んでいるから、建築とはどうなっているか、なんとなくわかる筈である。そして、好きな本が見つかるかもしれない。

 異業種の人達との交流も悪くはないが、自分の頭で異業界の動きを実感した方が、脳味噌をより強く刺激すると思う。
 頭を使った、建築見て歩きは、創造力の鍛錬にもなるのではなかろうか。

 --- 参照 ---
(1) 隈研吾「新・建築入門−思想と歴史」 ちくま新書 1994年、等
  http://www.kkaa.co.jp/J/main.htm [profile→publications]
(2) http://www.so-net.ne.jp/tokyotrash/_media/kuma/media_kuma.html
  このインタビューでは世代が示されている.
  ・1913年生まれの第一世代: 丹下健三
  ・1930年前後世代: 槙文彦、磯崎新、黒川紀章
  ・1940年前後世代: 安藤忠雄、伊東豊雄、長谷川逸子、石山修武
  ・そして、1950年代生まれが第四世代
(3) http://www.baisouin.or.jp/
(4) http://www.escorter.jp/gaiyou/index.html
(5) http://www.tozai-as.or.jp/kouen/00-4/03.html
(6) 情報センター出版局“清家清の本”シリーズ
  「やすらぎの住居学」[1954]
  「知的住居学[1979]
  「ほんもの居住学」[1989]
  「やさしさの住居学」[1996]
  「ゆたかさの住居学」[1998]
  http://www.4jc.co.jp/books/search_series.asp?sid=21
(7) http://www.nanyodo.co.jp/ 「南洋堂日和」


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