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【古都散策方法 京都-その46】 体質を見抜く。[風習維持]
〜 盆踊りはどこでも盛んだが、信仰とは無縁なイベントになってしまった。 〜
小生は盆踊りには参加しないが、眺めるのは好きである。と言うか、涼しくなった夜の散歩のついでにビールを飲んで休んでいるにすぎない。 東京でも、地域主催でそこここで行われているから立派なものである。基本は東京音頭・五輪音頭のようで、子供が多いと、ドラえもん音頭も流れてくる。もっとも、炭坑節も登場するから、なんでもありではある。と言っても、大阪の河内音頭や、近江商人が全国に広げたと言われる江州音頭を耳にしたことはない。なんらかの選択基準はありそうだ。
ということで、信仰篤き京都北西部ではどんな盆踊りが行われているのか、興味を覚えた。上高野は「念仏踊り」、修学院は「お題目・紅葉音頭」、一乗寺は「鉄扇音頭」と呼ばれているようだ。ちなみに、その奥の大原は歌だけの「道念音頭」で、日蓮宗系の松ヶ崎は「お題目踊り・さし踊り」らしい。
むむ〜。
どう見ても、芸能イベントの類とは無縁そう。信仰と直接的に繋がる名前である。
全国どこだろうが、もともとは信仰に根ざした独特の盆踊りがあった筈。しかし、精神的にも、物理的にも、それを受け継ぐ人がいなくなり消滅の憂き目というのが現実。たいていの盆踊りは遊興イベントに近い。
京都はそんな流れに棹差し、希少文化継承に燃える人が力を発揮している地と言えそうだ。
そう考えてしまうのは、東京で生活しているせいもある。
小生は、盆踊りに宗教性を感じた覚えは一度もないのである。
それは、例えば、恵比寿のように近隣商店街が駅前ロータリーや道路で開催するといったものが多いせいもある。お寺や神社の敷地を使うことも少なくないが、表参道地区のように、どう見ても地域イベント。かつての麻布十番など、盆踊りというよりは夏休みの終わりの国際祭。踊りのメインはサンバで、温泉横の道路で日本の踊りもといった印象。
こんな状況で、盆踊りとは空也上人の踊り念仏が発祥と言われてもさっぱりピンとこない。盛り上がり方から言えば、収穫祭での楽しげな踊りに近いせいもある。観光イベントでも、弘前ネプタのように、漆黒の暗闇を沈んだ音調で静かに行進するような精神を感じさせるものもない訳ではないが、たいていは華やかそのもの。
〜 京都には、踊り念仏の精神が色濃い盆踊りが数々残されている。 〜
しかし、上高野地区の状況を考えると、京都には違う流れがありそうな気もしてきた。
“(念仏狂言が、)壬生寺、清涼寺、引接寺(千本ゑんま堂)にどうやら残っている、それこそ無形文化財的なもので、これもどこまで続くかはわからない”(37回)と見ていたが、そうとも言えないのかも知れぬ。
念仏狂言は、現代には適合しずらい感じがするし、娯楽性も今一不足がちだから、だんだん廃れていくと見たのだが、それはステレオタイプの見方で、現実はどうも違うようだ。
→ “ゑんま堂狂言” (C) 千本ゑんま堂大念佛狂言保存会
そんな気になったのは、国の重要無形民俗文化財とされている“六斎念仏”が、京都のあちらこちらに残っていることを知ったからでもある。
と言うと、“六斎念仏”に興味を覚えたように受け取られがちだが、そうではなく、時宗のお寺での盆踊りを眺めた成り行き。
時宗の総本山は神奈川県にある。もちろん、そこでは踊り念仏が行われる。
・“遊行寺”/清浄光寺[藤沢市]・・・時宗総本山
→ “遊行寺踊り念仏[Video]” (C) bonodori.net
もちろん、京都にも時宗のお寺がある。
・市中山金光寺(下京・本塩竈町)・・・七条道場
・紫苔山歓喜光寺(山科・大宅奥山田)・・・六条場道
・錦綾山金蓮寺(鷹が峰藤林町)・・・四条道場
・霊山正法寺(東山・清閑寺霊山町)
“六斎念仏”とは、これらのお寺が伝えているものと想像してしまったのだ。ところが、実態は全く違う。“六斎念仏”は民俗化しているということ。しかも、遊興的なイベント化に進まず、信仰の一形態として残っているのである。
ちなみに、時宗ではないようだが、有名な踊り念仏としては以下のものもある。
・佛向寺[天童市]
→ “踊躍念仏" (C) Tetsuya TAKAHASHI and "Ikechang"
・八葉寺[会津若松市冬木沢]
→ “冬木沢の念仏踊り” (C) 宝珠山
と言うことは、もともと日本全国にあったということで、残ったのは僅かということ。こんなことを、初めて知った。まあ、学校では宗教教育はほどんど無いからわからなくて当然かも知れぬが。
→ 高野修: 「踊念仏・念仏踊・盆踊 −その系譜関係を探る」 (C) bonodori.net
上記リンクの講義ノートによれば、京都に残る「踊念仏・念仏踊系の伝承芸能」は引接寺(千本ゑんま堂)閻魔堂狂言、壬生寺壬生大狂言、清涼寺大念仏狂と“六斎念仏”はもちろんのこと、やすらい祭も該当するらしい。検索結果ゼロの“カンロナモデ踊”というものもあるようだ。
・・・ということがわかり、“六斎念仏”がどうなっているのか俄然気になっただけのこと。
〜 京都には、六斎念仏伝承に、並々ならぬ決意で臨んでいる人々がいそうだ。 〜
一寸調べると、京都のあちらこちらで“念仏六斎”、“芸能六斎”が挙行されている。これには流石に驚いた。行政が支援しているのだろうが、本腰を入れた伝承継承体制が構築されているようだ。
→ 「京都の六斎念仏」平成22年の主な一般公開日程 (C) 千本六斎会
今や、これらの行事を遠くから見に行く人も少なくないようで、ウエブにも色々と記載がある。ただ、多くの場合、京都検定とか書いているし、即物的な情報提供が主体で、個人的感想を抑えているから、トリビア的流行ではある。ただ、小生はこの手の話は好きである。心情が純粋な感じがするからだ。いかにも恣意的な思い入れ話を付け加えた仏像拝観記とは好対照。ということで、いくつか眺めてしまった。
よく調べた訳ではないから、間違いだらけかも知れぬが、素人がまとめると、京都の六斎念仏は以下のような状況に映る。
空也上人の時代の話だから、鉦や太鼓の音で皆が念仏を唱えながら踊る姿を想像していたのだが、どうもそういうものでもなさそうである。古典的なのはもちろん“空也踊躍”。この発祥は出町柳近辺の干菜山斎教院安養殿光福寺とされている。と言うか、「六斎念仏総本寺」の勅号を賜っているということ。
→ “干菜寺” 「京の通称寺」
それが、現代にどう繋がっているのかは定かではないが、円覚寺や西方寺での行事には空也が始めた頃の感覚がありそう。
【六波羅蜜寺】
・六波羅蜜寺 空也踊躍念仏厳修
[photoは六波羅蜜寺所蔵 空也上人像]
→ 六波羅蜜寺・空也踊躍念仏 (C) 京都新聞
【水尾】
・円覚寺 盂蘭盆奉納
→ 円覚寺六斎念仏 (C) 円覚寺六斎念仏保存会
【西賀茂】
・西方寺
→ 西方寺六斎念仏 (C) The Kyoto Informational Circulations
【上鳥羽】
・浄禅寺鳥羽地蔵
言うまでもないが、娯楽的芸能路線は多数派である。空也上人の伝承と呼ぶのだから、堀川蛸薬師にある極楽院光勝寺空也堂の「歓喜踊躍念仏」から始まったということか。
→ “空也堂” 「京の通称寺」
その典型は狂言が残る千本か。
【千本】
・引接寺(千本えんま堂) 精霊迎え
→ “重要無形民俗文化財「京都の六斎念仏」千本六斎会の紹介サイト” 千本六斎会
【南区 吉祥院】
・吉祥院天満宮 夏期大祭
【久世】
・蔵王堂光福寺 八朔祭法楽会
→ 久世六斎 (C) M.Hatanaka
【中堂寺/壬生】
・中堂寺 精霊送り[伏見稲荷大社 御旅所]
・壬生寺 精霊迎え
→ 壬生六斎念仏 (C) M.Hatanaka
【梅津】
・梅宮大社 嵯峨天皇祭
【嵯峨野】
・阿弥陀寺 地蔵盆
・松尾大社 八朔祭
→ 主な活動《2004年以降》 (C) 嵯峨野六斎念仏保存会
【小山郷】
・上善寺(鞍馬口小山郷)
・(上御霊神社 例大祭)
→ “上善寺の小山郷六斎念仏” blog 賀茂街道から2−折々のよもやま話−[2010年8月23日]
【桂】
・桂地蔵堂
こうやって並べてみると、これは京都といっても、中心部で行われる葵・祇園・時代といったお祭とは違い、街道口が中心であることがわかる。桂地蔵堂が象徴的だが、1157年に山陰街道入口に建立された六角堂での踊り念仏が発祥なのである。地蔵尊は伝小野篁作。
納得させられる話である。
→ 田井竜一: 「桂地蔵前六斎念仏―その特質と伝承をめぐって―」 (C) 京都市立芸術大学
いや〜、こんなところまでこだわっていたか。京都の民おそるべし。
ということで、独断と偏見でまとめれば、・・・。
〜京都の民の体質〜 |
- 1 - |
土着感覚 |
地についた伝統でなければ収まりが悪い。 |
- 2 - |
身分峻別 |
分相応をわきまえない信仰は落ち着かない。 |
- 3 - |
怨念の地 |
権謀術数からくる祟りなどたまったものではない。 |
- 4 - |
縁の伝承 |
親の信仰を粗末には扱う訳にはいくまい。 |
- 5 - |
混沌堅持 |
商売繁盛は皆で謳歌したいもの。 |
- 6 - |
霊と共存 |
この地の霊と共に生きていく。 |
- 7 - |
信心第一 |
信心こそ命。 |
- 8 - |
最古との自負心 |
古事記の世界を護る。 |
- 9 - |
口外無用 |
みだりに由緒を語らない。 |
- 10 - |
潤色放置 |
お話を作りたい人はご勝手に。 |
- 11 - |
皇位係争は厄介 |
皇位争いの余波は永遠に続く。 |
- 12 - |
鬼門除け不可欠 |
鬼門には細心の注意を払う。 |
- 13 - |
氏族祭祀重視 |
古代氏族の祭祀は重視せねば。 |
- 14 - |
焼き物への思い入れ |
カワラケ祭祀は捨てられぬ。 |
- 15 - |
一族抹消回避 |
サンクチュアリは必要だ。 |
- 16 - |
風習維持 |
民俗行事の消滅は許せぬ。 |
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