■■■■■ 2011.2.7 ■■■■■

 日本紙の「国際問題」解説記事にはご用心。

--- 中国経済報道には肝心な話が抜けている。 ---
 食料品価格高騰による春節前の混乱を心配していたが、平穏そのもの。杞憂だったようだ。日本の主要メディアは余り関心がなかったのは、"当り"ということか。
 要するに、中国経済は想定内でのインフレ率と経済成長率を実現したということ。そのおかげで、グローバル志向の日本企業の収益も絶好調。その点では、中国さまさま。

 これは、政府のケインズ政策が効いたこともあるが、Zhou Xiaochuan(周小川)中国人民銀行総裁の采配が絶妙だったと言えそうである。
 元の海外流通を徹底的に抑えた上で、国内の過剰流動性を阻止して物価を抑制することに成功したといえそう。その発想は、西洋医学ではなく、漢方処方に映るが、それがよかったのだろうか。今や、世界経済安定の鍵を握る中心人物と言って間違いあるまい。

 こんなことをわざわざ書いたのは、日本語メディアの経済報道(インターネット)に周小川総裁の話が滅多に登場しないこと。(日経は除いての話。)バーナンキFRB議長と比べると雲泥の違い。はっきり言って異常では。
 考えてもみよ。中国人民銀行の動きを解説しないで、どうして世界経済の状況がわかるのか。そんなメディアの経済記事を読むのは考えもの。
 「紅衛兵」を民衆の運動と賞賛していた日本のメディアの体質ははたいして変わっていないのかも。重要な動きを指摘し、その本質を抉るのではなく、作りあげたストーリーに合わせて面白く伝えることができる話以外はカットするのである。

 そうそう、高校中退のベストセラー作家/ブロガーの"Han Han(韓寒)"についても、日本の主流メディアではほとんど触れない。欧米メディアとは実に対照的。
 そんな反政府的に映りかねない社会派の流行タレントなど無視という訳である。日本のメディアは見ている世界が違うことがよくわかる。
 そんな姿勢が大いに嬉しい人は気にならないだろうが、そうでないなら、日本のメディアとはそういう体質であることを前提にして報道を眺めることをお勧めしたい。

--- 中東問題の日本紙の報道には質が悪いものが多い。 ---
 これが、中東情勢になると、問題は深刻である。違和感が残る解説に出会うことは珍しくない。中東の知識は僅かとはいえ、コレ本当かいなという感じを受けるコメントも少なくない。
 最近の例では、「インターネットから始まった民主化運動」とか、「ジャスミン革命」という用語に合わせたかのようなストーリーの記事の類に、その手のものが多い。
 おかしいなと思ったら、そんなメディアの記事は読むべきでなかろう。
 なかには、出典無表記で、海外記事を抜粋翻訳しただけとしか思えないものもある。そんなものを読む位なら、NHKニュースを眺めるだけに留めた方が無難。

 そういう状況では、素人解説の方が余程役に立つかも知れぬ。小生の感覚でちょっと書いておこうか。

 先ず、誰でもわかっていたことから。
 それは、世界的な食料品価格高騰の本格化。従って、中東での騒乱発生は避けられないのは当たり前。それが各国の政治状況と重ねあわせると、これは大変なことになりそうなのは、2010年中にすでにわかっていたことだ。そんなこともあり、正月明けに、アラブの状況をざっとまとめてみた。
    「中東イスラム圏を眺めると」 [2011.1.12]

 個々の記述はどうでもよく、あくまでも重要なのは全体像。はっきり言えば、あちらこちらの親米独裁政権にきしみが生まれそうだということ。そして、中東全域が一気に不安定化しつつある訳。
 つまり、チュニジアやエジプトでの動きを、中東における民主化の流れと見ることはできないのである。

 紆余曲折はあっても、経済的に豊かでない国では、親米を看板にする独裁政権が倒れていく流れが始まったというだけのこと。もちろん可能性として、民主化もありうるが無理だろう。米国依存脱却型の独裁政権が樹立されるか、非米あるいは反米のイスラム宗教国家が生まれると思う。
 言うまでもないが、この流れが、静かに進む保証はゼロ。下手をすれば、中東全域を巻き込んだ大戦争になりかねない。それを阻止すべく本気になって動いているのはトルコのみ。米国がこの地域で影響力を行使しない状況に持ち込まないと、大戦争不可避と見ているからだと思われる。しかし、それは困難を極める。
 どの国も、政権生き残りに必死であり、地域全体の話どころではないからだし、米国もそんな話に乗りそうにないからだ。オバマ政権がイスラム同胞団の見方を一変させることもできそうにないし。(今まで、過激宗教勢力と見なしていながら、一転して穏健派と呼ぶ訳にもいくまい。)

 ともかく、ご注意申しあげたいのは、エジプト騒乱を「民衆革命」と見るべきでないという点。

--- チュニジア民主化など幻想では。 ---
 などと書いたところで、所詮はメディアの報道を読んだだけの素人論にすぎない。ただ、どう見ているか、簡単に触れておくのも悪くはないか。
 多少は頭の整理にお役に立つかも。

 先ずチュニジア。
 確かに、アラブ然としてはいるが、実態はどう見てもフランス経済圏の都市国家。反欧米独裁国リビアとの緩衝役を演じることで繁栄したきただけのこと。
 もちろん、長期独裁国であり、冷徹な粛清を繰り返してきたから、国内は敵だらけ。しかも、後継者がはっきりしていないから、早晩混乱はさけられなかった。そこに、Wikieaksで独裁者の腐敗が暴かれた訳だから、まあ、シナリオ通りに支配一族追放ができたというにすぎまい。
 知識階級の軍部のお墨付きのもと、コップのなかでの政権交代と見るのが妥当。国土全体で見れば、中央権力に支配された広い地域に貧民層が住むという典型的な発展途上国。民主化運動の側面はゼロではないが、それは都市部と欧州在住者の限られた話にすぎない。
 要するに、限定した運動。これが大きく広がったように見えるのは、FacebookやTwitteの力という訳ではなく、弾圧され続けてきた独裁者打倒勢力がこの機を見逃さずに立ち上がっただけのこと。支配者一族を早めに取り除くために、反米勢力を取り込まざるを得なかったのである。

 つまり、この手の運動はリビアには飛び火しない。
 同じく後継者混乱が予想されるが、こちらはもともと反米主義。この手の大衆運動で政権が倒されることはない。ありうるのは軍部クーデター。
 しかし、親米独裁者のイエメンではそうはいかない。権力闘争で勝利する側は、反米勢力を利用することになる。そして、早晩、国家大分裂間違いなし。もともと、アラブの国境は欧州によって適当に線引きしたにすぎないから、どう転んでもおかしくないのである。

--- エジプト騒動とは、どう見ても軍部エリートの仕掛け。 ---
 エジプトへの騒動伝染もそういう目で眺めるべきだろう。
 後継問題を抱えており、知識階級を自負する軍部は、大統領の息子を支持していない。欧米のメディアでは、そのうちゴタゴタ発生と言われ続けてきたのである。だいたい、示威的政治行動は即徹底弾圧の社会で、広場で大衆運動が勝手にできる訳がない。それが可能だったとすれば、治安警察と軍部に対立が生じたことを意味する。それだけのこと。
 大統領一家排除のために、治安警察を抑え込み、イスラム同胞団などの反米勢力を利用したものとしか思えまい。

 こちらの運動も、FacebookやTwitteの力は限定的だと思われる。
 一番力を持ったメディアはそんなものではなく、明らかにAl Jazeeraだ。報道禁止にもかかわらず、ライブ映像を流し続けたのには驚かされた。中東におけるCNN+BBCといったところ。誰が考えたところで、軍部エリートによる支持がなければできることではない。
 このAl Jazeeraだが、パレスチナ議長派の外交文書暴露も行うなど、徹底的に中東全域の変化を後押ししている。トルコ外交とAl Jazeeraだけが、中東大戦争防止のためには何をすべきかわかっているということかも。

--- カタールの奮闘を無視すべきでない。 ---
 そんなことを考えると、日本でのAl Jazeeraの取り上げ方が今一歩な感じ。もちろん、NHKは、米国政府が嫌っていたにもかかわらず、その放送を流すなどしておりBBC並みではあった。
 しかし、そのメディアがカタール・ドーハが基点であることに、余りにも無関心すぎる。

 例えば、"Sheikha Mozah bint Nasser al-Missned"と言っても、日本では誰も知らないのでは。シェーハ・モザ妃殿下こと、カタールのファースト・レディだ。TV放映のコンサートで、列席の姿が写されているところからみて、欧米ではよく知られていそうなのに対し、余りに対照的。
 セレブ・ファッションで注目を浴びている点もあろうが、ドーハを"Education City" にしようとの強い意志を示している女性ということも大きいのでは。国連での一言、"Ignorance is by far the biggest danger and threat to humankind." が欧米の人々の琴線に触れたということでもあろう。
 Al Jazeeraにも感じる、アラブ変革の意思と言えるかも。言ってみれば、世俗化イスラムの民主化勢力なのだが、貧富の差がとてつもない国々だらけだから、どこまでその影響力があるのか、よくわからないところ。

--- 日本紙は、シナリオに合わせた報道を旨としているのかも。 ---
 おわかりになると思うが、記事の読み方は極めて重要である。

 以前、フランスでのスカーフの着用禁止を「イスラム原理主義運動勃興に対する恐れから」と解説する記事に遭遇したことがあるが、唖然とさせられた。
 これはフランスでは人権問題だろう。家長から服装を強制されるような状況は許せぬという話の一環。イスラム教徒である家長が決めた結婚を拒否したため、焼かれて殺された事件があったばかりの頃の話だ。多文化国家として生きていくには、こうした問題にどう対処したらよいかという議論がなされていたのである。
    「多文化国家について考えてみた」 [2010.10.25]

 欧米での報道は、こうした議論を踏まえた上で、イスラム原理主義の台頭と絡ませて話しているのだが、日本紙は故意に特定の部分をカットするのである。これが日本のメディアの典型的な報道手法かも。伝えたいことがあるのではなく、記者の思いがあり、それに合うニュースを選んで報道しているとしか思えない。しかも、無署名とくる。
 もしかすると、そんな形で自己主張できるからジャーナリストの道を選んだ人達が多いのかも。
 くれぐれもご注意あれ。

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