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■■■ 色彩が語る 2016.1.22 ■■■


酒の色の魅力

旧制第一高等学校寮歌として知られる漢文調の歌に、「緑酒」が登場する。

  ああ玉杯に花うけて、
  緑酒に月の影やどし、
  治安の夢にふけりたる、
  栄華の巷低く見て、
  向ヶ岡にそそり立つ、
  五寮の健児意気高し。
  [佐藤紅緑「ああ玉杯に花うけて」@1928]

対応する大陸の漢詩は知らぬが、こんなところか。

   「碧玉歌」  [南北朝 蕭衍]
  杏梁日始照,寳ネ歡未極。
  碧玉奉金杯,緑酒助花色。


「緑=糸+」は偏が糸だから染め色を示す筈だが、その色がグリーンであったとは限らない。この旁の字義は記録の意味らしいからだ。つまり、他の色に染めるのではなく、純粋なママの色で、ということかも。
そうなると、緑酒とは、生めかしい出来立てということになる。緑児や緑髪と同様な字義である。

ただ実際の酒の色表現としては、金色が多かったのではないか。そう思うのは以下の詩があるから。
紅粉とくれば、これは緑酒かと思いきや、若々しいのは柳の葉。確かに素敵な酒屋ではある。甕の封を切ったばかりの寒中醸造の酒は、美しい金花色なのだから。しかも、音曲のサービスまでつく。ソリャ大繁盛間違い無し。都会のアンチャン達が集まってきて、そこらじゅうで酔いつぶれてしまうのも当然。

   「春思二首 其二」  [唐 賈至]
  紅粉当弱柳垂,金花臘酒解酴醾
  笙歌日暮能留客,醉殺長安輕薄兒。


マ、大陸の酒の出発点は中華帝国中心の色である黄色酒。穀物醸造酒で、その原料は糯米/黍/粟で麹は麦。現代の代表的ブランドだと紹興酒で、長期熟成品が老酒。
   「中国の料理文化圏[酒]」[2014.6.9]

わざわざ、黄色と命名するのは五行信仰からくるのだろう。他の色も必要となるので、黄色に色をつけることになる。

 元紅酒
  朱紅色塗装甕詰の若い紹興酒・・・琥珀色
 竹葉青酒@山西省
  竹若葉/当帰/砂仁等使用の葯味酒・・・薄緑色
 黒酒
  紫糯米酒、かつ炭化糯米の着色味付・・・暗K色
 紅酒
  カラメル着色味付・・・紅黄色

もちろん、紅葡萄酒(=赤ワイン)も存在するが、これは中華的とは言い難かろう。
ただ、白酒はドブロクかと思いきや、白色感ゼロの無色透明なものとなる。要するに、穀物蒸留酒の一般名称。代表的なブランドは茅台酒、汾酒、高梁酒といったところ。もちろん、薯乾白酒のように原料を甘藷/馬鈴薯/キャッサバにした酒もあるし、果実蒸留酒は白蘭地(=ブランデー)と呼ばれる。これらも、非中華文化の酒と見るべきだろう。

こんなことをダラダラ書いておいてナンだが、緑酒が色と無関係とも言い難いところも。
日本酒酒蔵のできたてを見せてもらったことがあるからだ。その色、極く薄いとはいえまさしくグリーン。「無濾過原酒」と銘打った瓶詰商品のほんのりイエローとは全く違っていたから、絞り立て生酒でたまたま生まれた色かも知れぬが。

日本では、こうした酒を清酒と呼ぶ。まかり間違っても、黄色と見なすことはないし、濾過して無色透明であっても白酒とは呼ばない。もっぱら清酒であり、白酒とは普通は甘酒を指す。
江戸神田鎌倉河岸で大流行したが、現代ではもっぱら桃の節句の飲み物と化しているが、そういう形で酒の伝統を繋いでいるとも言えよう。
   「豊島屋十右衛門」[2004.11.11]

と言うのは、白酒(しろき)と黒酒(くろき)は新嘗祭に供される酒の名称でもあるからだ。
   「黒酒とは粟酒では」[2013.12.1]

白酒はほぼどぶろくと言ってよいだろうが、黒酒の方は黒米醸造酒だったのだろう。大陸の黒酒の手法に似て、久佐木の炭化粉入りの所謂灰持酒になったようだが、黒米栽培がされなくなった結果ではないか。灰持酒も消滅したが、ここらの技法を受け継いでいそうなのが、熊本の「赤酒」かも。この赤は、酒の色が赤褐色だからだが、いかにも通称名臭く、もともとは異なる名前があった可能性を感じさせる。
   「気ままに熊本料理」[2009.4.22]

清酒は名前が表す通り、澄んだ透明感がウリだが、それはかつて古くなって美味しくなくなった酒が黄化していたせいもありそう。米の香りを楽しむ呑み方でもあるから、透明なほど愉しめたのであろう。現代では、温度管理が進んだから、かえって濾過した透明な酒よりも、無濾過の方が香り立つので薄い黄色の酒も喜ばれるようになりつつあるようだ。しかし、大陸のように金色を愛でる体質はなさそう。日本酒にも、そんな古酒があるのだが、どうみても人気薄だからだ。
やなり人気は「緑」感を与える新酒の方だろう。

ただ、このことは金色の酒を嫌っていることを意味しない。金色とは呼ばないが、得も言われぬ琥珀色を愛する人は少なくないからだ。
言うまでもないが、Whiskyの色。
ウイスキーの色は普通は琥珀色/Amberと呼ばれるが、本格的に評価するとなれば複雑な色表現が必要となる。多くの色名が用いられることになる。・・・Gin clear, White wineから始まり、樽色でもあるBrown oakやBrown sherry。一番濃いのは糖蜜色(treacle)となる。ブランデー系(Cognac)も同じことがいえそうだが、こちらは敷居が高い。
この深みのある色を鑑賞することも、ウイスキー味わいの一つの楽しみであるのは間違いないところ。西インド諸島発祥とされるラム酒のように、ダーク、ゴールド、ホワイト/シルバーといった大雑把な呼び方をする気にはなれまい。深みを感じさせる色合いであり、思わずグラスを見つめてしまうからだ。
   [@Whisky Magazine]

小生は、ウイスキー水割りよりはジントニックという生活を過ごしてきたが、目の前に美しいモルトウイスキーが出されてしまうとどうしてもその色の魅力に引き寄せられてしまう。

西欧の色感覚はこうした領域では鋭敏そのものかも。
それは、ワインの色で鍛えられているせいもあろう。こちらの色はそれこそピンキリだからだ。
色名を用いてワインカラーを説明することになっているようだが、実際の色調とはかなり違う印象。植物の微妙な色の違いを説明することに長けている日本文化にどっぷり浸かっていると、先ずは色分類ありき感が漂うこうした色表現は大雑把すぎてどうも好きになれぬ。
  Purple
  Purple-red
  Ruby
  Scarlet・・・いくらなんでもこれはないだろう。
  Garnet
  Red brown
  Mahogany
  Brown
これは、色表現というより、ワインの熟成に従って、色が濃くなっていくので、それを評価するための指標的用語なのだろう。
そうそう、ワインカラーという代表名もあるようだ。感覚的には葡萄酒だから「ソウソウそんな色」と認めがちだが、現物と比較すると大分違う。
  Wine color
  Light wine
現実にはこの程度らしい。
  廉価な一般ワイン
  Cabernet Sauvignon
  Merlot
  Syrah
地名を当てた方がよいかも。必ずしも一様ではないが。
  Beaujolais
  Bordeaux
  Bourgogne

ロゼや白、スパークリングも美しいと言えばその通りだが、色の重厚さを味わう代物ではなかろう。
  Rose wine
  Wheat White Wine
  Champagne

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