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2008.2.14
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肉料理は豚の塊料理から…


 初心者は, 先ずは, 肉の旨みをじっくり学ぶこと。
 それには、良質の塊を使うしかない. 薄切りや挽肉の活用は料理のスキルが身に付いてから。


 蒸し野菜、お茶漬け、卵焼き、を説明してきたが、こんな料理だけでは流石にご不満だろう。
  → 「蒸し料理の話 」「お茶漬け作りのお勧め 」「卵焼のお勉強 」 (2008年1月17日,31日,2月7日)

 肉か魚の本格料理を早く始めたいに違いないが、「蒸し料理の話」で取上げたような、新鮮な白身魚と大振りな鶏肉の蒸したものだけではフラストレーションが溜まるに違いない。
 しかし、ここで無理は禁物。
 そこで、初心者に向く肉料理を、料理ズブの素人がご教授しよう。息抜きではなく、素材の味を学ぶ勉強であることを忘れずに。

 つまらぬ物言いと感じるかも知れないが、それには訳がある。美味しい肉料理を食べるには、高度なテクニックが必要だからだ。初心者が試すべき分野ではないのだ。
 しかも、肉の品質は、見た目で判断できかねる。勉強の対象としては最悪。不味い料理になっても、その理由が素材由来なのか、判定できないからである。

 それでは、どうすべきか。
 少なくとも、薄切りや、挽肉は避ける必要があるということ。切断面から変質が進むし、肉汁も流れ品質劣化が早いからだ。取立ての塊りほどよい。
 (尚、肉の熟成状態は、専門家しかわからない。見かたを勉強しても、高く売ろうとするプロにのせられるのがオチ。魚とは違うのだ。もっとも、魚も、新鮮なほど美味しいということでもない。置いたほうが美味しいものも結構ある。しかし、それを認めない人は多い。なにせ、都会まで運んできて水槽に生かしておいた魚を食べて、流石、活魚だけのことはあると絶賛する人がいる位なのだ。)
 そして、豚肉を選ぶこと。
 小生はラムチョップが好きだが、肉の塊を売っているのを見たことがない。牛は単価が高いから、塊の売れ行きは悪かろう。どちらにしても、品質が悪いものに当たるリスクは高い。そんなリスクは避けるのが当然。・・・安価品の利用はスキルが必要だから初心者は止めた方がよいということでもある。

 さて、その豚肉だが、先ずは素材の選び方だ。部位は7つの名称で表示されている。(肩 肩ロース ロース ヒレ バラ モモ 外モモ)コレ、一見妥当そうだが、難点がある。
 そんなことに気付いたのは、沖縄の公設市場を訪れたから。本やウエブの説明は結構いい加減だと感じてしまった。まあ、それが肉に無知な本土の実態。
 と言うことで、以下、部位について簡単に説明しておこう。記載内容の正確さは保証できないが、ざっと お読みになり、豚肉の全体感を獲得することをお勧めしたい。(応用力を発揮するためには、俯瞰的に眺める必要があるのだ。)

●先ず、「」だが、首を動かす場所だから「首」肉も入っているのだろう。
  もっとも、豚の首はどこからどこまでかわかる人はいそうにないが。
  昔、パルマ産の生ハムの宣伝が始まった頃、肉の部位としてのCoppaの美味しさを力説していた。
  最近はそんな話をするまでもないのか、余り聞かないが、コレ首の肉である。
  肩も首も、当然ながら、筋肉質であり、硬い。もちろん、脂肪はさほど多くない。
●背側の肉の名称はどういう訳か、英語。「ロース(LOIN)」と呼ばれる。
  ただ、首側は別途「肩ロース」として峻別されることになっている。沖縄では“B”ロースと言う。
  もちろん、正真正銘の背中側の肉は“A”ロース。この分類の方がわかり易い。
  豚肉知識豊富な沖縄のような地域は別だが、東京で、正確な部位表示がなされているか疑問だし。
 ・「肩ロース」は、たいていは肌理が粗い。脂肪は筋肉の間に網目のように入り込んでいることが多い。
   赤身と脂肪の間に硬い筋が入っている場合がある。
 ・“A”級「ロース」は、“B”級が“肩”なら、“背”と呼ぶべきと思うが、誰もそんな言い方はしない。
   コレ、牛で言えば、“tender” LOINということ。しかし、豚ではそこまで差はないということか。
   肌理が細かく柔らかい肉質で、香りも強い。
   霜降りになり易く、肉色は淡い。周囲に白くて美しく風味豊かな脂肪がついていることが多い。
●ロースの内側、center部位は特別な名称がついて「ヒレ」。
  肌理が極めて細かく、一番柔らかい肉だ。脂肪はほとんど無い。従って、淡白で豚の香りは余りしない。
●胸側の肉は肋骨に肉が付いた「スペアリブ」になる。
●腹側の肉は「バラ」。硬くて肌理も粗い。赤味と脂肪が層状に重なりあっていることが多い。
  そのため「三枚肉」と呼ばれるわけだ。当たり前だが、脂肪量は極めて多い。
●後肢の上部から尻の肉は一括して「(もも)」と呼ばれている。
  肌理細かく、比較的柔らかいことが多いが、バラツキはある。脂肪が少なく赤身の塊だ。
  細分名もあるそうだ。「外腿」、「しんたま」、「内腿」。
  こんな表示名を東京のスーパーで一回も見たことがないが、何故か言葉の説明は氾濫している。
●ただ、後肢の「脛(すね)」は見かけたことがある。脂肪は少なく、色が濃く、硬い。
●当然前肢もある。「腕」だ。沖縄では売られていた。
●最近は、「トントロ」と称する、独特な脂身が売られていたりするが、訊くと頬の下だそうだ。本当かね。
●沖縄の公設市場では、「豚足」「豚耳」「面皮」はおろか、サングラスをかけた「頭」まで並んでいる。
  もちろん、内臓もオンパレード。
[肝臓、小腸、心臓、大腸、舌、子宮、食道、気管、胃、横隔膜(ハラミ)](1)

 上記の話は、軽く読んで頂くだけで結構。それぞれの肉の特徴は、牛の部位名のアナロジーでわかると思うから。
 オイ、待て。そんな勉強などしていない、と言う人はステーキや焼肉での注文を思い出せばよい。

 尚、牛と違う点を忘れてはこまる。豚肉食は寄生虫やウイルス感染のリスクがあるから、熱をよく通すこと。

 前書きが長くなったが、それでは、初心者はどんな豚肉料理をすべきか、部位毎に語ろう。
 それぞれの素材の特徴を生かすには、どんな料理が適切か、考えながらお読み頂くと勉強になると思う。

【ロースなら単純明快なソテーだ。】
ロースの場合は、塊ではなく、厚切り肉を購入する。切りたてが望ましい。くどいが、十分厚くなければ、勉強にならない。生姜焼き用の薄肉より多少厚めという程度は失格。
よさげな肉の選定は、多少の知識に基づいた勘か、店の推奨に従うしかない。店の信頼度、表示内容と価格で判断するということ。銘柄肉を試すのも良い。食べてハズレだったら、そんな店から二度と買わないこと。
尚、ブランド肉でなくても調理の仕方では十分美味しくなるという主張も見かけるが、ことロースに関しては、小生はそんな姿勢はお勧めしない。
  → 「ためしてガッテン “別次元の味! 豚肉革命” 」 (2006年1月11日) (C) NHK
ともかく、上質な厚切り肉の1枚を、フライパンできっちり焼けばよいのである。(2枚同時は絶対に駄目。)ただし、表面を強火で焼いた後に、蒸し焼きにすること。これだけで十分美味しい。
尚、焼く直前の簡単な下処理は不可欠。味の調整のために、塩・胡椒を軽く一振り。その上で、旨みが逃げないように、小麦粉を極く軽く振りかけておく。この時、肉に筋がありそうだったら、切っておくとよい。よくわからなかったら、食べる時にナイフで切り取ればよい位に考えよう。
この料理の醍醐味は、豚肉素材の徹底的な賞味にある。細かな調理方法はどうでもよいのだ。
ソースも気にしないこと。例えば、“ウイスキーをかけ、バター、しょうゆを加え、ウイスキーに火をつけてアルコール分を飛ばす”(1)やり方もあるし、ニンニクが好きなら、ニンニク醤油も結構。大根おろしもあろうし、生醤油やウースターソースだけもよい。焼いた肉の温度が大きく下がらなら、なんだろうが好き好き。余計なことに力を注げば、料理の価値は下がるだけ。
当然ながら、つけあわせは不要。と言うより、そんなものを作ること自体が邪道。許せるのはキャベツの千切り位のもの。

【バラは茹で豚で愉しむ。】
豚バラ肉のできるだけ大きな塊を購入。他の材料としては、長ネギの青い部分と、生姜が必要となる。
脂と赤身が綺麗な層になっているものに人気があるが、店が良質と推奨しているものを選ぶしかない。
絶対に切ったものは買わないこと。もちろん大きい塊ほどよい。
完成品は冷蔵庫で保存できるから、どの程度の大きさにするかは、鍋径と予算次第。
手順は簡単。沸騰した湯に肉の塊を放り込み、表面が白くなったらすぐ取り出し水洗。
(コレ無しだと灰汁がきつくなるから、手抜きは止めた方がよい。)
あとは、新しい水にネギと薄切り生姜を入れ、沸騰したら、肉をドボンと入れるだけ。
ただ、沸騰し続けないこと。肉に熱が通るまで茹でればよいだけのこと。弱火が望ましい。
(初心者に道具購入はお勧めしていないが、この作業を考えると、保温鍋はあった方がよい。)
茹であがったら、肉も汁も、食べ方はご随意。
だが、熱いうちに賞味して、肉の旨みを知っておくことがよい勉強になる。冷えれば冷えたで、又、美味しいが。
尚、肉に前もって下味をつけるとか、茹で汁に味をつけたりと、工夫はいくらでもできる。
しかし、そんなことはこの料理の本質ではない。

【モモは茹でずに煮豚料理にする。】
初心者は、茹でる料理と、煮る料理を間違えないように。煮るとは、汁の味を素材に沁み込ませること。
複雑化した味を愉しむことができる訳である。従って、技術を要することが多い。
ただ、煮豚はそれほどでもないから、味の機微を知るのには手頃なのである。
モモも上質な塊を買い求める。良心的な店なら、結構廉価な筈である。
下味処理は必須。塩・胡椒をすり込む。塊そのままでもよいが、大振りに切り分けた方がよいだろう。
胡椒以外の香味料(セージ等)も欲しいが、素人は極く少量感覚がわからないから、止めた方がよい。
香りが気になって食べれないことが多いからだ。
(“加減”のスキルは簡単に身につくものではない。 試したいなら、プレミックスの調味料をお勧めする。)
煮る材料は肉以外に、人参、キャベツ、玉ネギ等、の野菜を加える。
野菜の量はご随意に。ただ、丸ごとではなく、大きめに切った方がよい。エキスが出易いから。
下味は適当でもよいが、肉の旨みが出きらないように、煮る前に鍋で表面を油で炒めること。
このとき、油にニンニク薄切りを入れるとよい。
(ラードは言うとオマケでくれることもあるから、これを加えるのも一案。)
炒めたら、水と野菜を入れ煮ることになるが、問題は味付け。
心配だったら、味を見ながら、良質な塩を入れるだけでもよい。舌の訓練だと考えよう。
ワインを入れるとか、調味料類(和だし、ブイヨン、中華だし、等々)を入れてもよい。好き好き。
自分の味を見つけることができれば大成功。

【肩はカレーとかシチューに向くが、初心者の料理の勉強にはならない。】
肩肉は柔らかくなるまで煮ることが、美味しくいただくポイント。
だが、その楽しみ方は、肉の味というより、ルーの方だ。 これは、初心者の手に余る分野と言ってよいだろう。
カレーに薀蓄を傾ける人は多いから、初心者はそんな姿勢に魅せられがちだが、手をつけるべきでない。
それに、100円以下のレトルトカレーが売られている分野だ。専門家の知恵の凄さ!
素人でも美味しいカレーやシチューが作れるルーが提供されているのだから、それを利用した方がよかろう。
自分独特の素晴らしいカレーを作りたいなら、早く、料理の中級者になること。
もっとも、、中級になれば、市販ルーのコストパフォーマンスの高さを知り、かえって使いたくなるそうだ。
(基本は市販ルーにしておき、これに自分なりの香辛料等を添加するのである。)

 まあ、素人の豚肉料理話はこの辺りまでにしておこう。
 重要なのは、できるかぎり塊に近い肉を購入し、肉の美味しさを追求するにはどうしたらよいか考えること。
 おわかりだと思うが、どれも、牛肉でも通用する。しかし、薄いサーロインステーキは絶対に駄目。厚切りの良質肉でトレーニングしたいならご随意に。

 ともかく、レシピ通りに作るとか、細かな技巧に走らないこと。味付けなどせず、肉本来の味を愉しんで欲しい。
 これだけでトレーニング効果は十分。

 --- 参照 ---
(1) 「牛・豚の副生物」の部位別名称の表記 http://www.ajmic.or.jp/kumiai/pdf/hyouji_08.pdf
(2) [ポークソテーのレシピ例] http://www.president.co.jp/dan/special/recipe/0026.html (肉のイラスト) (C) Hitoshi Nomura NOM's FOODS iLLUSTRATED http://homepage1.nifty.com/NOM/


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