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2010.7.6
 
 


株安・債権安の時代か…

〜 最近の株安は、世界経済の変調を意味していそうだ。 〜
 ここのところ、世界中で株式市場が軟調そのもの。
 株価の解説ほど適当なものはないが、そんなものを読まなくても、素人でも想定の範囲内の動きである。資本主義はバブル無しではすまないわけで、次々と破裂すればどうなるかは自明。
 右の概念図に示したS&P 500 INDEXの長期トレンドを見れば、今の時代の特徴がよくわかる。
 世界経済は急膨張したが、その代わり一気に不安定化したということ。

 要するに、信用バブル、住宅バブル、資産バブルが短期間で大膨張し、それがすぐに破裂するという状況。

 “Dr, Doom”のご託宣は未だに通用するということ。ただ、今更、そんな話を聴いたところでたいした意味はないが。
   【2008年】→ 「米国はまともに考えているのか 」、 「悲観論主導の時代か」 (2008年3月12日/9月4日)
   【2010年】→ 「欧州の動揺」 (2010年2月3日)

 まあ、ついに抜き差しならぬところまで来たということ。
 状況をまとめておこうか。

〜 欧州の病根は深く、対処療法を続けるしかなさそう。 〜
 先ず話題の欧州。  アイルランドの2010年の第一四半期がプラス成長だったそうだし、英国はなんとかなったような解説もあるから、どうにかなるのではないかと書く人もいるが、冷静に見れば問題ははっきりしている。
 2つの国を見れば状況は明白。
  【ギリシア】
   ・財政バブルが破裂しただけであり、今までの流動性危機とは異なる。
   ・無い袖は振れぬ。債務不履行は避けられまい。
   ・公的債務の再編以外にとれる道は無かろう。課題は、それを、いかに速く処理できるか。
  【スペイン】
   ・財政再建策を打ち出してはいるが、一番の問題は金融システムの脆弱化。
   ・住宅バブルの破裂で金融機関には膨大な不良債権が溜まっている。
   ・政府にシステム崩壊を止める力がなさそうな点が問題というだけのこと。
   ・GDPで世界10番目と、経済規模が桁違いに大き国だ。世界の大国による協調的援助は荷が重過ぎる。

 “一応”、PIIGS救済融資1兆ドル準備したとされるが、他も考えれば、2兆ドルになるのだろう。巨額だから、なんとかなるというのは、とりあえずの対処療法にすぎない。どう見たところで、返済の目処がある訳ではないからだ。融資側自体の財政基盤も揺らいでいるのなら、救済どころの話ではないということ。
 例えば、英国がPIIGS救済に動いたりすれば、冗談としか思えまい。この国は、中央銀行が政府の財政赤字を支え、金融機関もどうにかもたせている状態だと思うからだ。そんな状態で、年金基金の柱でもあり、英国経済の柱でもあるBPの資産価値が激減するのだから、立ち直りできる保証などない。ギリシアではなく、この英国の姿こそ、欧州の象徴なのでは。

 この状況が頭にあれば、G20での米と欧の意見の食い違いが生じるのも納得できる筈。世界の通貨ドルと、たんなる大国の通貨でしかないユーロでは立場が違って当然だからだ。
 素人が考えても、ユーロ圏は緊縮財政策を取る以外には、とりあえずの難局をしのぐ手段は無い。それなくしては通貨価値が崩壊しかねないからだ。あとは、緊縮の程度問題。そして、当然ながら、日銀同様のゼロ金利・量的緩和政策。たいして効かないが、無くせばえらいことになるから、それしかないということ。
 ともあれドイツが財政出動を絞るのだから、欧州の景気悪化は不可避。その痛みをやわらげるには、ユーロの大幅下落しかない。それがお嫌いなら、ユーロ崩壊しか道はなかろう。

〜 米国は世界経済の牽引車として復活できそうにない。 〜
 厄介なのは、米国経済もさっぱり好転しない点。多分、膨大な財政出動でどうにかもっているだけというのが実情だろう。
 見ておくべきは、商業用不動産価格である。ここがさっぱり回復してこない。このことは、今後も銀行破綻が高いレベルで続くことを意味する。これは各地域にとって見れば、小さな問題ではない。経済運営がスムースにいかないということだからだ。
 もちろん、個人住宅にしても、ローン残高が不動産価格を上回っているから、さらなら債務不履行が続くのだ ろう。それ自体は一部だが、このことは、家庭はおしなべて債務削減ムードに入っていることを意味する。個人消費が回復する見込みはないということ。
 政府の浪費的な財政出動が切れれば、経済は萎むことになる。一旦、海外に出たモノ作り産業が米国に戻ってくることも考えにくいから、低金利でも、資金は国内投資よりは新興国投資に回ると見るのが自然であり、経済活性化の素にはなりそうには思えない。

 いくら楽観的な米国人といっても、現実を冷静に見れば、米国経済の先行きに不安を覚えない方がどうかしている。

〜 要は、国民経済的政策の効果がなくなったということ。 〜
 そして、米国経済の不調は、新興国経済に伝播する可能性が高い。グローバル経済は、独立した国内経済の単純合算で見る訳にはいかないのである。輸出があるから、投資が盛んだったことが好循環を生み出していたのが、そういかなくなる。国内需要喚起で代替できるというのは単なる理屈。
 エネルギー・食糧価格が上昇する気配がないということは、皆、それに懐疑的ということ。
 しかも、中国、インド、ブラジルは誰が見ても資産バブルの真っ最中。バブルはいつかはじけるもの。それが何時かはわからぬが。

 この段階で、中国政府が元の増価路線に転じたところで遅すぎではないか。世界経済にプラスにはならないかも。

 さあ、ここで全体像をまとめてみようか。素人の目で眺めればよいだけのこと。“Dr, Doom”の話など読む必要もないし、エコノミストの訳のわからぬ予測に頭を使うことも不要だ。
 ・・・中央銀行による流動性確保策と、政府の財政出動による需要底上げ策では、世界経済は支えられなくなってきたということ。実に単純明快。

 時代は一変したのである。不況好況の波を政策で穏やかにするような発想が通用しなくなったのでである。
 ここで、今迄と大きく違ってくるのは、金融商品のリスク評価ができなくなったという点。市場の価格設定機能が失われつつあるとも言える。お蔭で、リスクフリー指標とされる米国国債にお金が回る。その結果、日本同様に、債権安というか、利回り大幅低下が始まっており、これは怖い話だ。壮大なる債権バブルであり、皆がこれに気付いて、信用喪失が発生したりすれば取り返しがつかない。そうならぬことを願うのみ。

〜 ゴールド価格の高騰は正真正銘のバブルで、市場が機能していない証左。 〜
 そんな流れを後押しするのが、ゴールド価格の高騰。言うまでもないが、実需ではないし、紙幣が信用できないので逃避先として選ばれているとされるが、貝貨となんらかわらない代物。単なる幻想に投資しているに過ぎない。
 ところが、ゴールドを購入するアジアの中央銀行はあるし、ゴールドを放出しない先進国の中央銀行もある。ゴールド信仰から来るバブルを抑えるどころか、裏で囃しているようなもの。こまったものだ。
 資金は流れる先がないから、こんなところに流れる訳だ。
 ともあれ、株安・債権安を止めることはできまい。


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