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■ 分類の考え方 2015.4.11 ■


五放射相称型海底棲生物を巡る分類"感"

分子生物学のお蔭でずいぶんと系統が整理されてきて、全体像が見えるようになってきた。しかし、「分析結果」からこのようになったので今迄丸暗記してきた系統図を忘れ、改訂版を覚えて下さい式が多すぎるのではないか。
それが嬉しい薀蓄マニアや、コレクターが多いから致し方ないとはいえ残念なことだ。

これほど知的刺激を与える「大変化」は滅多にないのだが。
そんな状況下で、素人が頭を使うのに適当だと思われるのは、ヒトデを動物の系統分類でどう扱うかという問題。

ということで、その辺りを取り上げてみたい。

ヒトデという名前は、「人手」の5本指型を指しているのは自明。指であって足とは違うので、その動きは極めて鈍いが、確実に餌である貝に覆い被さって抑え込んで食べてしまう。実際に見た人は稀だと思うが、たいていの方がそのことをご存知なのも凄い。その割にこの生物に関心があるようにも思えないのだが。
   ひとで[2007年12月7日]
もっとも、数は5本とは限らないようで、これこそが進化というべきか。
 真 5本
 赤 5本
 青 5本
 砂 5本
 糸巻 5本
   稀に7本(但馬近海では約千個に1個の割合@城崎マリンワールド)
 ルソン 4〜8本(変異大)
 八手 8本前後
 房棘日輪 10本前後
 鬼 多数(10本以上)
 蛸 30本前後
 Labidiaster annulatus 40〜45本

指というより、細い蛇のような足のようなタイプも存在し、この場合、頭を欠く円盤状胴体と足がはっきり分かれる。まあ、足とは言い難いから、こちらは5尾と言うべきか。本数は異なるが、蜘蛛ヒトデと呼ばれる。もちろん一番の近縁である。
遠縁なのか、近縁なのか、はたまた身近な親類か、素人にはわからないのタイプも。深海で見つかった車輪ヒトデである。海雛菊と名付けれれていることでわかるが、まあ、そんな形状。1cmに満たない円盤状で櫻の御紋がついているような円盤に間接部分がついたような脚がおよそ70ほどついている。ナンダコリャの世界に生きる動物である。
大陸だと五芒星イメージから宗教的にインスパイアーされそうだが、意外と平凡な名称である。(Starfishだ/海星 or 海盤車)小生は「人手」が圧倒的に優れた見方だと思う。

分類名称としては、骨粉皮膚五放射相称型海底棲生物類はどうか。
しかしながら、そのような呼び方とは程遠い、「棘皮」類と覚え込まされる。小生はこの用語に違和感を覚える。"棘"という言葉は全くそぐわないからである。

それに合致するのはウニ類しかなかろう。毒アリのガンガゼなどぴったりの用語である。
ヒトデは人手なら、トゲがあるウニはまさしくイガ栗そのものであるから、「海栗」ということになろう。なかなか味のある命名である。「海胆」は、海の身という意味とされているが、どうもピンと来ない。確かに鮟鱇肝等のネットリ食品の部類だから肝とするセンスもわからないでもないが、食物の場合は雲丹でよい訳だし。いかにも珍食材在中華的漢字だ。
もっとも中国語は「海膽」。俗称は海針鼠である。針鼠も食材なのだろうが、どこか似た味がするものなのだろうか。「海栗」にしなかったのが、不思議である。
   うに[2005年7月1日]
針のような棘で身が全面覆われているのでわかり難いが、胴体は、少々潰れた球形状の硬い殻である。もっとも、頭も神経も無い生物だから、胴体と呼ぶのは適切ではないが。
特徴的なのは、下面にある口はなんんとも頑丈な代物である点。よくよく見れば、これが五角形である。これも又、骨粉皮膚の五放射相称型海底棲生物類である訳だ。五放射相称型がもっとよくわかるのは、砂浜に打ち上げられた不可思議な五弁文様の扁平円盤。俗に言うアンパン。五芒星宗教信徒なら、ウニ類は五弁の霊螺子と呼んでもよさそうに思う。
 紫海栗 or 紫海胆/Sea Urchin/海膽
 馬糞海胆/Japanese green sea urchin/
 赤海胆/Red sea urchin/-
 蛸の枕 or モチカヒ海燕/cake urchins or sea biscuit/楯形海膽
 麺麭[パン]類/Sand dollar, Key-hole urchin/餅乾海膽
   蓮の昔,四穴,透かし菓子
 文福茶釜
 岩隠子[ガンガゼ]/Black Longspine Urchin/刺冠海膽


海栗と同類と言われてビックリするのが、ナマコ[海鼠]/Sea cucumber/海參である。
   なまこ[2006年7月14日]
骨格などどこにも見えず柔らかいし、前(口)と後(肛門)がある円筒形で、上下の球形とは、姿形がどこも似ていないからだ。
 無足系
  紫車海鼠
  菊紋海鼠
 隠足系
  白海鼠
  芋海鼠
 楯手系
  黒海鼠
  四角海鼠
   マナマコ[真海鼠]/Japanese common sea cucumber/
 板足/平足系
 指手系
 樹手/枝手系
  キンコ[金海鼠]

しかしながら、解剖すると、多少は骨片らしきものが入っていると言えないこともない。それに、五放射相称型であることがわかる。5方向のボディプランについては、それよりは、アデヤカキンコ[金海鼠]/sea apple@珊瑚礁[インドネシア〜フィリピン]の写真を眺めた方がよいだろう。成程感が湧いてくる筈だ。さらに、化石の写真も眺めれば納得。
 螺板類/Helicoplacoideaカンブリア紀初期
 蛇函類/Ophiocistioideaオルドビス紀〜デボン紀


素人的には、ここまではなんとかついていけるが、これが同類とされるとウームと唸らざるを得ないのが海底固着型。
ご存知、「海百合」あるいは「海羊歯」である。根がある訳ではないが、はっきりとわかる茎部があり、5本以上の腕が出ておりいかにも花弁的に思ってしまう。ヒトデ、ウニ、ナマコと違って、口と肛門という軸は無く、同一平面に並ぶ。従って、いかにも植物然。上部からの写真を眺めれば、5本以上あるが、良く良く見ると確かに5の倍数のようではあるが。
それに、固着している訳ではなく、実は動くことができるという。
これらは、化石類の絵をよく見かけるから、古代に大いに繁栄した種なのだろう。
 パラクリノイド/Paracrinoideaオルドビス紀中期
 海林檎/Cystoideaオルドビス紀〜デボン紀
 座人手/Edrioasteroideaカンブリア紀〜石炭紀

固着型であるから、五放射相称型生物としては、一番古い系統なのではないかという感じ。・・・こうした視点が系統の発想の重要なところ。正しいか否かではなく、コンセプト創造に他ならないからだ。
尚、原始的なウミユリやウミリンゴのような化石も発見されている。
 原始海百合/Eocrinoideaカンブリア紀〜シルル紀 海蕾/Blastoideaシルル紀〜ペルム紀

化石上は、五放射相称型は色々あるようで、様々な進化形が生まれたということのようだ。唸らされるものがある。
[その辺りの系統図も含めた論文をご覧になりたい方は、・・・・Samuel Zamora, et.al.: "Plated Cambrian Bilaterians Reveal the Earliest Stages of Echinoderm Evolution" June 6, 2012 PLOS one 図:http://journals.plos.org/plosone/article/figure/image?size=inline&id=info:doi/10.1371/journal.pone.0038296.g008]

素人には、なかなかハードルが高そうな分野に映るが、それは細かいことに係るから。大雑把に考えれば、それなりにわかってくることもある。
特に注目すべきは五放射相称型である。
この「5」がマジックナンバーであることは昔から言われてきた。<五芒星形動物>という宗教観から、その理由など考えるなということもあったかも知れぬが。
だが、どうして、3、4、6では拙いのかを考えるのは、頭のトレーニングとしては最上質といえるのでは。
そこらは別途。

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