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2008.9.9
 
 


林檎の話…


 「赤い林檎」 山村暮鳥
    林檎をしみじみみてゐると
    だんだん自分も林檎になる

 「店頭にて」 山村暮鳥
    おう、おう、おう
    ならんだ
    ならんだ
    日に焼けた
    聖フランシス様のお顔が
    ずらりとならんだ
    綺麗に列んだ


 Paul Cezanneは、“I will astonish Paris with an apple.”と語ったとか。(1)
 生物画教科書で必ず語られるのが、この“セザンヌのリンゴ”。しかし、解説を読んでも、どうも納得感が薄い。日本の林檎と余りに違うので、いくら立体感があっても、美味しさが目から伝わって来ないからだ。みすむずしさが実感できると言われても、さっぱり合点がいかない。
 日本人なら、岸田劉生の絵がピンとくるのでは。こちらは、インテリ好みを意識してそうで、それが多少気にはなるが。
  → 「岸田劉生の“静物(白き花瓶と台皿と林檎四個)” 」 文化遺産オンライン (C)文化庁

 もっとも、最近の林檎はとんでもなく立派で、甘いものばかり。こうなると、岸田劉生のリンゴはインパクトゼロかも。
  → 「甘過ぎる林檎 」「お洒落な林檎」 (2004年11月1/2日)

 まあ、正直なところ、驚かされるのはセザンヌの技法ではなく、キリスト教圏での、リンゴに対する思い入れの強さといったところ。
 そもそも、旧約聖書でイブが採った果実には名称がないのだ。イチジクと言うならわかるが、これを林檎としたのだから、特別な愛着感があるのは間違いない。
  → 「無花果の話 」 (2008年7月29日)

 結局のところ、リンゴにした由縁ははっきりしていないようだが、John Milton の「失楽園」のお陰という話は有名だ。と言うことで読んでみたが、かなり読みづらい書物だ。詩を楽しむ余裕どころではない。
 ただ、林檎の魅力はなんとなくわかった気にはなってきた。
   とある日、野を彷徨っていたら、たまたまめぐりあったのです
   それは、かなり遠くにある素敵な木でした
   美しい色が混ざり合い、素晴らしい果実がたわわに実っているのです
   赤色と金色: じっくり眺めようと、近くに寄ってみました
   すると、枝々から、芳しい香りが漂ってくるではないですか
   とてつもなく食べたくなってきました 私の官能をそそるのです
   そう、最高に甘いフェンネルの香り、あるいは、あの乳房でしょうか
   夕方に乳が滴り落ちる、羊や山羊のことです
   子羊や子供が吸うのを忘れて、遊びにふけっているのでそうなるのですが
   私は、激しい欲望を感じ、どうしても自分を満足させたくなってしまいました
   あの素晴らしい林檎を味わおうと、ついに決心したのです
   躊躇いを捨てたとたん、空腹と渇きが一気に立ち上ってきました・・・
      (英文からの拙訳:参照*)
 ただ、同時代の宗教画(2)を見ると、すでにイブがリンゴを手にしているから、ミルトンが勝手にリンゴにした訳ではなかろう。
  → 「Albrecht Durerの“Adam and Eve” 」 (C) The Metropolitan Museum of Art

 まあ、常識的には、ギリシア神話から受け継がれた文化と見るべきだろう。
  最初にカオスが生まれ、その娘である、黒い“夜の神ニュクスは誰とも寝ることなく・・・名高いオケアノス(海)の向こうで黄金のリンゴとその実を結ぶ木々を守る宵の娘達エスペリデスを産んだ。”(3)

 よく知られているように、リンゴを輪切りにすると神秘的な星の形が現れる。クリスマスツリーの黄金色の「ベツレヘムの星(五芒星)」と赤いリンゴは、こうした文化の残滓かも。
 そう考えると、実は、知恵の木はイチジクで、命の木がリンゴだったのではないかという気がしてくる。リンゴは生命力を感じさせる木だからである。
 沢山の実がつくような無理をさせないように管理してやれば、驚くほど長寿なのだ。日本には樹齢130年の古木がある位だ。(4)

 --- 参照 ---
→  甘過ぎる林檎…(20041101)
→  お洒落な林檎…(20041102)
(*) JOHANNIS MILTONI: 「Paradisum Amissam(Paradise Lost)」
  拙訳箇所: No.9[575-586]  http://www.dartmouth.edu/~milton/reading_room/pl/book_9/index.shtml
  尚、パラダイスと記載された箇所にも「an Apple」が登場する。・・・
  No.10[484-489] http://www.dartmouth.edu/~milton/reading_room/pl/book_10/index.shtml
  “Plac't in a Paradise, by our exile
  Made happie: Him by fraud I have seduc'd
  From his Creator, and the more to increase
  Your wonder, with an Apple; he thereat
  Offended, worth your laughter, hath giv'n up
  Both his beloved Man and all his World,”
(1) http://www.metmuseum.org/explore/cezannes_apples/cezanne.html
(2) Durer以外: Lucas Cranach der Altereの“Adam und Eve”
  Peter Paul Rubensの“Adam and Eva in Paradise”
(3) ヘシオドス 「神統記」212-222 http://arcadissima.cool.ne.jp/Hesiodus/theogonia_jp.htm
(4) 「日本最古のリンゴの木、樹齢130年の節目 」 陸奥新報 [2008.5.10]
  http://www.mutusinpou.co.jp/news/2008/05/1931.html
(詩の出典) 山村暮鳥: 「雲」 35/39頁 http://homepage3.nifty.com/yamabuki-h/bocho/kumo.pdf
(リンゴの写真) [Wikipedia] http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%BB%E5%83%8F:Fuji_apple.jpg
(Hieronymus BoschのThe Garden of Earthly Delights) [Wikipedia]
  http://en.wikipedia.org/wiki/Image:GardenED_edit1.jpg


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