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■■■ 魏志倭人伝の読み方 [2019.1.19] ■■■
[19] 植生

 其木 有
  ,杼,橡,樟,,櫪,投橿,烏號,楓香
 其竹
  篠,,桃支
 有
  薑,橘,椒,襄荷
 不知以為滋味


植生をわかりやすく書いているように映るが、それぞれの樹木の同定は極めて困難である。

(=/楠)は日本では一般的にクスノキを指すが、樟が別途記載されているので、椨/タブノキとするしかなさそう。倭国の照葉樹林の代表的大木としてイの一番にあげているから、当時沢山生えていた筈と睨んで。
従って、樟をクスノキとする。[→2012.9.22]
樟脳原料なので一時大量伐採されたから、現代ではクスノキは疎らな存在だが、植えられ続けてきた樹木である。古代も大木は船材として次々と伐採された筈で、生えている大木は少なかった可能性がある。

次ぎは、杼橡。2文字語彙として、団栗樹と見なすこともできそうだが、ここは二つに分けて考えておこう。
杼が団栗代表種ということになるが、現代の植生だと/山毛欅/ブナだ。しかし、ブナがクスノキやタブノキと混在することは稀。従って、ここではコナラとすべきだ。
文字的には、杼と橡は異字体に過ぎず、椚/クヌギとされたりもするが、クヌギが樹林帯の圧倒的多数派とは言い難い。もっとも、クヌギには"椢"という国字があり、倭を代表する団栗樹と言えないことはないが。(実が特に大きく球形だからだろう。)
そうすると、橡(=栃)はトチノキと見た方が良かろう。[→2012.12.11]実は大きく食用として重要だからだ。
団栗樹として、挙げられぬ筈がなさそうなのが椎/シイ[→2012.9.10]だ。ママで実を食べられるからだが。分類的には名称はスダジイ。
これがではないか。
櫪は椚/クヌギとすることになる。

そうなると、投橿は樫/カシか。少なくとも、"投"は樹木名ではなかろうし。樫はかなりの高木であり、硬い材質だから棒や柄の材として最適ということもある。

烏號はとても樹木名とは思えないが、山桑/ヤマグワとされていることが多い。辞書を見ると、桑柘で作られた弓の通称とされている。倭の献上品に短弓があるが、その材だろうか。小生は、てっきり梓弓と考えていたが。
桑材と言っても、非養蚕用は結構な大木で、家具や棺に使われており、堅牢で武器庫に大量保管しておくのに良いという点も買われていそう。

楓香は紅葉が美しいカエデしかあるまい。樹脂に香りがあるのだろうが、イロハモミジにそのような特徴があるかは定かでない。[→2012.9.26]

以上、日本列島の平地と低山だけの植生であり、針葉樹林が全く入っていない。杉は屋久島でも自生している位、日本列島の至るところで見かける。尾根筋の黒松や海側の赤松も、その気になれば気付く筈だ。
かなり恣意的な選び方がされていることになるが、役に立つ広葉樹だけ紹介したと言うことかも。
外交官が植生を見破れるとは思えず、ここらの記載は別途報告を転載した可能性が高い。

竹には関心が高いようだ。と言っても「松竹梅」的な意識ではなく、弓矢の質に係るという観点。

で一語かも知れないが分けた。
篠はシノダケ。笛用で名高いが。
(=竿)は矢竹/ヤタケ。筆に使われている。
桃支は細くてしなやかな女竹/メダケか。

/生姜/ショウガは移入種らしいが、すでに普及していたようだ。
/タチバナは古事記では「非時香果」とされており、移入種ということになるが、それは大きな実の可食種だろう。本来的にはタチバナは日本固有の酸味が強い小粒実が成る野生柑橘類。照葉常緑樹林が育つ環境下だからその手の種が存在して当然。酸味料には好適である。
/サンショウは日本の固有種である。じかみは古代から使われてきた純然たる伝統香辛料。
襄荷/茗荷/ミョウガも移入種らしい。人家近辺以外に広がったことがなさそうで、始めから栽培種ということでは。
中華料理にはいずれも大量に使用するが、倭での食事には一切登場してこなかったので、香辛料の使い方をわかっていないと感じたのであろう。もともと、肉類中心でないため、強い香りは不要だったから、以後もそれほど進展はなかったと見てよいだろう。

【参考】
時代的にはかなり後世になるが、完本らしき「出雲風土記」には樹木名が並ぶ。ザッと眺めると少なくとも以下の名前が登場してくる。・・・楠 椎 海榴/椿 多年木 比佐木 栗 樫 櫟(なら) 栢/榧 蘖 槻 柘 檀 楡 赤桐 白桐/梧 李 楊梅 藤 蜀椒 檜/(…"かじ"では?) 杉/枌/椙 松 楮

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