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2011.1.21
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経典文字に抗してきた日本語…


世界の文字分類から民族の特徴が見えてくる。
 世界の文字をざっと眺めていたら、突然、「文字文化」の生態史観的な感興に襲われた。
 「日本の漢字利用法は独特 」 「日本語だけは、類縁性検討に特別な方法論が必要そう」 [2011.1.19/20] 

 どういうことか、わかるように、表を整理し直してみたので、じっくりご覧になって頂ければ幸い。

 すでに述べたが、再度ハングルに触れておこうか。ここが発端なので。
 世界の文字を眺めると、ハングルと日本語のカナ/ひらがなが突出的に孤立して映る。それぞれ、まさに我が道を行くか。しかし、両者の思想性は全く違うのではなかろうか。
 ハングルだが、形からいかにも特殊な文字に映るが、冷静に考えれば、それぞれの言語毎に形が違う「アブギダ」と大して変わらないのでは。わざわざ「音素的音節」と呼ぶべきではないように思う。「擬似アルファベット」宣伝が効いて特別扱いされてただけとも言えそう。
 だが、当事者は世界最高の文字と自己陶酔しているかも。それこそが、朝鮮半島の文化だと見ているからにすぎないが。そこを理解できると、韓国・北朝鮮の独特な姿勢もわかってくる。表では、「脱中国的"小中華主義"」としておいた。

〜 文字の分類 〜
- 形態 - - 特徴 - - 文字 -
(1)
音素
文字
子音のみ
線刻文字風合濃厚
厳格な規格
「アブジャド」
文語表記法なので非実用的
(現実の話言葉社会と遊離)
経典文章至上主義 (契約)
文字は信仰の象徴 (宇宙誕生)
(アラム)
ヘブライ---"旧約聖書派"の命
アラビア---"コーラン派"の命
子音と母音
ペン書スタイル
緩い標準規定
(発音補正用付加記号)
「アルファベット」
原点は経典言語
各国語対応 (翻訳版新約聖書)
世俗的伝達文字化
ギリシア---新約聖書の思想的基盤
ラテン[ローマ]---"カソリック/プロテスタント各派"の布教用語
キリル---"ギリシア正教各派"の布教用語
土着言語の人工的発音文字化
実利的世俗文字
「近代化」路線の産物
「無文字」言語への導入---"キリスト教"伝道語
(「音節-表音」に分類したうちの一部も該当)
「アブジャド」代替("イスラム教圏"トルコ語、"仏教圏"モンゴル語)
「アブギダ」代替("イスラム教圏"マレー語)
「漢字」代替("仏教圏"ベトナム語)
子音-母音付加記号
ロゴデザイン的“書”
自由表現形式
「アブギダ」
民族独自表現形式を重視
多様な文字形態は多神教的
基底には高度な音韻理論
(ブラーフミー)、北インド系、南インド系---"ヒンズー教等"
チベット-ビルマ-タイ−クメール系---"仏教等"
エチオピア
【伝播した経典文字として】
文字は信仰の象徴 (偶像)
読音と書に呪術的意味
梵字(サンスクリット)---"真言"
子音-母音組合せ文字
「擬似アルファベット」
音節的「アブギダ」
孤立化による独自性発揮
理屈名目のエスノセントリズム
封建国家時代への愛着
ハングル---脱中国的"小中華主義"
(2)
音節
文字
部品組み立て表意文字
筆書
自由創作型
【発音音素文字並存】
文字変化無し (文章構造言語)
読み方は各言語自由
同音文字は声調で峻別
発音は原則一義的
漢字(簡体字、繁体字)---"中華政治圏"
+pinyin---"近代化"夢想
表音
(事実上例外扱い)
希少例の上、様々
文章構造軽視
絶滅危惧状態多し
女書[瑶族女性言語] 、ポラード[苗族言語]
チェロキー、Ndyuka[@スリナム]、ヴァイ[@リベリア]
他文字表記(ユピク族言語)
 (3) 音が一義的でない文字中心のハイブリッド音節文字 漢字(新体字)/カタカナ/ひらがな/ローマ字/記号---"日本教"
 (4) 無文字 (記録書保存習慣無し) 存在感喪失

「アブジャド」文字民族は世俗主義に陥ることはなかろう。
 続いて見ておきたいのが、「アブジャド」。
 子音しかない文字で読むのだから、母音を想像するしかない。慣れないと読めるようなものではなかろう。アルファベット文の利用者から見れば、およそ実用性に欠ける記載方法だ。しかし、アラビア文字を用いるイスラム教徒人口は小さなものではなく、増加一途。

 アラビア文字は、いかにも、粘度板を竹ペンで削ったような形だが、それこそが重要なのだと思われる。コーランが書かれた時代の文化を大切に護り続けている訳だ。
 換言すれば、文字を使うなら、コーランの文字以外にありえないという態度。誰が考えたところで実用性の点で障害だらけの表記方法だが、そんなことは意にかいさないのである。
 つまり、世俗化の道を歩むつもりは無いのだ。
 もしそうでないなら、アラビア文字を捨てるしかない。その典型例がトルコ。コーラン至上主義を改めたということ。アラビア文字の世界にこだわるということは、コーランに記載された戒律社会を続けることを意味するのだ。従って、そんな世界に、アルファベットの国が自分達の文化を押し付けたりすると、大変なことになる。
 それをわかっていながら、チョッカイを出さざるを得ないのがキリスト教文化なのかも知れぬが。

 こうした「アブジャド」文字文化の本質がもっと分り易いのは、ヘブライ文字の世界。22文字の子音文字からなり“アルフベート”と呼ばれるらしいが、まごうかたなき「アブジャド」。アラム文字-シナイ文字から来ているそうで、基本は聖書文字。ただ、聖書時代の言語以外に、後世復活の現代ヘブライ語で生まれた言葉も使われているに違いないとは思うが。
[旧約聖書の一部はアラム語らしい。パレスチナでキリストが布教していた言語だろう。ただ、もともとは、この地区の言葉ではないようだ。メソポタミアからシリア辺りに侵入してきた勢力に使用を強制されたのである。]

 何はともあれ、こうした聖典記載の文字を使う必然性がある宗教ということ。要するに、ヘブライ語は「神の言語」であり、神の子となると契約した以上、この文字から離れる訳にはいかないのだ。
 そうなれば、パレスチナ地区での和平は本質的にあり得ないこともわかる。戒律書でもある旧約聖書に、約束の地とされているのだから、土地への入植を止めることは無理難題に近い。しかも、終末的大戦争が予言されている訳で、その準備はほとんど義務と言ってよいだろう。
 「アブジャド」文字民族間対立は熾烈なものにならざるを得まい。

世俗主義に見える「アルファベット」も底流に宗教がある。
 それなら「アルファベット」は世俗主義かといえば、そうとも言い難い。基本はやはり経典文字だからだ。ただ、原典で使われている文字にこだわらずに、各言語への翻訳を旨とした訳だ。その場合、音を各土着言語で記載する必要があるため、音素文字が広がったと見てよいだろう。
 その場合、文字を単なる意思伝達の道具と考えると誤り。宗教革命はルターによる聖書翻訳で発生したとも言えるからだ。思索を言葉に直し、さらに文字化し、初めて思想が形成されるという考え方が基底にあると見るべきなのだ。「言葉ありき」は文字化されて意味を持つ。
  【ギリシャ語文】
  Eν αρχη ην ο Λóγος,
  και ο Λóγος ην προς τον Θεóν,
  και Θεοó ην ο Λóγος.
   ↓  
  【ラテン語文】
  In principio erat Verbum
  et Verbum erat apud Deum
  et Deus erat Verbum.
   ↓
  【英文】
  In the beginning was the Word,
  and the Word was with God,
  and the Word was God.
   ↓
  【和文】
  初めに言葉ありき、
  言葉は神と共にありき、
  言葉は神であった。

日本では、経典性を抜き去って漢字を使ったと言えそう。
 長くなりそうなので、ここらで終わるが、日本語はこうした文字の言語と根本的に相容れないことに注意すべきだと思う。
 日本語以外は、文字と発音を一対一対応させようとする。それを怠れば、バベルの塔のバラバラ言語どころか、同一言語でも経典の読み方が人によって違ったりしかねないから当然だ。社会を統一しようと思えば、言語は規格化ざるを得ないというのが常識。
 もちろん、「アブギダ」だろうが、中国の「漢字」だろうが、同じ。

 ところが、日本語だけが、この考え方に沿っていない。
 中国の経典は四書五経だが、その本質は史書だ。日本も当然ながらそれに習った。そして作成したのが漢字の「日本書紀」。漢語民族が読める体裁。
 しかし、その作成前に、全漢字の「古事記」も仕上げているのである。こちらの漢字は話言葉としての日本語の表音文字でしかない。漢語民族では無いことを宣言したような史書をわざわざ完成させたのだからたいしたもの。
 しかも、そんな非漢語の全漢字書籍も別途完成させたのである。言うまでもないが、「万葉集」のこと。歌の書だが、これが日本では経典に当たると言えないこともない。
 まさに、経典用文字の換骨奪胎が最初から行われた訳だ。その後、漢字の読み方も複数設定し、漢文を読み下し文に変えるなど、その路線は徹底したものになる。
 経典文字たる漢語導入は気に沿わなかったのである。

 ともあれ、日本語の文字使用の考え方は他とは根本的に異なると見てよさそう。


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