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■■■ ジャータカを知る [2019.5.10] ■■■
[61] ハムサ鳥
ハムサHamsaはインドでは知らぬ人無しの聖鳥である。

ヒンドゥー教の3大神の乗り物[バーハナbāhaṇa]が、ヴィシュヌのガルダ[→金翅鳥]、シヴァの"ナンディ"[白色牡牛]、創造神ブラフマーBrahma/梵天のハムサということで。
その名前は"Hanskumara"。もちろん、配偶神サラスヴァティーSaraswatiも乗ることになる。そのせいか、鳥の意味は知恵&優美にあるとされることが多いようだ。
(尚、ヴェーダ聖典の精髄とされていると言われるマントラを女神格したガーヤトリーGayatriは獅子、ナンディ、ハムサに騎乗している。)

ところが、現代図絵ではもっぱら白鳥。[→]
小生はそれには疑問を覚えるとの話をしたのでモデルと目される鳥を取り上げずばなるまい。

昔から言われていたことだが、この鳥は「鵞鳥」であると。
ただ、この名称は家禽を指す。ヒトに親しみある鳥ということだろうが、インド的住環境を考えると警備用に愛される必然性は薄いから、そのガーガーと煩い鳴き声が愛されている訳ではなさそう。
そもそも、亜大陸全体で見れば、飼育に向いている地域が広いとは思えないから、「鵞鳥」と言っても祖先たる、それは野生種の雁や鴨系の鳥を指す言葉考えてよいだろう。
そうなると、文句なしに、コレしかなかろう。
  ●印度雁Bar-headed Goose/斑頭雁

ヒマラヤ山脈越えでインドに渡ってくる超能力の鳥だからだ。
つまり、酸素濃度が極めて低い高度7,000m以上を、16〜17時間飛び続けることができるのである。

流体力学的に素晴らしい形をしているからこそできる技。肥えている白鳥には、こんな芸当は無理だろう。
そもそも白色の鳥は白鳥以外にも存在する訳で、鶴や鳩だけでなく、アルビノも珍しくない。源信:「往生要集」にしても、五鳥なら、鸚鵡、孔雀、鷲、鶏、烏という見方で、白鳥が入る余地はない。これ以外でも、鳧(鴨) 雁 鴛鴦 (鵜) 鷺 鵞 鶴 孔雀 鸚鵡 迦陵頻伽といった鳥だ。雅音の阿弥陀浄土六鳥に入るのは、白鵠(白鵝鳥)である。[→鸚鵡]

それに、白鳥は無垢の象徴たる白色だからこそ意味がある訳だが、それが聖鳥ハンサの要件とは思えない。基本は黄金色ではあるまいか。
ジャータカでは、"HAṀSA"題名の話があるが、明らかにそのように使われているからだ。・・・
[#136]SUVAṆṆA HAṀSA/金色鵝鳥ハンサ譚
金色真鴨[mallard]に転生した婆羅門は、昔を思い出した。当時の妻と娘が今は他人の施して生活していることがわかり、安穏に過ごせるよう、金狛のような自分の金羽を一枚づつ与えることにした。ところが、欲深な妻は娘の反対を押し切り羽をとり去り、飼って換羽させることにした。しかし、生えてくるのは鶴のような羽。生え揃ったところで飛び去って二度と現れなかった。
[#502]HAṀSA/鵞鳥ハンサ譚
金色鵞鳥[goose]王が罠にかかってしまう。ところが仲間は見捨てない。猟師は感動し、王の命令を聞かずに逃がす。
[#476]JAVANA HAṀSA/敏捷鵞鳥ハンサ譚
太陽と競争できるほど敏捷な鵞鳥[goose]がいた。しかし、スピードが十万倍にも達するのが生き物。その命は短いのだ。
[#533]CULLA HAṀSA/小鵞ハンサ譚
黄金の洞窟に住んでいる鵞鳥[goose]王が強烈な罠にかかってしまい殺されそうに。鵞鳥指揮官は、命を張って猟師に語り掛けて救う。
[#534]MA HAṀSA/大鵞ハンサ譚
ある夜明けのこと。王妃は、黄金色の鵞鳥達が渡来し、王座で優美な声で法を説く夢を見た。明るくなって講話を終えると窓から出発。王妃は咄嗟に「逃げる前に鵞鳥を捕まえて。」と叫んで目覚めてしまった。
そして、王に、そんな法話を聞きたいと。
それができないと死んでしまうだろうなどと言って。
王は臣下に相談すると、陛下、それは婆羅門に、と。
婆羅門曰く、
「黄金色が見つかっているのは、
  魚、蟹、亀、鹿、孔雀、鵞鳥。
 人も入れれば都合7つ。」
そして、黄金色の鵞鳥が来ると思われる湖を保護区としたので、様々な野鳥がやってきた。
鵞鳥の仲間だけでも5種類。
 grass-geese,
 yellow geese,
 scarlet geese,
 white geese,
 Oka geese.
そして、 目立つ色のpāka geese。その王女は黄金色。・・・

どのように翻訳したものかはわからぬが、常識的に考える限り、ハンサを白鳥と考える理由はどこにもない。読んでいてすぐに感じるのは、白鳥の群れの数とは桁が違うとてつもない巨大さ。黄金色とはその王としての象徴なのであろう。

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