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■■■ ジャータカを知る [2019.5.21] ■■■
[72] 羽穗草
羽穗草は、日本で言えば、イネ科の外来雑草。草丈1.5m。
名言の通り、"雑草"という名称は無い訳で、通用している名称はコレ。
 ●デスモスタキヤ・ビピンナータHalfa grass/羽穗草
熱帯アジアの汽水域では珍しくない草だ。おそらく、河川域で陸地浸食を防いでいる草なのだろう。日本は島国で海人文化圏だが、葦の置付けがそれに当たるのかも。

一面に生えている光景は珍しくはなかったようである。・・・
[#463]蘇婆羅迦賢者譚
富を求めて大海へ乗り出した商人達だが難波寸前。そこはNīlavaṇṇa kusa-māla海と呼ばれ、緑色の草が拡がる場所。暗いKusa-grassかコーン畑のような風景とされている。
話の方は、全盲賢者が救うことになる。

英訳ジャータカで、こんな具合にお話に登場してくる"kusa-grass"が羽穗草である。

種は食用にはならないようだし、草を飼料にするのも難しそうだが、インドでは親近感が湧いてくる誰でもが知る植物のようだ。・・・
「朱と交われば赤くなる」と言う手の比喩として、悪臭を放つ魚をkusa grassで縛れば草に腐敗臭が移ると。[#544]
[#22]犬譚[→インドの犬]では、王が使う馬具の革紐を食べたのが王宮の飼い犬であることを示すために、butter-milkとkusa-grassを混ぜたものを喰わせて吐き出させるシーンがあり、消化不良を起こすような草であることがわかる。

しかし、大衆的とも言えない。ベーダ経典の乳海話で登場する草だからだ。内容から見て、様々な神々への信仰開始時点か、それ以前から、神聖な草と見なされていた可能性が高そうだ。木の伐採道具の能力が低かった時代は、草が多用されていた筈で、なかでもこの丈夫な草が万能だったということだろうか。
従って、釈尊への最初の捧げものは、この草製マットとされている筈。当然ながら、釈尊が悟りを開いた時、この上に坐していたことになろう。

優美なソファーの仕様として、上部に鹿皮がゆるやかに掛かり、香ばしいkusa grassで形作られているとされており、この草の効用はおそらく誰もが認めるところ。[#535]

ちなみに、[#531]KUSA須那迦辟支佛譚では、帝釈天Sakkaの王妃への懐妊プレゼントは以下の5品。(衣装や楽器も植物ということなのだろうか。)
 ○羽穗草a piece of kusa grass
 ○天衣a heavenly robe
 ○白檀sandal-wood/檀香
 ○デイコ[梯沽](Indian) coral-tree/刺桐
 ○紅蓮リュートKokanada lute

ついでながら、話の筋から外れてしまうが、この譚にはもう一種植物が記載されているので追加しておこう。
 ○Kaṇikāra tree=白桐(リリーナッツの木)Bayur tree/翅子樹 or 迦尼迦羅…樹高30m

ところで、"A clump of kusa(or kusha) grass"はパーリ語で"KUSANĀḶI"。この題名譚があるが、これこそ、ジャータカ特有の「殺生戒」話。・・・
[#121]KUSANĀḶI吉祥草譚
王の遊歩用庭園に"一番"Mukkhakaと呼ばれる美しい願い事の樹木があり、その場所に羽穗草が生えていた。そこは王の座席でもあった。
その樹木には、強大な神の王が転生した妖精が住むんでいて、草にも妖精がおり、両者は親密な友情で結ばれていた。
王宮の屋根は一本の柱で支えられており、もう一本追加しようということで、大工はその樹木を候補に。森の精霊も、どうにもならなかったが、草の妖精は大工がやって来るとカメレオンの姿で登場し、木が朽ちていそうと誤解させることに成功。
ここでの配役:
 弟子阿難=Tree-sprite
 釈尊=Kusa-sprite
前生は、妖精とはいえ、動物や人格神ではなく、樹木でもなく、草なのだ。このような話を聞かされた人々には驚きだったに違いない。

[#2]砂道譚[→駱駝]
砂の荒野で水がなくなってしまったが、そこで希望をあたえたのはkusa-grassの茂み。そこを掘れば水があると。

尚、パーリ語辞書ではDABBHA=Kusa-grassである。
[#400]DABBHAPUPPHA沓婆草花譚[→獺]
獺とジャッカルの漁獲話だが、その一部始終を見ていたのは川の土手に生えている樹木の精霊(spirit)。前世の釈尊。
この草名だが、Kusaの別名とされているダルバ草Darbhāということか。両者が同じ草とは限らないが、こちらは今でも遺体の牛糞床マットにラクシュミーの化身とされる神目箒Holy basil/聖羅勒と一緒に撒くようで、荼毘にふすために不可欠な草らしい。蛇が持ってきた不死飲料アムリタの壺からこぼれた液体がついている草ということかもしれない。日本にも茅の輪くぐりが残っており、茅系の植物には蛇への格別な思い入れがあるようだ。

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