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■■■ ジャータカを知る [2019.6.21] ■■■
[103] 布施太子
ジャータカ収録最後譚は東南アジアでは普通に知られているそうだ。遺跡ストゥーパの壁のレリーフにも必ずと言ってよいほど見つかるから、古代から親しまれていたと見て間違いない。
  [#547]VESSANTARA毘輸安呾囉ヴェッサンタラ王子譚

有名な理由は、末尾譚であり、しかも長編という点が大きい。
(タイのMahanipata Jataka/Thotsa Chadok記載の釈尊10前生の最後はヴェッサンタラ王子譚である。)
ジャータカなので教義経典臭さはもともと薄い上に、「ラーマーヤナ」や「マハーバーラタ」のような叙事詩体裁なのだ。従って、詩の数は数百節。もちろんのこと、ほとんどすべてと言ってよいほど沢山の動植物物も登場してくる。
その美しい口誦が古代インドの人々の心を捉え、東南アジアの人々をも虜にしたということ。おそらく、散文的説明など無視され、営々と詩だけが詠われ続けてきたのだと思う。そんな詠唱も、今や、東南アジア仏教国だけになってしまった訳だ。

そうそう、ポイントは叙事詩という形式だけではない。
釈尊前生の最後に当たる話なのだ。従って、釈迦牟尼信仰社会ならストーリーは常識の類であっておかしくなかろう。

ところが、現代日本では、釈尊前生の話自体を一度も耳にしたことのない人だらけ。彼我の違いは余りに大きい。
この話のガイストは、日本に平安期に伝わっていたようだが、たいして話題にはならなかったのかも知れない。[沙門聖堅[訳]:「太子須大拏經」]
しかし、20世紀に入ってから、親鸞を題材にした「出家とその弟子」1916年で知られる倉田百三が、戯曲「布施太子之入山」1920年に翻案している。初演しか行われていないようで、今ではほんの一部の人にしか読まれていないらしいが。
どう翻案しようと、主人公が心底布施に拘り抜くという話以上ではないが、非捨身型なので文芸的にはどう描くか悩ましい題材だ。

布施への拘りというなら、なんといっても捨身話が単純でわかりやすいからだ。
ところが、すでに述べたように、ジャータカには超有名な「投身餓虎-捨身飼虎」話は収録されていない。[→虎]と言っても、兎の誠心誠意捨身布施話[→兎]と、鳩を救い鷹を喰わせるためシビ王が身を切る話[→鷲鷹・隼]は収載されている。だが、547譚のなかでは、ほとんど目立たない。こうした布施へののめり込みを賞賛している話は例外的存在なのだ。もちろん、折々に、布施の重要性を語ってはいるものの、淡泊な姿勢をとっている印象は否めない。そこらは大乗系との違いがあるのかも。
(そうなるのもわかる気がする。一つは、捨身には殉教聖人イメージが被さってくることが多いからだ。それでなくとも、絶滅/供犠用捕虜獲得を目標とする部族間戦争だらけだった訳で、部族のための自己犠牲の甘美さは共有されていたに違いないのである。
又、そのような社会では、我とわが身を焼き尽くしたい願望も生まれるもの。それは、英雄的捨身の裏返しで、牢獄的社会での自己否定行動に近い。所謂、自殺であるが。)


マ、その辺りはどうでもよいのであって、ここでの布施は衝撃度が桁違いなのである。
喜捨するのは、自分の身より大切な、我が子であり、最愛の妻。他の布施とはとても比較にならぬ。鬼気迫るものありだ。

宮沢賢治もそこらが大いに気になったようで詩に組み入れている。["一〇五二 ドラビダ風"@「詩ノート」1927年]
  ・・・ヴェッサンタラ王婆羅門に王子を施したとき
   紺いろをした山の稜さへふるへたのだ・・・


ともあれ、この最後譚は目立つ。

と言うことで、取り上げておくことにした。

過去の因縁部分をカットすれば、流れはこんな風。詩篇なので、意味がつかめない所だらけで、筋を読むことさえ難しいため、以下が妥当な見方かはなんとも言い難しだが。・・・
【始原】
 シビSivi国(首都:Jetuttara)の王 と 妃
 王子サンジャヤSañjaya と 妃プサテイーPhusatī(Madda王女)
【主要場面】
□プサテイーが王子をVessa通りで産んだので、Vessantaraと命名。
□王子誕生時、雌象飛来。王家存続の吉祥白象Paccaya
を授ける。
□王子は布施を続ける。
 ○王からもらったネックレスを保母に授与
 ○8歳になり、身体のすべてを布施する決意に到達
 ○16歳で戴冠 妃は母方従姉妹Maddī
 膨大なお金を配布
 ○王子Jāli王女Kaṇhājinā誕生 毎月施し挙行
 ○Kāliṅga王国で旱魃飢饉発生 象と宝を授与
  ⇒王国崩壊行為と人々激怒 Vessantara殺害気分
  ⇒Vaṁka山への追放処分の声
 ○追放されるに当たって豪勢な贈り物
 ○家族と共にの丘目指し車馬で出発
 ○途中の森で、車馬を婆羅門に布施
 ○息子と娘を婆羅門に布施⇒妃悲嘆
 ○妃を婆羅門に布施
□王は残酷無慈悲な婆羅門の奴隷となった二人の子供を買い戻す。
□子供は、巨大な軍勢を率いて父を迎えに行く。
□王国は順調で田舎は平穏になり、王家の6人が集合した。
□Vessantara王は復活し、猫に至る迄、すべての生き物を解放した。
□布施が行われ、貴重な金が降り注ぎ、シビ王は逝去し天国へ。


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