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■■■ 今昔物語集の由来 [2020.5.24] ■■■
[329] Yama
天竺-震旦-本朝の文化の違いを、しっかりと見据えていることがわかるのが閻魔の記述である。

地蔵菩薩が登場してくる定番シーンは本朝の特徴。
[→閻魔王]
  【本朝仏法部】巻十三本朝 付仏法(法華経持経・読誦の功徳)
  [巻十三#_6]摂津国多々院持経者語
  [巻十三#13]出羽国龍花寺妙達和尚語
  【本朝仏法部】巻十七本朝 付仏法(地蔵菩薩霊験譚)
  [巻十七#17] 東大寺蔵満依地蔵助得活語
  [巻十七#18]備中国僧阿清衣地蔵助得活語
  [巻十七#19]三井寺浄照依地蔵助得活語

しかし、胎蔵曼荼羅に描かれているのは方位護法神としての閻魔天王であり、地蔵とも、地獄とも無関係。
【十二天-八方】 [→[12]胎蔵曼荼羅 帝釈天]
[U] 帝釋天🀀…インドラ
[R] 閻魔天王(焔摩天)🀁…ヤマ
[D] 水天 1🀂…ヴァルナ
 [D] 対面天🀂…門
 [D] 難破天🀂…門
[L] 毘沙門天/多聞天🀃…ヴァイシュラヴァナ
[UR] 火天🀀🀁…アグニ
[DR] 涅哩帝王(羅刹天)🀂🀁…ラークシャサ
[DL] 風天🀂🀃…ヴァーユ
[UL] 伊舎那天/大自在天/摩醯首羅)🀀🀃…イシャーナ/マヘーシュバラ(シバ神)

方位神の一角を占めているのだから、閻魔が下方たる地獄の入口に居る道理が無い訳で、役割が大きく変わったことがわかる。
死者の行く先を裁決する役割ではなかったのだ。

しかし、閻魔天曼荼羅[→「曼荼羅」天部 [5] 閻魔]を見ると、そこには、道教の神で、善悪記帳官僚統率者の【太山府君】が控えていたりする。
つまり、死者を裁いて行先を宣告する閻魔大王の姿とは、官僚制ヒエラルキーを神々の世界に持ち込む、道教的世界で生まれたということ。[→道教的地獄@「酉陽雑俎」]

閻魔は、もともとはベーダ聖典の"ヤマYama"であり、ゾロアスター教にも通ずる死の神である。
死者は、その神の地に召されるというのが原義と思われ、王的称号がつくことにより、冥界支配者としての地位を与えられたと考えるのが自然だ。
「今昔物語集」では、そこらを、やんわりと記述している。登場するのは、どう見ても、震旦や本朝の閻魔ではなく、天竺のヤマである。地獄を想起させる情景は何もない。そこは幼児が庭で楽しく遊び回る場所なのだ。・・・
  【天竺部】巻四天竺 付仏後(釈迦入滅後の仏弟子活動)
  [巻四#41]恋子至閻魔王宮人語
 羅漢になろうと思って修行していた比丘だが、
 60才になっても望みはかなわなかった。
 歎き悲しんだが、力及ばずであった。
 そこで、還俗し、家に戻ろうと決意。
 そして結婚したところ、すぐに懐妊。
 端正な男の子が産まれ、溺愛。
 しかし、思わぬことに、7才になって死んでしまった。
 父は悲しみの余り、遺体を捨てることもできずにいた。
 側の人々は、これを聞き、あまりに愚かであり、
 早く棄てるべしと言って、遺体を奪い取り棄ててしまった。
 それでも、父の悲しみは深く、堪えることもできず、
 子供にもう一度会えるようにと、願うように。
 「閻魔王の所に詣で、子供にもう一度会えるように申しあげよう。」と。
 とは言うものの、
 閻魔王の居場所を知らないので、尋ね廻ったところ、
 教えてくれる人がいて、それに従って歩いて行った。
 遥かに遠いところまで行くと、大河があり、
 その河上に七宝の宮殿があった。
 それは喜びではあったが、恐れもあった。
 そして、近づいて行くと、気高く止事無き人が出て来て、
 誰かと尋ねられたので
 「あなたは誰ですか」
 「我は、見た通りの者。
  我が子が7才で亡くなってしまい、
  恋い悲しむ心に堪え切れず、
  子を見たいと王に申し上げようと、参上した次第。
  願わくば、王の慈悲を以て
  我が子を見せて頂きたく。」と。
 王にその旨が伝えられると、すぐに返事。
 「早速に、会わせてやるべし。
  その子は後園に居るから、行って見るればよい。」と。
 父は大いに喜び、行って見ると、そこには我が子。
 同じ様な童子達と遊戯の最中。
 父は子を呼んで、泣々言った。
 「我は、常に頃、汝を深く思っており、
  どうしても会いたいので王にお願いし実現できた。
  汝も道心が生まれなかったか?」と、
 涙ながらに話かけた。
 ところが、
 子の方は、そんな気色は無く、
 特段に父に会ったことに関心を示さず、
 歎く態度という訳でもなく、遊びに行ってしまった。
 父は恨めしく思い、限り無く泣いたのだが、
 それでも、子供は何とも思わず、何も言いもしない。
 歎き悲しんでも、どうにもならないので、返るしかなかった。

とってつけたような、ご教訓である。
生を隔てつれば、本の心は無にや有るらむ。
父は未だ生を替へずして、かく恋ひ悲びけるにや有りけむ。


以下は、そのうち、別途とりあげよう。
  【震旦部】巻六震旦 付仏法(仏教渡来〜流布)
  [巻六#39]震旦法祖於閻魔王宮講楞厳経語
  ⇒釋非濁:「三寶感應要略」中21法祖法師為閻羅王講首楞嚴經感應
  【震旦部】巻七震旦 付仏法(大般若経・法華経の功徳/霊験譚)
  [巻七#46]真寂寺僧恵如得閻魔王請語
  ⇒唐臨:「冥報記」上二 釋慧如

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