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■■■ 今昔物語集の由来 [2020.7.5] ■■■
[371] 両界供養法
/櫁//シキミ[⇔榊/さかき]がでてくるので、とりあげてみたくなった譚がある。  →日本の製香木[2013.9.10]
  【本朝仏法部】巻十四本朝 付仏法(法華経の霊験譚)
  [巻十四#44]比叡山僧宿播磨明石値貴僧語
 比叡山の賢い学僧で真言もよく知る陽信は
 山の状況に見切りをつけ伊与に行くことに。
 その途中、播磨明石の津で宿をとった。
 その頃、ここでは、疫病大流行中。
 地元の人々はそれを止めるべく、
 法師陰陽師を招請。
 その翌日の祭祀の準備で大騒ぎ。
 どうせ横領の魂胆だろうと見て、
 せっかくだから、見物することに。
 ところが、

  陽信、山にして 多の止事無き事共を見しかども、
  未だ、此く 貴く厳重なる事をば見ざりつ・・・。


地場の、未公認僧たる法師の違法行為だが、実に立派にしかも正式な法会以上に厳かに滞りなく、胎蔵会曼荼羅供養法と金剛会曼荼羅供養法を執り行われたのである。
これで、果が得られない訳がなかろう。
実際、これを機に、疾病はこの地のみならず、消えたという。この法師についてもなんらの情報も得られなかったとのこと。

ともあれ、供養に集められた物は、全てが護摩木と共に煙に。法師集団が持っているものは、浄衣だけ。陽信は、法師が供養物を持ち帰るつもりと見ていたが、それは、まさに、下衆の勘繰りだったのである。
どういう経緯で法師を務めているのか尋ねようとしたが、さっさと備前方面に逃げられてしまった、と。
そりゃそうだ。
中央権力の庇護のもと、安穏に旅をしている正式な僧を信用する訳がないのだから。そんなことも理解できないナイーブな体質であることがよくわかる話に仕上げている訳だ。

この譚が冴えているのは、場所が播磨なので、陰陽師の話を思い出させるから。
明石沖で海賊に襲われた船主を助け、陰陽術で海賊捕縛の上、積荷を取り戻したということで、力量があるとされているのだ。
  【本朝世俗部】巻二十四本朝 付世俗(芸能譚 術譚)
  [巻二十四#19]播磨国陰陽師智徳法師📖陰陽師

しかし、いかに力があろうと、あくまでも官の承認を欠く違法な民間勢力。公的権力に勝てる訳がない。
そこらの感覚に乏しい、慶滋保胤など、明石の僧が河原で紙冠してお祓いをする様を見て、泣き叫び批難したほど。だが、外道だろうが人々の信を得ている訳で、生活を立てるためには致し方ないのである。
   【本朝仏法部】巻巻十九本朝 付仏法(俗人出家談 奇異譚)
  [巻十九#3]内記慶滋保胤出家語📖慶滋保胤 📖「日本往生極楽記」

上記のストーリーさえわかれば十分意図は達しているようにも思える。従って、細かく供養法を記述する必要は不要としてカットしそうな気もするが、砂浜上での"しつらえ"がしっかりと記載されている。
どうしてもそこらに興味を覚える。
【持集物】
  新調の桶 5〜6
  精米
  大豆
  角豆…沖縄・九州の四角豆ではなく大角豆(ササゲ/豆)
  餅
  時節の菓子
  薑…はじかみ(生姜)ではなく山椒
  大小の土器…使い捨てのカワラケが正式
  浄き草座…古式重視
  手作布
  椙榑…杉角材
  美濃紙
  油

【曼荼羅】
3〜4枚の布を並べて細く閉じ広幕にし、2丈四方に榑を幕柱として張廻る。その内にを立廻し、注連縄を引く。さらに、その内に薦を四方に敷き、薦の中に、一丈四方の砂庭を造る。それをよく馴してから、長い細木を用いて、胎蔵会曼荼羅をそこに描く。

【次第 I】
敷いた薦上に、閼伽(霊水)をいれた土器を奉る。五穀の高盛鉢、時節の菓子等全てを居並べ続ける。四角には御明灯。紙製幡を四方の左右に8つづつ立廻らす。祭祀者である法師は、弟子4〜5人と共に、布を浄衣として着用。それが整ったところで、仏前と思しき方向で胎蔵界供養法を始める。

【次第 II】
幕内に調へた物具は、幡・注連から始め、何一つのこさずに取り集め、傍にまとめてから、壇に置く。中の庭を残したまま、砂を馴してしまい、今度は金剛界曼荼羅を同様に書く。同様に、御明灯、香 火置き等々を済ましたら、金剛界供養法を始める。

【後始末】
幕より始めて、全てを壊し、同じ所に纏めて積み置く。桶・杓に至るまで、火を付けて全てを焼却。(着ている浄衣だけは残るが。)


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