ライセンシーが儲かる?…
日本の研究開発効率が悪いのは、閉鎖性の問題もあるが、イノベーションを目指そうとしないからだ、といったら言い過ぎだろうか。
→ 「閉鎖性論議の問題点」 (2004年4月29日)
イノベーション創出と言うと難しそうだが、要は、知恵を組織的に生み出すだけのことである。こうした体制を構築してきた企業は、自然体でイノベーションを創出した。
残念ながら、そのような企業は、日本では一部だ。
不調に陥った日本企業は、経済の発展に乗って「頑張った」タイプが多い。優秀なエンジニアを大量に抱えながら、組織的にその力を生かせず、たいしたアウトプットが出せなかったのである。
ヒト・モノ・カネを揃えたが、知恵を組織的に生み出す構造を作らなかった結果である。
それでは、この問題をどう解釈すべきか、簡単に検討してみよう。
まず第1は、自社独自技術で市場を立ち上げる仕組みが中途半端な点があげられる。独自技術で、イノベーションを狙った日本企業は稀である。
苦労する割には報われないと考えていた企業が多かったのである。
どうしてそうなったかは、歴史を振り返ると、わかり易い。
戦争で破綻した国にとっては、最初は、ゼロベースのスタートである。
当然ながら、まさに手取り足取りで、欧米企業から技術を教えてもらうしかない。それ以外の道などあり得まい。
ただ、日本企業のエンジニアは質が高く、しかも真面目に取り組んだから、キャッチアップが早かったのは間違いない。
しかも、米国は巨大な市場を日本企業に開放してくれたから、顧客創出の苦労もしなくて済んだ。お蔭で、すぐに、欧米並の力量をつけてしまったのである。欧米企業にとっては、超低コストで優秀なエンジニアが頑張っている企業が突如競争相手として登場したので、驚いた訳だ。
ところが、これに対して、当初、欧米企業は、日本を凌駕する体制を敷く気がなかったのである。
これを、欧米企業の油断と見ることもできるが、常に発生する問題と見た方がよいだろう。技術はその気になれば簡単に移転できるから、産業がグローバル化すれば、必ずおきるのである。
現在米国で騒がれている、インドへの雇用流出問題も、同じようなものである。
→ 「インドへの雇用流出の意義」 (2004年4月1日)
要するに、日本企業は、基本技術を安価にライセンス・インして、改良や、周辺の工夫に注力することで飛躍を勝ち取ったのである。
後発としては、当然の方針だろう。
例外もあるが、ほとんどの場合は、海外の先進企業の技術を借りて成長する路線を採用したのである。
技術が確立したら、次ぎは、大量生産である。OEMやローエンド市場で徹底的に戦うことになる。
このような方針で戦う企業が、たまたま日本企業ばかりだった、というに過ぎない。このため、日本企業が世界を席巻できたのである。
この成功には、前提条件があることに注意すべきである。
1 すでに、産業自体ができあがっていること。
2 基本技術はライセンスイン可能で、フィーも十分低レベルであること。
3 ライセンサーより、かなり低コスト生産が可能であること。
要するに、収益基盤は、研究開発ではなく、コスト削減の生産技術なのである。この基本を忘れるべきでない。
といっても、これはライセンサーを含めた産業全体での競争を考えた場合である。
ところが、実際に競争に勝ち抜くためには、これだけでは無理である。生産コストが、ライセンサーより圧倒的に低くても、ライセンシー間では大きな差が無いからである。
そのため、ライセンシー間の競争が激しくなる。この競争に勝つため、抜本的なコスト削減や、商品品質や機能向上の研究開発が重要視される。
ここだけ見ていると、一見、改良や工夫に徹底的に注力したことで高収益化を実現したようにも見えるが、それは本質的な勝利の鍵とは言い難いのである。
しかし、もともと、この競争のルールが続く保証など無い。
ライセンサー(技術放出側)より、ライセンシー(技術購入側)の方が儲かる構造が永続する訳がないのだ。
米国のプロパテント政策の成功というより、経済原則が復活しただけのことである。
前提条件が崩れれば、土俵内で戦っていた企業は急速に競争力を失うことになる。
これが、日本企業低迷の背景と見るべきだ。
→(2004年5月7日)