「古事記」解釈[86](20210328)

■■■　「古事記」解釈 [2021.3.28]　■■■

[86]伊邪那岐伊邪那美神のキミとは

伊邪那岐神・伊邪那美神のペア表記について。📖獨神隱身時代から対偶神時代へ

{ヒコko ヒメme}の古代版が、{キki ミmi}だろう程度に考えがちだが、傍証は無いので慎重に見た方がよさそう。(クドイが、「記紀」として眺めたのでは、「古事記」を読む意味は無い。)

{キki ミmi}あるいは、この濁音が、対偶神表示であるのは間違いないだろうが、それを漢字表記する際には、それを利用して神のプロフィールも示されていそうだから、そこら辺りを点検しただけ。些末なことに見えたので、たいした意味はなかろうと思っていたが、そうでもなさそうだ。

例えば、伊邪那{貴御}としても音的には問題ない。しかし、{岐美}とは随分と違う訳で。
性別対応は不明だが、"毘神"という用語もあるから📖音韻を探ると古代の見方が分かるかも、"美⇒毘 or 彌"でもよかった筈。神話のストーリーに沿って"誘(伊邪な)う"と見なすなら、奇妙な用法にはなるが{來視}もあり得よう。漢字のチョイスは多岐に渡る。なにも{岐美}にせずともよさそうなもの。
太安万侶と稗田阿礼は様々な借字候補を探ったあげく、ここに落ち着いたのだろうが、どのような発想なのだろう。

しかし、その選定理由を読み取るのはえらく難しい。

素人からすれば、伊邪那{ギミ}より、伊邪{ナギナミ}の方がしっくりくるように思ったりするからでもある。
それに、"岐[＝㟚]"という文字には、分かれ道のイメージがあり、"美"の対偶表示としてはえらくバランスが悪かろう、ということもある。
しかし、「六月晦大祓詞」に、＜神漏岐命・神漏美命＞とカムロ{岐美}との表記があり、ご祭神とされている神社も存在するから、このような発想はハズレとされているようだ。
　　高天原爾神留坐須神漏岐神漏美乃命以知氐・・・
　　⛩幣立神宮＠阿蘇蘇陽/上益城山都大野…初代天皇の孫創建(阿蘇社の１ッと思われる。)
{岐美}は{男女}を意味すると断定されているらしいが(「神道大辞典」第１巻, 「神道事典」)、「古事記」の"妹＝美という記載からの推定と違うか。祝詞では、命を発するだけの最高神であり、生み出す役割はなさそうだからだ。この描き方だと、祖としての男女神とは言い難いのでは。
(伊邪那岐神・伊邪那美神譚には、初の男女交合や恋愛感情発生が描かれてはいるものの、青草でもあるヒトは、現代用語でいえば単性生殖的に発生することになっている。女神だけでも、男神だけでも大量に生むことが可能ということで、夫婦信仰を集めにくそう。)

不可解なのは、天照大御神の親神であるにもかかわらず、"宮中では祭祀の対象とされず、諸氏族にもこの神を祖先としたものが確認されない"(＠國學院大學古事記研究センターＤＢ)と言う状況。
天照大御神の神霊である八咫鏡は10代天皇の時に傍らから離れ、11代時に伊勢神宮に祀られた。外宮の豊受大御神については「古事記」に記載はないのでどのような扱いかはわからない。その神宮の月讀尊別宮創設は9世紀に入ってからと、かなり後世のこと。そこに、天照大神荒魂と月讀尊荒御魂が祀られ、祖神の伊佐奈岐宮と伊佐奈弥宮も別宮として境内社的に存在することになったようだ。
この時点で、天照大御神という最高神の元に、神々のヒエラルキー的位置付けが始まったのであろう。(内宮-外宮、正宮-別宮-摂社-末社-所管社の全125社)神々を生んだのは両親神であって、天孫の祖神である天照大御神とは異なる位置であるにもかかわらず、道教の官僚統制型マップに組み込むしかなかったようだ。

太安万侶は、こうした流れに合うような曖昧なストーリー展開を嫌ったことは間違いない。
読者に、そこらを自分の頭で考えてみよと、突き放すかのような記述がなされていると言わざるを得ないからだが。

換言すれば、対偶神は必ずしも婚姻関係を意味しなくなったことに気付け、と叱咤しているようなもの。

国家樹立には、王権と神権の確立が不可欠であり、この両輪が分権的ではあるものの相互補完関係をとりもつことで安定するというテーゼを打ち出しているとも言えよう。・・・天帝-天子の儒教的観念での＜皇帝独裁+官僚統治＞とは異にする、＜各地の支配層が冠する天皇+神々との協調的交流者たる巫女＞という政体を好む風土が根付いていると指摘しているようなもの。

要するに、地母神信仰と超人信仰から、初期は兄妹による国権掌握から始まったが、その体制がベストという根拠は薄弱なので、貴種の姫-彦体制はあくまでも初期であり、それからの変遷をよく見ておくようにとの意。大国主と少名毘古那の男神ペアでもよいし、女帝と宿祢もあるのだから。

「古事記」は仏教に触れていないが、その時代に入れば、男系天皇と皇女(斎王)という形態が一番おさまりがよくなっるのは自明。

こうした話と一見、無関係に見える、伊邪那岐伊邪那美神の話も、ここらを踏まえてから、眺める必要があろう。
高天原降臨とされている両神だが、大八洲で考えると、その出自と出会いはどうなっているか考えて見ヨ、ということでもあろう。宮と御陵の地は、極めて重要であるとの記述スタイルが貫かれているのだから。

宮は於淤能碁呂島。国生みで点々と移住した可能性はあるものの、神名付の島も多く、新たな宮を創設したとは思えない。普通に考えれば、墓地は於淤能碁呂島内か、その地をカバーする地域の葬地が選ばれそうなもの。📖オノゴロ島伝説の意味(2009年)
大倭豊秋津嶋内、出雲國と伯伎國の境や琵琶湖沿岸の地が選定される理由が見えてこない。
おそらく、「古事記」成立時点、比婆山の伊邪那美神信仰と、多賀大社前身の杜での伊邪那岐神信仰が確立していたから、このような記述になったと思われるが、その経緯のヒントがさっぱり見つかららない。勝手に、ここから意味を読み取れと言うわれても、なかなかに難しいものがあろう。

国生みの順序から見ると、伊邪那美神は黒潮から紀伊水道に入ったと思われるし、伊邪那岐神は日本海側から琵琶湖に入ったということで、両者の出会いが淡路辺りか。国生みの過程から見て、伊邪那美神の勢力が北九州から日本海へと進んで出雲地場勢力と融合し、神産巣日神-伊邪那美神-建速須佐之男命-大国主命の流れができたが、結局のところ、高御産巣日神-伊邪那岐神-天照大御神に流れが変わったということを示しただけとも言えそうだが、なんとも言い難し。

①初発に成った神々の最後　＠高天原
②成淤能碁呂島　＠天浮橋
③神の結婚　＠天之御柱・八尋殿
④国生み神生み　…淡嶋・淡道之穗之狹別嶋
⑤伊耶那美命避坐　＠出雲國與伯伎國堺比婆之山
　比婆山圏内
　　　⛩比婆山久米神社＠安来伯太
　　　⊥神納山:岩坂陵墓参考地＠松江八雲日吉
　　　⊥鳥上峰/御墓山＠日野日南船通山北
　　　⛩比婆山熊野神社/美古登＠庄原西城熊野
　比婆山圏外
　　　⛩花の窟神社＠熊野
⑥伊邪那岐命淚　＠香山之畝尾木本
　　⛩畝尾都多本神社＠橿原木之本
⑦伊邪那岐命斬其子迦具土神之頸　＠湯津石村
⑧黃泉國　＠黃泉比良坂
　　⇒出雲國之伊賦夜坂＠「出雲國風土記」意宇郡 ⛩伊布夜社
⑨禊[みそぎ]祓　…竺紫日向之橘小門之阿波岐原　("無称号"竺紫≠筑紫[嶋, 國])
　　⛩江田神社＠宮崎阿波岐原産母
⑩三貴子分治命
⑪完座　…淡海之多賀
　　⛩多賀大社＠近江国多賀
　　⛩伊弉諾神宮＠淡海多賀