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■■■ 「古事記」解釈 [2021.7.2] ■■■
[182] 天香久山信仰の不明瞭さ
海人の風習や封禅とも違いそうなのが、細かく行儀指定がなされている天の石屋戸前での祭祀。
天の香久山を特別扱いしているからだ。山信仰と言っても、この山の神が存在しているのか否かも判然とせず、特異である。すでに取り上げたが、実にわかりにくい。
  📖天の香久山伝承譚こそが肝

奈良盆地の香久山は多武峰から続く竜門山地北端にある。「万葉集」でも色々と詠み込まれており(漢字表記は不統一。)、高天原の山ということで人気があったようだ。(「古事記」の記述からすれば、高天原に存在する山の名であり、天降った山と考えざるを得ない。伊邪那美~が火~を生んで~避ったので伊邪那岐命は慟哭し、そこで涙から成った泣澤女~が香山之畝尾木本とされているし。)
  天香山の眞男鹿之肩を打ち抜き、
  天香山の天之波波迦を取り、 占いを取り仕切り、
  天香山の五百津眞賢木を根こそぎ掘り起し、
  ・・・
  天香山の天之日影を着け、 天の眞拆を着け、手草に
  天香山の小竹葉を結い、・・・

   【参考[「萬葉集」巻七#1096]】(詠山)
     いにしへの ことは知らぬを 我れ見ても 久しくなりぬ 天の香具山


この山信仰は何に当たるのかといえば、その他ということになろう。 📖錯綜する山信仰の世界
   【シンボル・・・海生業
   【真水・・・海人生活
   【畏敬・・・脅威観念
   【直接的生業・・・山野
   【間接的生業・・・里(農耕)
   【他】 墓地、修行地、等

そういうことか。

なんといっても、植生や土壌は、それぞれの丘で多少の違いはあるものの、この山だけを特別視すべきとは思えない、という点が重要。つまり、特徴はないが、奈良盆地南半分を代表する山に設定したに過ぎずということ。しいてあげるとすれば、居住者にとっては行くのに便利。
それに、形状の秀麗さが目立つとも言い難いのでは。藤原京を囲む大和三山のなかでは、山脈末端の様相を呈しており、他の2山のように、盆地に浮かんでいるかのようなお椀を伏せた形状の丘と違って、のっぺりしているからだ。
 [東]天香久山152m
 [西]畝傍山199m
 [北]耳成山140m

しかし、それでよいのである。

天照大御神の統治する高天原は、田はあり、機織り場ありの地。ところが、天の石屋戸にお隠れになってしまい、暗闇になってしまい大騒動。
そこで、総員での魂再生の祭祀挙行となった訳だ。
どなれば、天照大御神が誕生した葦原中国の海に係わる呪物が用いられるのではあるまいか。それが天香山にある諸々ということになろう。

大御神再生の儀式だが、天帝との交信のための封禅と違って、海人の葬制伝統を引き継ぎながらの、内陸型祭祀の行儀に徹している筈だ。

と言うことで、少々、考えてみよう。

もともと海人は水葬(お船流し)だろうが、それが洞窟あるいは磯での放置風葬(遺体遺棄)に変わって行ったというか、リーフ外へ運ぶこと自体大事だから、原則的には邑で遺棄の場を決めていたと考えてよかろう。当然ながら、内陸でもよいことにもなってくる。
しかし、こう書けば単純だが、葬儀の祭祀場所は何処かと言う問題が付きまとう。このような遺体安置場だと、天の石屋戸前のような祭祀庭を開設できる可能性は希だからだ。そんなところから、洗骨改葬が定着するようになったとも言えるのではないか。

これを踏まえて、奈良盆地南部の状況を考えてみよう。

海人的伝統から言えば、遺体は遺棄されることになる。邑・野良といった日常生活域から隔絶しており、海原での磯に当たる地が選ばれることになろうから、河原か山野としての野原ということになろう。洞窟や磯とは違うとは言え、矢張り、祭祀場としては不適地と言わざるを得まい。 📖南島と本土の創世神話の関係
そこで選ばれた祭祀場が、各野原に繋がる峰々が続く山脈の北端となっている丘ではないか。遺体や遺骨の埋葬の場ではないが抽象的"墓"ということになる。遺骸には穢れがあり、安置の地は避けるべき対象なのだから。
要するに、清浄化された(野原の遺体が朽ち果て白骨化しているという意味。)死者の霊が移動してくる場として設定されたことになろう。それは諸々の霊であり、一括した名称の付けようがなかろう。・・・天香久山の祭祀用品を取り揃えた理由は、神々総意で清浄なる地にすることで、再生を願うという意思表明と見てのこと。

山の側に墓所があるとの観念は一般的だったと見る。・・・伊邪那美命/黄泉津大神の墓所は、出雲と伯耆との堺にある比婆山だからだ。実在の地と思うが、比定地はなんとも言い難し。
 ▲神納山@八雲
 ▲峯山-久米神社@安来伯太横屋
 ▲立烏帽子山@庄原-熊野神社

ついでながら、初瀬川を境界と見て、その北側での同様な役割は三輪山や春日山ということになりそうだ。
諸々の祖先の霊の地だが、こちらの場合は神名があり全く別な信仰が被さっていると見てよさそう。

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