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■■■ 「古事記」解釈 [2021.8.11] ■■■
[222] 御綱柏は隠蓑だろうか
豐樂に使うため、皇后が船で木國に"御綱柏"を調達に行った話がある。

    《皇后嫉妬の八田若郎女譚@[16]仁徳 📖小小坊登場には仰天
  其太后石之日賣命甚多嫉妬・・・
   (K日賣譚)・・・
  自此後時 太后爲將豐樂 而
  於採御綱柏 幸行木國之間
  天皇婚八田若郎女・・・
  於是 太后大恨怒
  載其御船之御綱柏者 悉投棄於海・・・
  即 不入坐宮 而 引避其御船
  泝於堀江 隨河 而 上幸山代
  此時歌曰:
   つぎねふや 山代川を 川上り
   吾が上れば 川の辺に 生ひ立てる
   烏草樹を 烏草樹の木
   其が下に 生ひ立てる 葉広斎つ真椿・・・

一般に、柏≒炊葉/食敷葉とみられており、儀式に使う葉であるのは間違いないが、葉の利用ルールがわかっている訳ではない。📖葉が食事用品として使われた木・・・

 ・炊葉(キッチンペーパー)・・・柏
 ・菜葉(葉皿)・・・赤芽柏
 ・飯盛葉・・・飯桐
 ・大きなものの包材・・・朴
 ・小さなものの包材・・・柿
 ・粽用包材・・・茅、笹
 ・旅路での供物皿・・・椎
 ・正式な供物用工藝皿・・・柏
 ・正式なマット・・・蓮
 ・鄙でのマット・・・芋


御綱柏/みつながしは≒三角柏と見ることと、風日祈祭@陰暦7月4日伊勢神宮の柏流神事では三角柏(みつのがしわ)を流し作物の豊凶を占うことを参考にして、樹木を推定しているものの諸説併存である。葉が三つ割れのカクレミノは茶亭で見かけるせいもあるのか一番人気で、次ぐのは南島で料理に使われる大谷渡のようだ。わざわざ紀伊へ渡航するのだから、デザート的に苺採りを兼ねるのも一興ではと思ったりもするが。・・・
  隠蓑/三菱果樹参[常緑亜高木]@ウコギ科…海辺棲息
  大谷渡/大鱗巣蕨(山蘇花)[常緑多年草(羊歯)]@チャセンシダ科…紀北が棲生北限
  赤芽柏/野梧桐[落葉高木]@トウダイグサ科…柏名
  冬苺/寒莓[常緑匍匐性小低木]@バラ科…森中
  三角(ミカド)(伊豆千両)/杜茎山[常緑低木]@ヤブコウジ科

御綱としているのは、船を綱で引かせ、堀江から山代川を上った切欠になった柏ということで、三角柏の呼び変えを図ったことになるが、普通に考えれば、そう言える根拠は薄いと言わざるを得ない。
文脈と、そこから伺える皇后の姿勢を見る限り、これは、道教から見た"本物の柏"を意味している可能性が高いからだ。そうなると、江戸中期に渡来したとされる、針葉樹ヒノキ様の葉である"児の手柏"(ヒノキの葉は水平方向だが、垂直方向で児の掌的。)の代替的檜の種と見なすのが自然。・・・
---広葉樹(ドングリ系)---
○クリ ○シイ ○ブナ ○マテバシイ
○コナラ 📖ドングリ時代を想定していたか
 小楢・水楢・楢柏・蒙古柏
 
/槲樹
 椚木
クヌギ・dアベマキ
 姥目樫
 赤樫・一位樫・粗樫・葉長樫
/薩摩樫
      沖縄裏白樫・白樫・裏白樫・衝羽根樫

---針葉樹---
 児の手柏/側柏…おそらく渡来種

ここらの論理には細心の注意が必要である。全く別な話が混在しており、都合に合わせて読まないようにしたい。
 かしわ=炊葉⇒食敷葉…倭の用法
 炊葉≒柏…倭の当て字
 カシワ=[広葉樹]槲樹≠柏…大陸用語
 [針葉樹]側柏=児の手柏…倭訳
一番自然な解釈は、倭では、中華帝国用語の[針葉樹]側柏=炊葉とされたということ。しかし、炊葉の定番は[広葉樹]カシワであり、似ても見つかぬほどの違いである。その結果が、現行の用語設定。

現代でも、飾り的に[針葉樹]檜の葉を敷いて生鮮魚介等を販売する方法は愛されているが(ヒノキチオール効果で意味があると見られている。高級茸の箱詰めクッション材とは異なる用途。)、都会のお洒落なお店が好むこともあって、採りに行くのではなく手近にある鉢植えの常緑モダンコニファー"立ち児の手"(エレガンテシマ)を使ったりするようだ。

そのためコノテガシワをそのように使っていたと考えがちだが、その通りでもあり、そうでは無いとも言える。ここが肝要な点。

コノテガシワは樹高もある針葉樹(綱形葉)で、どう見ても中国北部辺りというか、中原の民の巨木信仰対象。(漢武帝代にすでに皇帝崇拝樹。)その地で、道教的養生の見地から"柏"として重視されたということなら、食の敷物ではなく、第一義は炊葉となろう。南方だと広葉樹の葉を巻いて蒸す粽とか、葉包食材を焚火や焼き石調理になろうが、北方では水入容器に針葉樹の葉を詰め込んで万頭や肉を入れた蒸調理方法になるからだ。
倭は南方海人系調理方法主体なので、柏≒炊葉という意味からくる用字にしたものの、コノテガシワの葉は表裏の判別は難しいほど平面的なので、敷物用途として養生法適合の葉とされたと思われる。
わざわざ紀伊まで採取に行くまでもなさそうに考えがちだが、コノテガシワに似ている長生効果あるとされる、皇后のお眼鏡にかなう立派で、表裏の違いが余り目立たない檜葉を捜すのはそう簡単な訳ではなかろう。(中華帝国では檜は自生種として認知されていない。)

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