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■■■ 「古事記」解釈 [2021.12.3] ■■■
[336]中巻の倭建命関連所収歌15首検討
倭建命初代天皇段での収載歌を考えると、武人としての征服成果を示して万々歳的な歌が並んでもおかしくないと思うが、悲劇的様相を描くことに主眼がおかれており、実に対比的である。
ただ、騙し討ち成功を高らかに誇ると受け取れるような1首を最初に提示している。これは一応の体裁と見てよいだろう。歌の内容は、実は、得意三昧な訳ではなく、相手を貶めるような表現であり、読み方によってはつまらぬ騙しにひっかかった不運な輩と映ってもおかしくないようになっている。

そうなると、悲劇の英雄の叙事詩に仕上げるには無理がありそうにも思えてくる。歌には、中央への憧憬を胸に秘めながら、地方制圧を急いだという風情が漂っている。そんな観点で眺めれば、弟橘比売命の入水は、東征の一環ではあるものの、雅の世界から外に出たことになろう。尾張帰還で婚姻を急いだように、鄙の荒々しさの世界で生きる決断を迫られたと言ってよいだろう。
その辺りを反映してか、<大御葬儀歌>は洗練された短歌形式になっているし、倭建命の歌も長歌とはいえ、類似の形式になっている。しかし、思國歌2首だけは古層の形式である。
   《上巻》…9首 📖
   《中巻初代天皇段》…13首 📖
   《中巻10代天皇段》…1首 📖
   《中巻倭建命関連》…15首
<出雲健騙し討ち成功で得意三昧>…1首
<妻の身を捧げる愛>…3首
<東征完了後帰還し かねての約束通り初夜>…2首
<辞世的に、最後の気力で心持発露>…5首
<葬儀で遺族は深い悲しみに陥る>…4首

---小碓命/倭男具那命/(倭建命)/(大帶日子淤斯呂和氣天皇皇子)
[_24]【倭建命】出雲健討伐自賛
    やつめさす 出雲建が 佩る太刀
    黒葛多纏[巻]き さ身無しに あはれ

[_25]【(后)弟橘比賣命】入水辞世
    さねさし 相武の小沼に 燃ゆるこの
    火中に立ちて 問ひし君はも

[_26]【倭建命】「吾妻はや」と歎息@甲斐国酒折宮
[_27] └【御火燒之老人】
    新治 筑波を過ぎて 幾夜か寝つる
    ↓
    日々並べて 夜には九夜 日には十日を
[_28]【倭建命】初夜@所期の地
[_29] └【美夜受比賣】答御歌
        美夜受比賣其於意須比之襴著月經 故 見其月經 御歌曰:
    久方の天香久山 利鎌に さ渡る鵠 繊細 手弱が腕を枕かむとは 吾はすれど
    さ寝むとは吾は思へど 汝が着せる 衣裾の裾に 月立ちにけり

    ↓
    高光る日の皇子 八隅しし我大王
    新瑞の年が来経れば 新瑞の時は来経行く
    うべなうべなうべな 君待ち難に 我が着せる 衣裾の裾に 月立たなむよ

[_30]【倭建命】伊吹山より敗走@尾津岬一本松
    尾張に 直に向かへる 尾津の岬なる 一つ松
    吾兄を 一つ松 人に在りせば 太刀佩けましを 衣着せましを 一つ松 吾兄

[_31]【倭建命】伊吹山より敗走思國歌
    倭は国のまほろば たたなづく 青垣山籠れる 倭し麗し
[_32]【倭建命】伊吹山より敗走思國歌-無事な人へ
    命の全けむ人は 畳薦 平群の山の 熊樫皮を 髻華に挿せ その子
[_33]【倭建命】辞世的[片歌]故郷を見上げ感慨
    はしけやし 我家の方よ 雲居騰ち来も
[_34]【倭建命】辞世的草薙剣と美夜受比賣を思って
    少女の床の辺に 我が置きし 剣の太刀 その太刀はや
[_35]【倭建命后御子等】<大御葬儀歌>逝去悲嘆
    水漬きの田の 稲柄に 稲柄に 匍匐廻ろふ 野老葛
[_36]【倭建命后御子等】<大御葬儀歌>倭建命白鳥に化身
    浅小竹原 腰難む 虚空は行かず 足よ行くな
[_37]【倭建命后御子等】<大御葬儀歌>白鳥追走@海辺
    海処行けば 腰難む 大河原の植ゑ草 海処は猶予ふ
[_38]【倭建命后御子等】<大御葬儀歌>白鳥飛翔@磯伝い
    浜つ千鳥 浜由は行かず 磯伝ふ

  [_24]
 やつめさす____…5┐
 いづもたけるが__…7┘
 はけるたち____…5┐
 つづらさはまき__…7┤
 さみなしにあはれ_…8┘

  [_25]
 さねさし_____…4┐
 さがむのをぬに__…7┘
 もゆるこの____…5┐
 ほなかにたちて__…7┤
 とひしきみはも__…7┘

  [_26]
 にひばり_____…4┐
 つくばをすぎて__…7┤
 いくよかねつる__…7┘

  [_27]
 かがなべて____…5┐
 よにはここのよ__…7┤
 ひにはとをかを__…7┘

  [_28]
 ひさかたの____…5┐
 あめのかぐやま__…7┘
 とかまに_____…4┐
 さわたるくび___…6┘
 ひはぼそ_____…4┐
 たわやがひなを__…7┘
 まかむとは____…5┐
 あれはすれど___…6┘
 さねむとは____…5┐
 あれはおもへど__…7┘
 ながけせる____…5┐
 おすひのすそに__…7┤
 つきたちにけり__…7┘

  [_29]
 たかひかる____…5
 ひのみこ_____…4
 やすみしし____…5┐
 わがおほきみ___…6┘
 あらたまの____…5┐
 としがきふれば__…7┘
 あらたまの____…5┐
 ときはきへゆく__…7┘
 うべなうべなうべな…9○○○
 きみまちがたに__…7
 わがけせる____…5┐
 おすひのすそに__…7┤
 つきたたなむよ__…7┘

  [_30]
 おはりに_____…4┐
 ただにむかへる__…7┤
 をつのさきなる__…7┘
 ひとつまつ____…5○
 あせを______…3○
 ひとつまつ____…5┐
 ひとにありせば__…7┤
 たちはけましを__…7┘
 きぬきせましを__…7
 ひとつまつ____…5○
 あせを______…3○

  [_31]
 やまとは_____…4┐
 くにのまほろば__…7┘
 たたなづく____…5
 あをかき_____…4
 やまごもれる___…6
 やまとしうるはし_…8

  [_32]
 いのちの_____…4
 またけむひとは__…7
 たたみこも____…5
 へぐりのやまの__…7
 くまかしかはを__…7
 うずにさせ____…5
 そのこ______…3○

  [_33]
 はしけやし____…5┐
 わぎへのかたよ__…7┤
 くもゐたちくも__…7┘

  [_34]
 をとめの_____…4┐
 とこのへに____…5┘
 わがおきし____…5┐
 つるぎのたち___…6┤
 そのたちはや___…6┘

-----<大御葬儀歌>-----
  [_35]
 なづきのたの___…6
 いながらに____…5
 いながらに____…5
 はひもとほろふ__…7
 ところづら____…5

  [_36]
 あさじのはら___…6
 こしなづむ____…5
 そらはゆかず___…6
 あしよゆくな___…6

  [_37]
 うみがゆけば___…6
 こしなづむ____…5
 おほかはらの___…6
 うゑぐさ_____…4
 うみがはいさよふ_…8

  [_38]
 はまつちどり___…6
 はまよはゆかず__…7
 いそづたふ____…5


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