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■■■ 「古事記」解釈 [2021.12.16] ■■■
[349]「孝経」的事績集化回避
「古事記」成立の712年、"国破れて山河在り"の杜甫が生まれた。
時代感覚を掴むには、ここらが一番ではなかろうか。

そんなことをついつい考えてしまうのは《国見》について書いてみたから。
 "俗に言う国見の「古事記」解釈348概念は曖昧過ぎる"… 📖㊤ 📖㊥ 📖㊦

普通のセンスで読めば、以下2点は、驚くべき描き方ということで。・・・
○初代天皇が郊祀を行った気配は感じられない。天帝かつ祖先神に当たると思われる天照大御神から命を受け、力を賜わって即位したことが縷々記載されているが、祭祀を行った話は収載されていない。
○後世"仁徳"と号された16代段では、"登高山見四方之國"の儀式が行なわれたとされるが、竈の煙云々という新しい観念を披歴したことが強調されている。しかも、この大雀命は、国生みからの伝統たる寿ぎ的儀式を別途行ったとはっきり記載されている。ただ、そこには国家的祭祀のトーンは全くない。天皇を巡る、皇后 v.s. 妃の三角関係バトルの一環としての行事扱いなのだ。妃を追う瀬戸海行幸の端緒として突如登場してくるのだ。

これこそ、まさに、「古事記」成立頃の時代感覚を直に示していると言えるのでは。

つまり、儒教国家たる中華帝国に倣って、国家体制を一新するべく発生した奔流に、真っ向から棹差すが如く、それとは全く異なる地平を"用心深い記述姿勢で"完璧に描いていることになろう。

この、「古事記」成立712年とは、時あたかも大宝律令施行直後である。儒教的統治貫徹に向けて全力疾走している時期と言ってよいだろう。官僚層は「孝経」の思想一色に染め上げられたと見て間違いない。
おそらく、伝統的な祭祀・儀礼は、儒教の宗族祖尊崇と中華帝国型の天帝信仰と混淆されていったに違いなかろう。

太安万侶は、そんななかで、連綿と受け継がれて来た慣習の底流である、倭の精神を描き抜こうと決意したのである。

従って、「古事記」は、国史のスタンスとは180度異なってしまう。言ってみれば、「孝経」的事績集 v.s. 非宗族社会の風土提示の書ということになろう。思想的に真っ向から対立していると見てよかろう。
「古事記」記載内容の核心たる、氏族祖を組み込んだ皇統譜にしても、宗族第一主義宗教としての儒教へのアンチテーゼと考えることもできるのである。

おそらく、太安万侶からすれば、東アジアの国際情勢を鑑みれば、天皇は「孝経」的天子として振る舞い、絶対的権力を持ち、官僚統治機構を動かす必要があるのは当たり前ということになろう。しかしながら、これは180度の方向転換を図る動きであり、捨て去ることになる倭の伝統精神を残しておかねばならぬ、と言ったところ。

中華帝国からすれば、この時代、それほど倭に関心があった訳ではないことがわかる。朝鮮半島〜満州・東北部の支配を常に視野に入れながらの動きに、たまたま倭も入って来ると考えるべきだろう。だからこそ、半島とは違って、倭国だけが戦乱に巻き込まれずに済んだとも言えよう。このことは、倭国は、半島の事実上の宗主国的地位から滑り落ちていたことを意味する。この地域のOne of themと見なされていたことになろう。おそらく、朝廷は、その原因を、相対的な経済力低下と、非儒教国家である点、と総括したであろう。そのため、中華帝国の仕組み模倣路線へと、急遽、転換を図らざるを得なくなったと思われる。--- 「古事記」成立頃の中華帝国書から見た日本国の対応 ---
629年-舒明1-貞観3
    <玄奘西域経由天竺へ出立>
631年-舒明3-貞観5
    遣使者入朝[「新唐書」220列伝145東夷日本]
640年-舒明12-貞観14
    高麗 及 百濟 新羅 高昌 吐蕃 等諸國酋長
    亦 遣子弟請入於國學之内
    [「旧唐書」189上列伝139上儒学上序文]
653年-白雉4-永徽4
    <日本僧道照入唐>
654年-白雉5-永徽5
    倭國獻琥珀碼碯・・・[「旧唐書」4本紀4高宗上]
n.a.-(?斉明)-永徽
    新羅將赴日本國海中遇風波濤大起
    數十日不止隨波漂流[「太平廣記」巻481新羅]
658年-斉明4-顯慶3
    <日本僧智通入唐>
665年-天智4-麟徳2
    及封泰山 仁軌乃率
    新羅 百濟 儋羅 倭
    四國酋長赴會[「新唐書」108列伝33劉仁軌]
670年-天智9-総章3
    號日本 使者自言:
    「國近日所出 以爲名」[「新唐書」220列伝145東夷日本]
702年-大宝2-長安2
    大臣朝臣眞人來貢方物[「旧唐書」199上列伝149上東夷日本]
712年-和銅5-太極1
    <「古事記」成立>

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