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■■■ 「古事記」解釈 [2022.6.12] ■■■
[527]山野所在草木文字
小生は、「萬葉集」登場の植物名の語源探索にほとんど意味はないと考えているが、好みではある。ほとんどフィクション的読み物と同一次元と云うこと。
そもそも、草木をどのように呼んでいたかさえ、記載文字から同定できないことが多く諸説あるのが普通。それどころか、当該植物さえ定かでない場合が多いのだから、それ以前の情報無き時代での話になる語源云々など無理筋。

とはいえ、表記漢字-植物呼称-実際の植物を様々な観点から考えることは、素人にとっては結構意味がある。古代感覚に多少は近付けそうな気がするからだ。
なかでも重要なのは分類観。
現代の見方はあくまでも生物学の進化論的分岐分類だが、「古事記」成立時点で類似の発想があったとは思えないからだ。だからといって、いくら一所懸命に考えたところで、はなはだ心もとない答しか得られない。例えば、針葉樹を取り上げたが📖、はたして広葉樹との大分類発想があったかさえ定かではないのである。針葉樹林感覚があるなら、地表に這うように存在するコケ(木毛 苔 蘚 薜 莓)が登場してもおかしくないと思うし、特定の1ヶ所だけ師太があるものの、全面的にシダ植物があってしかるべきとなるが、そうはなっていないからだ。
もっとも<蘿>はソレかも知れぬ、という気もする。
  彼目如赤加賀智 而 身一有八頭八尾
  亦 其身生<蘿>及<檜><榲>其長度谿八谷峽八尾 而

    ("すぎ": 檆⇒杉/杦 榲=榅≠椙)
    (祭事用日陰鬘(蔓)[=蘿]の外見はカズラ系ではなく、杉苔類縁に映る。)
全体観からすれば、上記の出雲地区の植生には注視しておく必要がありそう。古代の金属精錬技術では、森林は早晩丸坊主になってしまうからだ。(非針葉樹林の里山での伐採制御と柴・落葉燃料型のエネルギー確保とは次元が異なる大量消費。従って、軍事覇権や商業勢力ではなさそうな出雲勢力は、中国山地での燃料不足に直面し、没落を余儀なくされたと言えよう。楠・椨の巨大樹依存南島系勢力の没落後、扱い易い針葉樹の杉が代替したのだろうが、結局は同じこと。)

地域的には出雲は日本列島植生の代表例とは言い難いが、(桃・柿・梨は登場せず、栗も一部郡。「古事記」にない李が登場する。)情報は他にはないので、ここらを眺めるしかない。(「万葉集」は一に花という観点で歌が収載されており、抒情を歌の形式に凝縮させることを第一義にしているが、「古事記」は叙事詩をできる限り伝える方針なので、草木をどう捉えているかを考える際は並べて検討するのは考えモノ。)

しかし、ルビが振ってある岩波のテキストを参照したからといって、素人にとっては、理解が深まるどころの話ではない。大半が、どのような草なのか想像もつかないし、どうして選ばれたのか思案に暮れかねないからだ。
(もっとも、注によれば薬草とのこと。出雲國から燃料雑薬として納めさせた53種の一部。薬名としての植物名表記は、漢語をそのまま使い、読みもママだが、原料として生えている植物名は倭語と考えるべき、ということか。
と云うことは、記載されている"藤"以降も有用性がある商品的産物ということになりそうだ。)


「出雲國風土記」の木本記載は考えさせられる点をいくつか含む。
藤はそうそう自然に生息地が広がるものでもなかろうから、栽培かも。「古事記」からすると、衣料用繊維としての意義があったからか。桑は無い。
「古事記」では、ドングリ系木本が目につくが、出雲全域では必ずしもそのようになってはいない。
椿は油糧産物としての定番ということか。
南方系(楠や楊梅)と松(北方種であろう)という組み合わせは気候条件を考えると驚きである。
「古事記」が、芋/薯/藷といった根茎澱粉植物用文字を使っていないのは、南系文化を仕訳しているのかも知れない。

「出雲國風土記」"凡諸山野所在草木"
【意宇郡】
麥門冬やますげ 獨活つちたら 石斛いはぐすり 前胡のぜり 高良姜かうらはじかみ 連翹いたちぐさ 黃精おはゑみ 百部根ほとづら 貫眾おにわらび 白朮をけら 署預やまついも 苦參くらら 細辛みらのねぐさ 商陸いをすぎ 藁本さはそらし 玄參おしぐさ 五味子さねかづら 黃芩ひひらぎ 葛根くずのね 牡丹ふかみぐさ 藍漆やまあさ わらび
ふぢ すもも ひのき すぎ/椙 赤桐あかぎり 白桐あをぎり/梧 くすのき しひ 海榴つばき/椿 楊梅やまもも まつ かへ/榧 きはだ つき
 {山}
 {池}芹菜 椎 松 多年木 宇竹[=淡竹/呉竹] 眞前葛 莘 薺頭蒿 都波 師太 椿 比佐木 蕨
 {嶋}永蓼

【嶋根郡】
白朮をけら 麥門冬やますげ 藍漆やまあさ 五味子さねかづら 獨活つちたら 葛根くずのね 署預やまついも 卑解ところ 狼毒やまくさ 杜仲はひまゆみ 芍藥えびすぐすり 茈胡のぜり 苦參くらら 百部根ほとづら 石斛いはぐすり 藁本さはそらし
ふぢ すもも 赤桐あかぎり 白桐あをぎり 海柘榴つばき くすのき 楊梅やまもも まつ かへ
 {池}
 {嶋}茅 莎[=蚊帳吊草⇒[生薬]香附子] 薺頭蒿 蕗 桑 麻 椎 海石榴 白桐 松 芋菜 都波 橿 茅 葦 松 椿 白朮 小竹 芋 茨

【秋鹿郡】
白朮をけら 獨活つちたら 女靑かはねくさ 苦參くらら 貝母ははくり 牡丹ふかみぐさ 連翹いたちぐさ 伏令まつほど 藍漆やまあさ 女委ゑみくさ 細辛みらのねぐさ 蜀椒なるはじかみ 薯預やまついも 白歛やまかがみ 芍藥えびすぐすり 百部根ほとづら 薇蕨わらび 薺頭蒿おはぎ
ふぢ すもも 赤桐あかぎり 白桐あをぎり しひ 椿つばき くすのき まつ かへ つき
 {山}(樹林) 蘿 藤 荻 葦 茅
 {池}葦 蔣 菅
 {濱}桑 麻

【楯縫郡】
蜀椒なるはじかみ 藍漆やまあさ 麥門冬やますげ 伏令まつほど 細辛みらのねぐさ 白歛やまかがみ 杜仲はひまゆみ 人參かのにけぐさ 升麻とりのあしくさ 署預やまついも 白朮をけら
ふぢ すもも かへ にれ しひ 赤桐あかぎり 白桐あをぎり 海榴つばき くすのき まつ つき
 {埼}松 栢

【出雲郡】
卑解ところ 百部根ほとづら 女委ゑみくさ 夜干からすあふぎ 商陸いをすぎ 獨活つちたら 葛根くずのね わらび
ふぢ すもも 蜀椒なるはじかみ にれ 赤桐あかぎり 白桐あをぎり しひ 椿つばき まつ かへ
 {川}五穀 桑 麻 (材木)
 {埼}松 椎 楠 椿

【神門郡】
白歛やまかがみ 桔梗ありのひふき 藍漆やまあさ 龍膽えやみぐさ 商陸いをすぎ 續斷やまあざみ 獨活つちたち 白芷よろひぐさ 秦椒かははじかみ 百部根ほとづら 百合ゆり 卷栢いはくみ 石斛いはぐすり 升麻とりのあしぐさ 當歸やまぜり 石葦いはかしは[=羊歯裏星] 麥門冬やますげ 杜仲はひまゆみ 細辛みらのねぐさ 伏令まつほど 葛根くずのね 薇蕨わらび
ふぢ すもも 蜀椒なるはじかみ ひのき すぎ かへ 赤桐あかぎり 白桐あをぎり 椿つばき つき つみ にれ きはだ かぢ
 {山}柂 枌 (樹林)
 {山}(林) 松

【飯石郡】
卑解ところ 升麻とりのあしぐさ 當歸やまぜり 獨活つちたら 大薊おほあざみ 黃精おほゑみ 前胡のぜり 署預やまついも 白朮をけら 女委ゑみくさ 細辛みらのねぐさ 白頭公おきなぐさ 白芨かがみ 赤箭かみのや 桔梗ありのひふき 葛根くずのね 秦皮とねりのこのき 杜仲はひまゆみ 石斛いはぐすり
ふぢ すもも すぎ 赤桐あかぎり しひ くすのき 楊梅やまもも つき つみ にれ まつ かへ きはだ かぢ
 {山}鹽味葛 杉 松

【仁多郡】
白頭公おきなぐさ 藍漆やまあさ 藁本さはそらし 玄參おしくさ 百合ゆり 王不留行かさくさ 薺苨さきくさな 百部根ほとづら 瞿麥なでしこ 升麻とりのあしぐさ 拔葜さるかき 黃精おほえみ 地楡ゑびすね[=海老根] 附子おう 狼牙こまつなぎ 離留ねあざみ 石斛いはぐすり 貫眾おにわらび 續斷やまあざみ 女委ゑみくさ
ふぢ すもも ひのき すぎ かし まつ かへ くり つみ つき きはだ かぢ
 {山}鹽味葛

【大原郡】
苦參くらら 桔梗ありのひふき 䓊茄むこぎ 白芷よろひぐさ 前胡のぜり 獨活つちたら 卑解ところ 葛根くずのね 細辛みらのねぐさ 茵芋につつじ[=深山樒] 白前のかがみ 決明えびすぐさ 白歛やまかがみ 女委ゑみくさ 署預やまついも 麥門冬やますげ
ふぢ すもも ひのき すぎ かへ かし なら 椿つばき かぢ 楊梅やまもも つき きはだ
 {山}枌 檜

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≪⾋≫
【現代用語】
芝花芳芸芽若苦草荒菜落葉著葬蔵薦薬
芋苗英茂茎茶荘荷菊菌菓華蒸蓄薄薪薫藩藻

【古事記用語】
芝花芳藝[芸]若苦草荒菜落葉著葬蔵薦薬
<葦
/芦/蘆/葭><葛><蘇><菟><茲><萬><茨><菩><苅><葺><莫><萎><菅><蒲><藤><藍><菘><苑><蕃><荏><蒜><萌><茹><莚><莪><蓴><蓼><蘿><荻>
【国字】
かつら ござ やち
≪⽊≫
【現代用語】
木未末本机材村束来東松板析林枝枯柄柔柱栄根桃桑桜棄植楼楽権横樹橋機
朱朴札朽杉条杯枚果枠枢架某染柳査栓校株核格栽案梅桟械棋棒棚棟森棺検業極概構様槽標模欄

【古事記用語】
木未末本机材村束来東松板析林枝枯柄柔柱栄根桃桑桜棄植楼楽権横樹橋機
<杼><櫛><楯><椎><橘><椅><檮/梼><柴><杖><柏><杵><杙><椽><栗><桧/檜><梨><榛><枕><榲><槁><牀><柿><槌><楠><樋><楓><榔><梳><梭><檳>

【国字】
かし かし かば(⇒麹/糀の当て字にも使用) くぬぎ くぬぎ さかき しで すぎ そま 欟/𣠤つき 栃/杤とち なぎ つが たぶ ぬで
ほくそ 柾/枡/桝ます むろ もく わく はんぞう いり ふもと こがらし
じさ
≪竹≫
【現代用語】
竹第等筋筒答箇節簿
笑笛符筆策算管箱範築篤簡籍

【古事記用語】
竹第等筋筒答箇節簿
<筑><笠><竺><箭><箸><簀><篭><筌><筝>

≪米≫ 📖米と粟と稲 📖米と禾と粢
【現代用語】
米粒
粉粋粗粘粛粧精糖糧

【古事記用語】
米粒
<粮><糠><粟>

【国字】
こうじ うるち すくも すくも ぬか もみ くめ
≪禾≫
【現代用語】
私秋科称移稚種稲穀穂積
秀秒秘租秩程税稼稿穏穫

【古事記用語】
私秋科称移稚種稲穀穂積
<稍><穢><稽><秦>

【国字】
(ヨウ)

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